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隣の家に住んでるメイドが、ちょっと苦くてちょっと甘い  作者: 二木弓いうる


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第7話 差し入れ煮物とシルベスター

 山本おじさんの提案に、シルベスターはすぐに答えた。


「する!」

「いいね、即答だ。じゃあネル君。またトーゴちゃんと勝負してあげてくれるかな?」


 にこやかに提案するおじさんを、ネルは鼻で笑った。なんて奴だ。

 

「そんな、勝負にもなりませんよ。毎回僕勝っちゃいますもん」


 シルベスターは目尻を吊り上げて、ネルを指さす。


「次は勝つ!」

「ゴミが人間に勝てるとでも?」

「ゴミじゃないわよ!」


 おじさんは二人の喧嘩をたわいのないものだとでも思っているのか、はっはっはっと笑いながら見ていた。


「とりあえず、リベンジは明後日の夕方六時でどうかな? 平日だし、昼だと愛媛ちゃんも小学校で給食食べるでしょ? 次は菓子での勝負なんてどうだ? 夕飯前にってなっちゃうだろうから、量は少な目で」


 流石おじさん。もう次の企画を考えている。

 ネルは愛媛をジッと見つめながら、おじさんの提案に乗る。


「お菓子……それは姫様が喜びそうだ。どんなお菓子でも良いんですね?」

「あぁ。トーゴちゃんはお菓子を作るのも美味いんだ。この間作ってくれた洋ナシのこんぽーとってやつ、すごく美味しかった。きっと次は負けないよ」


 何それ羨ましい。

 シルベスターも頷いて、勝負の条件をのんだ。


「……分かったわ。次こそネルリヤンを負かしてやる!」

「では明後日。トーゴさん、逃げてもいいんですよ?」

「誰が。アンタこそ逃げていいのよ。まぁ逃げなかったとしてもあたしが勝つけど!」


 なんだか悪役が逃げていく時のセリフみたいだな。かわいいけど。


 まぁ俺も不満はない。愛媛も喜んでいるし、勝負自体はさせてもいい。その方がネルも変な事しないだろうしな。


               ***


 翌日の早朝。家の扉を開けた俺は、道の真ん中をウロウロとしているシルベスターの姿を見つけた。


「シルベスター、何してんの?」

「あら、おはよう」

「……おはよ」


 不意打ちにメイドからの「おはよう」を食らい、ちょっと動揺している俺がいる。ただの挨拶ではあるんだけど、やっぱりメイド服で言われる挨拶って特別感あるな。これで「お帰りなさい」だったら気絶していたかもしれない。


「アンタが出て来るのを待ってたのよ」

「俺? あぁ、ネルとは話したくないからか。通訳してもいいけど、あんまり喧嘩しないでくれよな」

「違う。アンタに」

「俺?」


 そう言われてしまうと少し期待してしまうものがある。いや、どうせ昨日の不満をぶつけられるんだろうな。

 全く期待をしていなかった俺は、シルベスターから青色の蓋がついたタッパーを渡された。


「作り過ぎたの。どこぞの馬鹿が作る煮物より美味しく出来てるはずだから、ぜひ食べなさい」

「えっ、いいの!?」

「いいわよ。だってアンタ、ネルリヤンの作ったものばっかり食べる羽目になってるんでしょう。そんなの可哀そうだから」


 あれはあれでうまいとは言いづらいな。

 ネルの事は一切褒めず、俺は煮物の入ったタッパーを受け取る。


「ありがと。お礼って言っても、うちに返せるものなんて何もないな」

「気にするんじゃないわよ。ところでアンタの妹、何のお菓子が好きなの?」

「なるほど、それが目的か」


 シルベスターは俺の制服であるネクタイを引っ張って、顔を近づけて来る。期待しちゃうからやめてほしい。


「アンタはあたしのハンデだもの。ネルリヤンがアンタの家にいる限り、当然一度だけのルールじゃないはずよ」

「まぁそれはそうか。愛媛が好きなのはプリンだけど……商店街のもので作るってルールがあるからね、ちょっと難しいかな。卵や牛乳は、商店街から少し離れたスーパーにしかないから。昔は商店街にも、卵や牛乳の専門店もあったらしいけどね。残念だけど、今回は諦めるしかないんじゃないかな」

