森に来た勇者
「悔い改めるも何も、どの神を信仰するかなんて個人の自由だよ。神の神託が有ろうが無かろうが従う義務もない」
「なっ、なんて事を!!神罰が下りますよ!!」
シスターの女性はかなり取り乱し始めている。自分の進行する神に関する事には熱くなりやすいのは信者に多い症状だな。
「この程度で神罰なんて聞いたことも無いし、事実だったら一日何回神罰をみるやら。神様はそれほど地上へ干渉なんてして来ない」
「この罰当たり!!今すぐ地に額を擦り付け神に許しを請いなさい。大体この国の者たちは全能なる神への感謝の念が足りていない、だから野蛮で野卑な者ばかりなのです!!」
「祝福や加護が与えられるならいざしらず、目に見えず感じる事の出来ない存在にそこまで感謝なんてしませんよ。人間ていうのは現金なものですからね」
「唯一絶対の神に対してなんという事を!!」
興奮の度合いがどんどん酷くなり始めたシスターの女性は息が荒い、怖いですね。
こう、なんというかアラス教会の信者は狂信的な所がある。
自分の所の女神が唯一絶対神であり、他の神と呼ばれるものは神ではないという主張をしているのである。よくこのように他の神からの改宗を勧めて揉め事を起こしている。
「まあ落ち着けってマール。ともかく君の力が勇者の俺には必要なんだアルシェ」
落ち着けとシスターマールを宥めてダイゴは話を続けた。ダイゴに抑えられて後ろまた下がったが、シスターはぶつぶつ文句言っているが聞こえてくる。
「俺が勇者である事から解ると思うけど、俺のパーティーに入れる事はとても栄誉あることだよ」
「栄達には興味がない」
「勇者である俺と共に来れば富も思うがままだ」
「多くの富が欲しい訳でもないので」
「君は世界の危機を救う勇者のパーティに選ばれたんだぜ、誰もが羨む事なんだ」
「世界の危機ですか」
会話の中で初めて気にかかる項目だ。世界の危機とな?なんとも大袈裟な話だが、しかし私には尚更関係なさそうだ。
「そうだよ、俺は世界を救ってくれと女神に直接頼まれた。選ばれし勇者なんだ、勇者なんだ」
なぜ勇者を二回言ったのか、勇者であるのが余程重要らしい。
「そこまで言うなら私以外をパーティーに誘えばいいのでは?能力で考えても私よりも冒険に向いた人はいそうですが。そもそも危機って具体的なんなんですかね」
「そうだよ勇者のパーティーだから入りたいという人は大勢いる!!だが俺のパーティーには女神からの神託がなければ加入させる事はできないんだ」
そんな限定の集まりで世界が救えるのかよと思うのだが、盲信してるのかもしれないから言わないでおこう。
「私が選ばれた理由は全く理解できないけど、結局世界の危機ってどんな内容なの?」
「詳細はまだ女神から明かされていないんだが、まずは仲間を集めろと女神から神託が下りた。それが君なんだ」
おいおい本当に大丈夫か、そんな曖昧な理由を信じて仲間集めとか。もっと疑問に思うとかないのかね、典型的な詐欺師に騙されるタイプに思えるな。
「きっと何かの間違いなので別の人を探してください」
「いや、実際会ってみて俺は確信したよ。君こそが勇者である俺の傍に侍るに相応しい仲間だぜ」
今この男は傍らに侍る仲間とか言ったか?仲間侍らせるってどういう事よ。その発言だけで絶対お断りが確定したよまったく。
「他の人を女神に紹介して貰ってください。全知全能なんだから簡単でしょう」
「世界の危機なんだよ!!俺と一緒に来いよ、幸せにしてやるから!!」
「そういうのほんと結構ですので、諦めてお引き取り下さい」
幸せにするとか鳥肌が立つジャナイカ。やめてやめて、ほんとやめてください。このシスターと共に旅するのも不安だが、この勇者の方が生理的に受け付けない。
「いい加減我儘を言うのは止めてくれ。俺が来いって言ってるんだから黙って付いてこればいいんだよ!!さっさと荷造りしろよ」
ああ、とうとう命令口調になってきた。諦める気がなさそうだなこれは、どうしたものか。いっその事力づくでいくか?でも私より強い可能性があるからそれこそ貞操の危機までいってしまうのではなかろうか。
女神だかなんだか知らないけど、自分とこの信者だけで何とかしてほしいものだ。こちらの迷惑も考えやがれい。
「実は私にもこの森から離れる事が出来ない事情があるのです。私ではそれに抗う事が出来ないためお仲間になることは出来ません」
「なに?・・・そうかクエストか。完了後に仲間になるシナリオ、だから勇者の勧誘に乗らないわけか。おかしいとおもったぜ」
訳の分からない事を言っていたがこの流れなら納得したようだ。事情何てまったく無いけど、まあ何か理由をでっち上げてこの件は回避しよう。
さてどういった内容にするかな。