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【第7話】灼熱の回廊と鋼鉄の鼓動


 午前(ごぜん)2()――管理都市(かんりとし)中枢(ちゅうすう)においては、26()という隠語(いんご)がふさわしい。


 重苦(おもくる)しい沈黙(ちんもく)がレジスタンスの(かく)()支配(しはい)していた。


 湿(しめ)ったコンクリートの(かべ)(かこ)まれた地下通路(ちかつうろ)で、(おれ)新調(しんちょう)された耐熱繊維(たいねつせんい)のスーツの感触(かんしょく)(たし)かめていた。


 右腕(みぎうで)のアザは、皮膚(ひふ)(した)(うごめ)溶岩(ようがん)のように、()えず不規則(ふきそく)(ねつ)(はな)っている。


 それは(たん)なる高温(こうおん)ではない。


 現実(げんじつ)という強固(きょうこ)(かべ)無理(むり)やり()退()ける(さい)(しょう)じる、世界(せかい)(きし)みそのものだった。


準備(じゅんび)はいいか、ハルト。……その、(うで)出力(しゅつりょく)はどうだ」


 リュウが愛用(あいよう)大型拳銃(おおがたけんじゅう)のボルトを()き、装填(そうてん)された電磁加速弾(でんじかそくだん)(にぶ)(かがや)きを確認(かくにん)する。


 (かれ)装備(そうび)には、(けん)のような旧時代的(きゅうじだいてき)刃物(はもの)一切(いっさい)ない。


 徹底(てってい)して実用的(じつようてき)火器(かき)と、電子戦(でんしせん)(よう)のジャミングデバイスで(かた)められている。


 「……ああ。(あつ)いが、暴走(ぼうそう)はしてない。このエネルギーを(そと)()がせば、(れい)のダクトも(とお)れるはずだ」


 (おれ)網膜投影(もうまくとうえい)された、赤黒(あかぐろ)表示(ひょうじ)された熱源(ねつげん)マップを()つめた。


 機械管理都市(きかいかんりとし)心臓部(しんぞうぶ)『アルキメデス』。


 その地下(ちか)から排出(はいしゅつ)される廃熱(はいねつ)は、通常(つうじょう)物質(ぶっしつ)であれば数秒(すうびょう)(はい)()える地獄(じごく)業火(ごうか)だ。


『ハルト、リュウ、応答(おうとう)して。システムへの侵入(しんにゅう)経路(けいろ)確保(かくほ)したわ。……でも、猶予(ゆうよ)一瞬(いっしゅん)よ』


 通信機(つうしんき)から()れるエレナの(こえ)は、(いの)りを()(ころ)したような冷徹(れいてつ)さを(たも)っていた。


(だい)4排熱(はいねつ)ダクトの緊急排気弁(きんきゅうはいきべん)を、制御(せいぎょ)ミスを(よそお)って三分(さんぷん)だけ開放(かいほう)する。その(あいだ)に、ハルトの(ちから)(ねつ)を『変換(へんかん)して()(すす)んで。……いい? 位相変換(いそうへんかん)出力(しゅつりょく)(ひと)目盛(めも)りでも(くる)えば、二人(ふたり)とも分子(ぶんし)レベルで蒸発(じょうはつ)するわ』


了解(りょうかい)だ、エレナ。……親父(おやじ)さんに、お(まえ)元気(げんき)(かお)()せてやるさ」


 リュウが(みじか)(こた)え、(おれ)たちは(やみ)(しず)んだ連絡通路(れんらくつうろ)全速力(ぜんそくりょく)()()けた。


 下水道(げすいどう)のさらに深層(しんそう)旧文明(きゅうぶんめい)巨大配管(きょだいはいかん)()()しになったエリアに、そのゲートはあった。


 重厚(じゅうこう)電子音(でんしおん)とともに巨大(きょだい)防壁(ぼうへき)(ひら)き、内側(うちがわ)から()(くら)むような白熱(はくねつ)陽炎(かげろう)()()す。


 空気(くうき)そのものが発火(はっか)しているかのような、圧倒的(あっとうてき)物理的(ぶつりてき)暴力(ぼうりょく)(かたまり)


