森の尋ね人
森に紛れこんだ魔物は見事に警備員が刈り終えたらしい。
もしかしたら、この斧で対峙する機会あるかもしれないと思っていたのだがそんな事はなかった。
なので今日も樵の日々だ。
「どっせーい!」
伐採して丸太にした木材を積み終える。これで次回の出荷準備は大体出来た。
あとは戻ってご飯だな。汗を拭きつつ食事の為に家に向かう。
家に戻ると手早く食事の準備をする。
今日の献立は、固いパンとベーコンと野菜サラダである。パンとは基本固いものと思っていたが警備員情報によるととても柔らかく甘いパンがあるのだとか。
一度食べてみたいがこの近辺で取り扱っている町は無いそうだ。
自分で作れるように研究中だとか言っていたのでもし出来たら、毒見をさせた上で食べたいものだ。
食事も終わりお腹も膨れて満足したので、木工細工を作るため材料と道具を用意していると玄関突然開き人が勝手に入ってきた。
入ってきたのは全く知らない顔だ。
身なりは騎士のような立派な鎧を着た整った顔立ちの男と、シスターらしき女と豪華な弓を背負った女だった。男は黒い髪をしており、どこか警備員に似たような顔立ちだった。
「お、いたいた」
そう言って部屋の中までずかずかと入ってくる。先頭の男に続いて女二人も入ってきた。
「誰?ここは私の家で勝手に入ってきて欲しくないんだけど」
「俺はダイゴだ、運命に導かれ君を迎えに来た勇者だ」
運命とか・・・頭は大丈夫だろうか。その他理由も思い浮かべてみるが、迎を寄越すほどの何らかの要件には思い当たらない。知人からの何等かの用事であればこんな見ず知らずの男を寄越すような不用心な事はしないだろう。
「運命かは知らないけど、迎がいるような要件に思い当りがないが」
「はぁ?勇者の俺が迎えに来たんだから冒険パーティーに決まってるだろ」
何で解らないのかというとても不思議そうな顔をしているのだが、そんなのわかるわけが無い。解る人間がいれば、どこかおかしいのだろうきっと。
しかし勇者とな、あまり知らないが昔話に出て活躍する人だったか。
「勇者だかなんだか知らないけど、それと冒険パーティーに入るのとが私にどう関係があるのか理解できない」
しっかりした説明がほしいと思っている所に、後ろに控えていたシスターらしき女性が話に加わってきた。
「勇者様とは、全知全能の神である女神様によって選ばれた御方の事です。世界に正義をお与えになるとても素晴らしい方でございます。今回は女神様から信託が下り、あなたを仲間にせよとの命を受けました」
「よせよ、本当の事でも照れるだろ」
素晴らしいと言われてだらしない顔をしてるのが、神に選ばれし者なのか。神様全知全能の癖に人選間違えてるだろうこれ。しかし『全知全能』に『女神』か、そうすると神の名はアラス神になるんだろうけど。
「確認ですがその女神の名前はアラス神ですか?」
「その通りですが、お名前に様を付けなさい。不敬ですよ」
「それでしたら私関係ないですね。信仰対象が違うようですし」
私の推測は当たっていたようで、アラス神で間違いないようである。
この世界には多くの神がいるとされている。実際に目にしたことがないし、顕現したという話も眉唾臭いものがおおいのだが加護や祝福といったものが神の名で与えられる事もあるため居るのだろうとされている。
この司祭はどうやらそのうちの一柱にあたるアラス神を『全知全能』で『唯一神』として、国の国教としている聖王国の教会信者のようだ。
国から部族単位まで、それぞれ様々な神を崇めているこの世界では『唯一神』を謡っているこの国はかなり微妙な立ち位置なのだが。
「なんという不心得者ですか!!我が神が為された信託なのですから今すぐ悔い改め従いなさい!!」
余程にアラス神を信仰していないのが気に入らないようだ。
これだからアラス信者は面倒だ。
アルシェ「面倒事が舞い込んだ」
シスター「キー、キー」
勇者「俺が勇者だ(ドヤ)」
弓使い「・・・」