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隣の家に住んでるメイドが、ちょっと苦くてちょっと甘い  作者: 二木弓いうる


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第3話 お隣メイドのシルベスター

 俺は思わず、ネルの前に飛び出した。


「何してんだお前!」

「お気になさらず。それより和歌様、こんな遅くに出歩くなんて危険ですよ」

「お前が近所迷惑になるような事をするからだろうが!」

「そんな。もう僕を家族の一員だと?」

「言ってない!」


 あんな喧嘩を売るような奴と家族だと思われたくない! なんなら友達と思われるのも嫌だ!


 その時、山本おじさんの家の扉が開いた。


「ネルリヤァアアアアアアンクォオオオカァアアアアアッ!」


 メイドだ。見るからにブチ切れたメイドが、竹刀を握りしめながらネルに襲いかかっている。


「出たな、屑め」


 不機嫌な顔をしたネルは、ボソッと呟いて。すぐさま竹刀の先端を握る。反射神経も良いらしい。


 その竹刀を握っていたメイドは、外国人の美少女だった。ひざ丈の黒いワンピースの上に、裾にフリルのついたエプロンドレスを身に着けている。肩まで伸びた赤毛には、メイドといえばのフリル付きカチューシャを着けていた。


 間違いなくネルの仲間だな。ネルに竹刀向けてるから、仲良しではないんだろうけど。


「聞こえたわ、誰が屑よ。あぁ、自分の事かしら」

「おや、何だか雑音が聞こえるような気がします。とても不愉快ですね。和歌様、帰りましょう」


 自分で喧嘩売りに来ておいて、なんて嫌な奴なんだ。


「ちょっと、また無視する気!?」


 そりゃメイドも怒るに決まっている。というか、またって事はしょっちゅうやってんだな。


 ネルは深いため息を吐いて、ようやく彼女の顔に目を向けた。怒る彼女を瞳に映して、わざとらしい作り笑いをする。


「おや、トーゴさんじゃありませんか。ごきげんよう。名前も性格も男みたいな、女として終わってるトーゴさん。おっと、男でもこんなに乱暴者はなかなかいませんね。訂正しましょう。ただのゴミ、ごきげんよう」