「ハルト、(いま)だ! 位相(いそう)を『上書(うわが)き』しろ!」


 リュウの(さけ)びに()わせ、(おれ)右腕(みぎうで)(まえ)()()した。


 アザが(まばゆ)真紅(しんく)発光(はっこう)し、周囲(しゅうい)空間(くうかん)水面(すいめん)のように(はげ)しく波打(なみう)(はじ)める。


 (おれ)右腕(みぎうで)(おこな)っているのは、飛来(ひらい)する超高温(ちょうこうおん)熱粒子(ねつりゅうし)()(こう)から物理的(ぶつりてき)に『上書(うわが)き』し、無害(むがい)運動(うんどう)エネルギーへと強制変換(きょうせいへんかん)する荒業(あらわざ)だ。


 視界(しかい)(ゆが)み、現実感(げんじつかん)剥落(はくらく)していく。


 (のう)(おく)沸騰(ふっとう)するような負荷(ふか)()かり、耳元(みみもと)金属(きんぞく)(きし)むような幻聴(げんちょう)(ひび)く。


 「行ける……! リュウ、(はな)れるな!」


 (おれ)たちは(ほのお)のトンネルの(なか)を、血走(ちばし)った()見開(みひら)きながら(すす)んだ。


 耐熱(たいねつ)スーツが悲鳴(ひめい)()げ、グローブの表面(ひょうめん)炭化(たんか)(はじ)める。


 (うで)感覚(かんかく)はすでに消失(しょうしつ)し、()わりに(ほね)直接(ちょくせつ)ヤスリで(けず)られるような激痛(げきつう)全身(ぜんしん)()(めぐ)る。


 周囲(しゅうい)金属壁(きんぞくへき)(あめ)のように()()ちる(なか)(おれ)たちが()みしめる(ゆか)だけが、(おれ)物理干渉(ぶつりかんしょう)によって(かろ)うじてその次元(じげん)維持(いじ)していた。


 ()回廊(かいろう)()けて、ようやく天井(てんじょう)緊急(きんきゅう)ハッチに辿(たど)()いた瞬間(しゅんかん)背後(はいご)空間(くうかん)爆発(ばくはつ)したような衝撃音(しょうげきおん)(とどろ)いた。


 三分(さんぷん)経過(けいか)


 排熱(はいねつ)圧力(あつりょく)再上昇(さいじょうしょう)し、(とお)(みち)白熱(はくねつ)するプラズマに()()くされた。


 リュウが渾身(こんしん)(ちから)でハッチを()()け、(おれ)たちは(つめ)たいセラミックの(ゆか)へと(ころ)がり()ちた。


「……はぁ、はぁ、……()ぬかと(おも)ったぜ。文字通(もじどお)り、寿命(じゅみょう)(ちぢ)んだ」


「……ああ。(うで)(なか)核融合(かくゆうごう)でも()きてる気分(きぶん)だ」


 そこは、地上(ちじょう)喧騒(けんそう)から隔絶(かくぜつ)された、アルキメデスの最深部(さいしんぶ)だった。


 極限(きょくげん)まで効率(こうりつ)追求(ついきゅう)された、(うつく)しくも残酷(ざんこく)無機質(むきしつ)極致(きょくち)


 空気(くうき)無菌状態(むきんじょうたい)(たも)たれ、(かす)かな生活音(せいかつおん)すら存在(そんざい)(ゆる)されない。


二人(ふたり)とも、無事(ぶじ)ね? (いま)管理(かんり)AI(エーアイ)にダミーデータを(なが)して注意(ちゅうい)(そら)らしているわ。……でも、10(ぷん)防衛(ぼうえい)システムが自己修復(じこしゅうふく)完了(かんりょう)するから。それまでに、(とう)さんのいる中央実験室ちゅうおうじっけんしつ制圧(せいあつ)して!』