「そう……」


 あの商店街もどんどん縮小化してるからな。そればっかりは仕方ない。


「あと、次のアニメの内容も問題だ。ウニウニはアニメオリジナル作品で原作がない」

「予想でいくしかないって事ね」


 シルベスターがネクタイから手を離した、その時だ。

 俺達の頭上から、ネルの声が降り注いできた。


「和歌様ー、そんなゴミと会話して何が楽しいんですかーっ、今すぐ離れて下さーい」

「近所迷惑だから叫ぶな! っていうかお前、そこ愛媛の部屋じゃねぇか、今すぐ出てげ!」


 俺の言う事を聞かないネルは、愛媛の部屋の窓から叫ぶ。


「トーゴさん、貴方が居るから迷惑なんですって。帰って下さーい」

「お前が迷惑って言ってんだよ」


 俺に続いて、シルベスターも怒る。


「大体、アンタがあたしを見下ろすって言うのが気に食わないわ。降りて来なさい」

「見下ろしてなんていませんよ。ただ貴方が僕の下に居たというだけの事。やはり貴方は地上が良くお似合いですね。きっと地面に埋もれたらもっと素敵になりますよ」

「落ちてしまいなさい!」


 ネルが降りて来る様子はない。俺は小声でシルベスターに話しかける。


「ダメだシルベスター。このままだと三人で近所に迷惑をかける事になる」

「アンタの家が近所にウザがられたって、あたしは構わないのだけれども」

「俺が構うんだよ」


 俺らの会話が気に食わなかったのか、ネルは大声を出してきた。


「そこのゴミ、和歌様をその無に近い色気で誘惑しようとするな。今すぐ離れなさい!」


 シルベスターは反論する。家に知らない奴が入って来た時のチワワに似てる。


「失礼ね! 大体、誰が下僕なんかを誘惑するっていうのよ」

「すいません。無に近いではなく、無でしたね」

「首絞めるわよアンタ!」


 申し訳なさそうな言葉で言ったネルだけど、ぶっちゃけ半笑いだった。あの顔、絶対本当は申し訳なく思って無いだろ。


「でも貴方には色気なんて……フフッ、あぁすみません。つい。でもだって……ハハッ」


 笑いながらシルベスターを馬鹿にするネル。悔しかったのか、シルベスターも負けじと大声で叫んだ。


「これでも胸はある方よ!」


 俺は急いで彼女の口を手で押さえる。何てこと言い出すかねこの子は!


「シルベスター駄目。女の子がそんな事を大声で、しかも早朝の道端で言っちゃ駄目!」


 ネルは変わらず、シルベスターを嘲笑う。


「はっ、例えお前に色気があったとしても、お前のそのガサツさじゃ無理だろうよ。まぁ悔しかったら色気出してから来てみれば良いんじゃないですかぁ。ねぇ、和歌様」


 やめろ、俺に振るな!

 シルベスターはネルの態度を鼻で笑った。


「アイツは本当に馬鹿ね、色気なんてとっくに出てるわよ」

「えっ」


 そこも自信あるんだ?

 しかし、どうするべきか。「シルベスター色気あるよ」なんて言いづらいな。それにシルベスター、どっちかっていうとかわいい感じだし。セクシーさがあるかと言われたら、そこまで大人ではないと思う。


 俺は思わず無言になって、シルベスターから目線を逸らす。その態度が良くなかったのか、シルベスターは首を傾げた。


「下僕? 今の、えって何?」


 ネルの肩を持つ訳ではないが、素直にシルベスターの期待通りの返事は出来ない。


「えーと、シルベスターは可愛いよ」


 愛媛相手にポンポン言ってたつもりだったけど、同い年の女の子相手に可愛いと口にするのって結構恥ずかしいんだな


「そんな事は今聞いてないわ。あたしに色気があるかないかを聞いているの」

「いや、それは、その」


 次第にシルベスターの表情が険しくなってくる。明らかに俺のせいで怒ってるわ、これ。


「和歌様、はっきりおっしゃって良いんですよ。トーゴさんの事を何だと思っているのですか。生ゴミですか、廃棄物ですか、排泄物ですか!?」


 火に油を注がれた! シルベスターの顔がより険しくなったじゃねぇか! 

 ネルに殴りかかろうとするシルベスターだが、アイツが二階にいるせいでその攻撃は届かない。どんなにジャンプしても人間限度はあると思うぞ。

 俺は話を誤魔化すように、ネルを叱った。


「お前なぁ、シルベスターだって女の子なんだぞ。そんな汚いモンと一緒にするな」

「和歌様、まさかトーゴさんが綺麗だとでも言いたいのですか」

「少なくともお前の心よりは」

「り、理解出来ません……。あっ、そこの女性と比べたらどうですか。男性的にあの方とトーゴさん、どっちがお綺麗だと思いますか!」


 ネルが俺達の背後を指さした。見れば交通安全ポスターで敬礼する婦警さんが壁に貼られていた。ポスターに選ばれるだけあって、なかなかの美人さんだ。っていうか。


「なんちゅう質問してるんだよお前」

「申し訳ありません。でも大丈夫。だって勝負は目に見えてますから。だってトーゴさんが綺麗な訳ないじゃないですか!」


 本当に余計な事しか言わないな!


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