音頭
いつも通りの納品を川を下りながら行く。
「どんぶらこ、どんぶらこっこと」
ちょっと前に川下りにはこれだ!!とこの音頭を警備員に教えられたのだが、なんとなく口ずさむと心が弾む。丸太組みを川で運びながら、えいやーこーらーと陽気に行く。流れるだけなのだが方向維持が結構な腕力仕事だ。
川下りも順調に終わり町裏の波止場にいつも通り引き揚げ、引き渡し証を受け取る。水揚げ場ではマッチョがその筋肉を見せつけるように仕事をしていた。本当にはマッチョ暑苦しい存在だった。仕事に影響はないんだけども。
特に変わった遣り取りも無かったので、町へ向かう。門もいつも通りで簡単な会話をして町の中へと入る。
まずは納品を完了する為に親方の所に中央通りを歩いて行く。相変わらず森とは違って賑わっている。その分歩幅の差でよく追い抜かれる。
グヌヌ。
鬱屈している間に親方の店に着き、裏口に廻って入る。今日は定期便なので、誰でも良かったのだがそのまま二階の事務所へ上がる。
「親方居るかい?」
声を掛けて入ると親方は相変わらず机で書類を相手に唸っていた。
「親方納品に来たよ」
間近で声を掛け直すと親方も気づき返事を返してくれた。
「おう、アルシェか」
「はいこれ今日の分」
預かっていた札を渡して改めて机の上を確認する。
書類が散乱してるが、山にはなってはいないので一応こまめに処理出来たのだろう。
「それじゃ今日はこれで」
「なんだ手伝っていってくれないのか」
そう残念そうに言われても手伝うほどの仕事でもないと思うし。
「こないだ厄介事があって、その対策用に道具屋回る予定なんだ」
「厄介事?そりゃいったいどういう事だ」
急に目つきが険しくなる親方だが、ほかの人なら恐怖で引きつりそうな眼力だ。
若干私もビクっとした。
「こないだ自称勇者が訪ねてきて、仲間になれとか言ってきたの。世界の危機で私の力が必要とからしいけど」
「勇者ってーと、あれだろ。昔話に出てくる英雄とかに、偶に紛れてるやつ」
「そうなんだ?正直良くは知らないけど、世界の危機を救う為に旅をするから付いてこいと言われたんだけどね。伝説の英雄様のように凄い能力があるわけでもない一般人だし、私の代役なんて冒険者ギルドでも行けばいくらでもいるのでお断りしたかったんだけど」
能力的な部分を考えればどう考えても、自分より上の人はいるので本気で世界を救う気なら他を探すべきだ。
「とにかく人の話が理解できない上にしつこくて、仕方なく適当な話を作って追っ払った訳。それでもまた来るかもしれないから、一応でも対策を講じておこうとね」
「世界の危機か、そりゃまた大層な理由だな。そんな事が起こるならこんな田舎の町でも噂話の一つでも聞こえそうなもんだが。たしかにそんなんじゃ自称なんだろうな」
「なんにしても厄介事で関わり合いにはなりたくないんだけど、荒事になっても困るからそうならないためにも準備をする予定」
「そうか、何かあったらここに逃げ込めば助けてやる。余り無理はするなよ」
「ありがと親方、まあ何もとは思うんだけどね。その時は遠慮くなく助けてもらう事にするよ」
それじゃあと挨拶をして親方の元を後にする。
親方「勇者か、ザップの奴に少し情報集めさせておくか」