 エレナの指示(しじ)(したが)い、リュウが(おと)もなく前進(ぜんしん)開始(かいし)する。


 (かれ)()のこなしはプロの工作員(こうさくいん)そのものだ。


 死角(しかく)一瞬(いっしゅん)(つぶ)し、熱感知(ねつかんち)センサーの(あみ)紙一重(かみひとえ)(くぐ)()ける。


 だが、実験棟(じっけんとう)への最終隔壁(さいしゅうかくへき)(まえ)で、ついに最上位(さいじょうい)防衛端末(ぼうえいたんまつ)起動(きどう)した。


 鏡面仕上げ(きょうめんしあげ)装甲(そうこう)()ち、電磁(でんじ)パルスで空間(くうかん)制圧(せいあつ)する、|自律型殺戮兵器《じりつがたさつりくへいき『センチネル』


「ハルト、ここは(おれ)()()ける! 予備弾倉(よびだんそう)使(つか)()(まえ)に、博士(はかせ)をみつけ()せ!」


「リュウ! ……無茶(むちゃ)はするなよ!」


(だれ)()ってやがる。(おれ)()(のこ)ることに(かん)しては天才的(てんさいてき)なんだよ! ……()け!」


 リュウが遮蔽物(しゃへいぶつ)から()()()し、電磁(でんじ)パルス(じゅう)連射(れんしゃ)する。


 青白(あおじろ)閃光(せんこう)がセンチネルのセンサーを()き、一時的(いちじてき)機能不全(きのうふぜん)()()こす。


 (おれ)(くちびる)()(にじ)むほど()()め、()ざされた重厚(じゅうこう)隔壁(かくへき)(こぶし)(たた)きつけた。


「……退()けと言っているんだ!」


 (うで)出力(しゅつりょく)最大(さいだい)解放(かいほう)する。


 (すう)10トンの質量(しつりょう)(ほこ)(とびら)が、(ねつ)()かされたようにドロドロと融解(ゆうかい)し、無残(むざん)にねじ()がって(ゆか)へと(なが)()ちた。


 その(さき)には、青白(あおじろ)(ひかり)ファイバーが血管(けっかん)のように()(めぐ)らされた、異様(いよう)光景(こうけい)(ひろ)がっていた。


 中央(ちゅうおう)のメインコンソールに無数(むすう)電極(でんきょく)(つな)がれ、(たましい)(けず)()られるようにキーボードを(たた)(つづ)けていた一人(ひとり)(おとこ)が、背後(はいご)轟音(ごうおん)にゆっくりと(かお)()げた。


「……(だれ)だ? 監査官(かんさかん)か? ……(わたし)はもう、これ以上(いじょう)計算(けいさん)はできん。脳細胞(のうさいぼう)が、()んでいくのが()かるんだ……」


 (おとこ)(かお)は、生気(せいき)()()られた石膏像(せっこうぞう)のように蒼白(そうはく)だった。


 だが、その(ひとみ)(おく)宿る(やどる)狂気(きょうき)(とな)()わせの純粋(じゅんすい)知性(ちせい)だけは、エレナのそれと(まった)(おな)じものだった。


「カザマ博士(はかせ)……ですね。(むか)えに来ました。エレナが、あなたを()っています」


「……エレナ? (わたし)の……むすめが? ……ああ、そうか。彼女(かのじょ)()()びたんだな。()かった……本当ほんとうに……」


 博士(はかせ)(かす)れた(こえ)に、氷解(ひょうかい)するような安堵(あんど)()ざる。


(かえ)りましょう、博士(はかせ)。こんな(いのち)燃料(ねんりょう)にするような場所(ばしょ)は、あなたにふさわしくない」


 博士(はかせ)(ふる)える()で、端末(たんまつ)(つな)がれ強固(きょうこ)にプロテクトされた(ひと)つの石板(せきばん)とも(いし)(かたまり)ともとれる(くろ)いそれを()()いた。


博士(はかせ)(はや)くこっちへ!!」


 リュウが()をのばす。


 だが、その()()直前(ちょくぜん)だった。


 天井(てんじょう)暗闇(くらやみ)から鋼鉄(こうてつ)のワイヤーが無数(むすう)()()ろされ、博士(はかせ)(ほそ)身体(からだ)強引(ごういん)(から)()った。


「なっ……!? しまっ――」


 ワイヤーを(あやつ)数体(すうたい)機械兵(きかいへい)が、博士(はかせ)実験室(じっけんしつ)(おく)へと()きずっていく。


 その混乱(こんらん)最中(さなか)博士(はかせ)の手からあの(くろ)石板(せきばん)(こぼ)()ち、(かわ)いた(おと)()ててセラミックの(ゆか)(ころ)がりハルトの足元(あしもと)()まる。


 石板(せきばん)目掛(めが)けて数十体(すうじゅったい)機械兵(きかいへい)(おそ)いくる!