「アンタ……本当にあたしに喧嘩売るの好きね。良いわよ、買ってやるわよ」

「はっ、ゴミが人に勝てる訳が無いじゃないですかぁ」

「誰がゴミよ、アンタの方が勝てないに決まってるじゃない。この変態!」


 ネル目掛けて胴を打とうとしているメイド。ネルは彼女の腹に蹴りを入れるべく、足を伸ばす。が、それよりも先に俺がネルの頭を殴る。


「何するんですか和歌様! 今コイツを仕留めようと」

「阿呆、女の子にそんな事するんじゃない」

「和歌様この竹刀が見えてないんですか。あと先に手を出してきたのはコイツですよ。僕は何もしてないというのに!」

「お前が先に喧嘩を売ったからだろ!」


 俺のネルリヤンに対する態度を見て、彼女は俺を味方と判断してくれたようだ。俺の前に立って、にっこりと微笑んでくれる。かわいい。うちに来るなら、この子が良かった。


「アンタ、中々分かってるじゃない。ネルリヤンほどのダメ男も居ない、その通りよ」

「俺そこまで言ったっけ……ところで、君はやっぱりネルの同業者?」

「えぇ、不運なことにね。アラカルト派遣会社特殊クラス、サービスナンバーファイブ。トーゴ・シルベスターよ。覚えておきなさい」


 俺は彼女、シルベスターの姿をマジマジと見た。竹刀は持ってるけど、そこまで強そうでもない。むしろ華奢っていうか、か弱そうな感じ。

 橙色の綺麗な瞳に、艶やかな唇。竹刀はともかく、見た目はすごくかわいい。うちに来るなら、やっぱりこの子が良かった。


 そんな彼女に、胸ぐらを掴まれた。今日は厄日だ。


「でもアンタがした事は許さないわ! 本当にアンタなのね、あたしとの契約を断ったっていうのは! あたしよりネルリヤンを選ぶなんて許せない!」

「違うんだシルベスター。本当にメイドが来るって思って無かったんだ。あんな変態好き好んで選ばない。選べるんだったらそりゃシルベスターの方を選んだよ」

「適当な事言うんじゃないわよ!」

「本当だって、俺はシルベスターの方が良かった……っ!」


 勢いで言った俺の頬が、急激に熱くなる。だって、これじゃあまるで告白じゃないか。

 だがシルベスターは自分が選ばれた事に喜んだようで、にんまりと笑う。


「そうでしょ。あたしの方が上なのよ!」


 ちょっと偉そうだけど、近所迷惑なネルと比べたらその程度の図々しさには目を瞑れる。

 逆にネルの方が不服そうだ。


「お待ちください和歌様、何でそんな奴の方が良いとか言うんですか。どう考えたってソイツの利用価値なんて、性欲処理の穴くらいしかないじゃないですか!」

「デカい声でそんな事言うな!」


 なんて奴だ。うまい飯つくる良い奴ってイメージが一瞬で吹き飛んだぞ。

 シルベスターは口元を手で押さえながらネルを見下す。


「下劣な男だわ。とにかく、アンタより明らかにあたしの方が優れているのよ!」

「頭の悪い人ほど自分が優れてるって発言しますよねぇ」

「何ですって!? もう頭に来たわ、そこまで言うなら証明しようじゃないの。あたしの方が素晴らしいという事を」

「己の愚かさをわざわざ見せつけるなんて、ただのマゾ、ただの変態ですね」

「変態のアンタに言われたくないのよ!」


 俺は思わず、彼女を哀れみの目で見た。


「あんなのと同僚なんて大変だな」


 お返しと言わんばかりに、彼女は哀れむような顔で俺を見てきた。そんな顔でもかわいい。


「主になったアンタに同情されるなんてね。可哀想だから、あたしの下僕にしてあげるわよ? 日本人初の。名誉でしょう」


 いくらかわいくてもそれは違う。俺は首を左右に振って言った。


「人の下僕やってる暇無いから。妹の面倒も見なきゃだし」

「あら、断っていいの? アンタこのままだと、ただただ変態の飼い主よ?」

「そうだとしても、下僕はちょっと」


 これが恋人とかだったら即答で「はい喜んで!」とか言ったけど、下僕は絶対違うしな。


 何故かネルの方が怒っていた。変態とか言われてるからか?


「貴様、和歌様になんて無礼を! その人はな、見た目よりもすごい方なんだぞ。この人はな、すごく可愛い妹が居るんだ! 勝手に下僕にしようとするな!」

「おいネル、それ愛媛の事しか褒めてなくないか」


 シルベスターは目を見開いて、俺に質問を投げかける。ネルと喋りたくはないのかもしれない。そこまでヤバい奴らしい。


「あら、下僕は妹という名の動物を飼っているの?」

「動物ではなく普通に人間の妹はいるけど……俺の事を下僕って呼んでるなら、さっきも言ったろ。そんな暇は無いって」

「アンタのあだ名よ」

「酷いあだ名を付けられたもんだ。俺にはちゃんと神崎和歌という名前があるんだが」

「覚える気が無い」


 プイっと、シルベスターはそっぽを向く。態度は悪いが、かわいいから許す。


 ネルは何故か、とても偉そうに胸を張った。


「聞いて驚くなよ、トーゴ・シルベスター。この人の妹である姫様はな、僕が生まれて初めて性的対象として見た人間だ!」

「お前! 人の妹の事そんな目で見てたのか!」

「すみません、一目惚れというものです」


 両頬に手を添えたネルは、恥ずかしそうに言った。やっぱりロリコンだったのか。


 シルベスターの顔も青くなっている。


「なっ……あ、アンタが人間を好きになった?」


 ん? それって驚くとこじゃなくない?

 まぁヤバいことに変わりないけど。

 そのヤバい奴が、シルベスターを馬鹿にしている。そりゃ腹立つわ。


「驚くなと言ったのに、馬鹿な奴ですね」

「驚くわよ。って言うか……だったら……」


 シルベスターは竹刀を構え、ネルに向けて叫んだ。


「何であたしはアンタに殴られたのよーーっ!」


 下ろされる竹刀。

 俺は思わず二人の間に入り、見事に真剣白刃取りを成功させる。


「邪魔しないで!」


 ネルの味方だと思われるのはなんか嫌だ。

 ただ暴力で解決ってのは、俺の正義に反する。


「邪魔じゃあないって。一応両方の話は聞く。ネル、お前シルベスターの事殴ったのか」

「三十回しか殴ってません」

「十分多いじゃねぇか」


 俺の問いに、頬を膨らませたネルが答える。イケメンが頬膨らませても何も面白くない。


「既にネルが悪い気もしてるけど。シルベスターは何か殴られるような事をしたのか」

「してないわよ」


 同じく頬を膨らませていたシルベスターが答えた。同じ表情してるならこっち見てる方が楽しいわ。シルベスターを見ていよう。


「嘘をつくな! 和歌様、コイツは昔、僕の恋人に酷い事をしたんです」


 ネルが反論してきた。

 イケメンだしな、彼女くらいいるよな。腹立つ。


「あんな事言ってるけど?」

「仕方ないじゃない。大体ネルリヤンの過去の愛でてたモノなんて、子供のマネキンとか、メガネケースとか、アルマジロとか、ライオンとかの人外なのよ。それなのに人間の女の子を愛でたとか……何なんなのよ、コイツ!」

「ごめん、情報量が多すぎてついていけない」


 愛でたって、ただお気に入りってのとは違うのか? いやでも、さっき初めて人間を好きになったとか言ってたしな……。


「和歌様。そんな奴のいう事信じないで下さい」


 ネルがネルが不服そうな声を出すので、仕方なくそっちを見る。うるせぇなぁ。


「何だよ、違うって言うのか」

「いえ。確かに僕は、ズーフィリアで対物性愛者とかいう矛盾した奴で収集癖のあるド変態な上に妄想癖の強いストーカー気質の屁理屈ばかり言うヤバい奴とか言われておりますが、実際は全然そんな事無いんですから」

「ちょっと待て、情報量が増えたんだが!?」

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