 (おれ)反射的(はんしゃてき)灼熱(しゃくねつ)()かれる右腕(みぎうで)()ばし、必死(ひっし)(おも)いでその石板(せきばん)(つか)()げた。


 その瞬間(しゅんかん)だった。


 (おれ)指先(ゆびさき)()れた刹那(せつな)石板(せきばん)表面(ひょうめん)無数(むすう)亀裂(きれつ)(はし)り、ガラスのように(くだ)()ったのだ。


「……なんだ、これは」


 破片(はへん)(なか)から(あらわ)れたのは、心臓(しんぞう)鼓動(こどう)のように明滅(めいめつ)する、深紅(しんく)結晶体(けっしょうたい)だった。


「ば、馬鹿(ばか)な……!? あらゆる解析(かいせき)をも(こば)み、沈黙(ちんもく)(まも)(つづ)けていた石板(せきばん)が、(かれ)生体(せいたい)波動(はどう)共鳴(きょうめい)しているというのか!?」


 ()()られようとしていた博士(はかせ)()見開(みひら)き、追撃(ついげき)()(ゆる)めた機械兵(きかいへい)たちまでもが、その未知(みち)のエネルギーに計算(けいさん)(くる)わせたように硬直(こうちょく)する。


 (あたた)かい。


 右腕(みぎうで)のアザが()()れるような(ねつ)とは違う。


 まるで(うし)なわれていた(おれ)半分(はんぶん)が、そこに()ると()わんばかりの(たましい)共鳴(きょうめい)


『――(わたし)(むね)()てろ。そして、「覚醒(かくせい)ブレイバー」と(さけ)べ!』


 直接(ちょくせつ)脳内(のうない)(ひび)(りん)とした(なぞ)(こえ)


 (まよ)いはなかった。


 (おれ)はそいつを鷲掴(わしづか)みにし、(みずか)らの(むね)(まえ)へと()()てて(さけ)んだ。


覚醒(かくせい)――ブレイバー!!」


 (おれ)絶叫(ぜっきょう)(こた)え、そいつから(あふ)()した真紅(しんく)閃光(せんこう)全身(ぜんしん)(つつ)()む。


 粒子(りゅうし)となったエネルギーが肉体(にくたい)再構築(さいこうちく)し、(にぶ)光沢(こうたく)(はな)(あか)武装(ぶそう)スーツのメタルヒーローへと姿(すがた)変貌(へんぼう)させていく。


 その刹那(せつな)(おれ)(さいな)んでいた右腕(みぎうで)暴走(ぼうそう)はピタリと(おさ)まった。


 あふれ(かえ)っていたエネルギーはすべて、スーツの動力(どうりょく)へと変換(へんかん)され、完璧(かんぺき)制御下(せいぎょか)()かれている。


「これが……(しん)(ちから)……」


 ()(にぎ)()めば、爆発的(ばくはつてき)なパワーがみなぎるのを(かん)じる。


 (おれ)()()り、一瞬(いっしゅん)博士(はかせ)()らえていたワイヤーを素手(すで)()きちぎった。


博士(はかせ)、しっかり! ここは(おれ)(まも)()きます!」


 驚愕(きょうがく)(ふる)える博士(はかせ)(かか)え、(おれ)(せま)()機械兵(きかいへい)()れを、一撃(いちげき)(もと)粉砕(ふんさい)した。


 無敵(むてき)のパワーを()(おれ)に、もはや(まよ)いはない。


 リュウと合流(ごうりゅう)し、(せま)()追撃(ついげき)()(はら)いながら、(おれ)たちは爆煙(ばくえん)(なか)()(すす)む。


 そして、ついに鉄壁(てっぺき)防衛網(ぼうえいもう)突破(とっぱ)し、朝焼け(あさやけ)(ひかり)()()むレジスタンスの本部(ほんぶ)へと無事(ぶじ)帰還(きかん)()たしたのだ。



(だい) 8()続く(つづく)




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