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隣の家に住んでるメイドが、ちょっと苦くてちょっと甘い  作者: 二木弓いうる


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第17話 商店街とメイドのお姫様抱っこ

「馬鹿、馬鹿、馬鹿!」

「はいはい」


 怒られながらも先に進む。俺が言うことを聞かないからか、シルベスターは俺のネクタイを引っ張った。


「シルベスター、苦しい」

「アンタなんか一生苦しんでれば良いんだわ」

「それはネルの役目だと思うんだけど」

「知らない!」

「はいはい」


 照れ隠しなのかもしれないけど、まるで子供の面倒を見ているようだ。愛媛の方が大人しいかもしれない。


 まっすぐ進んで行き、一度だけ曲がる。

 ……しまった。ここまで来て気づいたが、このルートで行けば、現れるのは商店街だ。


「これは少し恥ずかしいな」

「馬鹿、馬鹿」


 シルベスターはもう馬鹿としか言わなくなった。最初から商店街を通るって分かっていたのかな。


 まぁここまで来てしまったのなら仕方ない。俺は諦めて商店街へ入っていく。商店街には多くの人が居た。当然だろう。


 そんな商店街の中を、俺はメイドをお姫様抱っこして通る。これは恥ずかしい。肉屋のおっさんが声をかけてきた。


「神崎君、どうしたんだい。ラブラブなのか」

「そんなんじゃないよ!」


 俺の顔は思わず赤くなった。

 今度は花屋のお婆さんに声をかけられる。


「和歌ちゃん、こんな商店街でする事じゃないよ」

「分かってるよ。でも、だからって怪我してる女の子放置していくほど、俺は酷い奴じゃないよ」

「優しいね」

「ありがとう」


 商店街の真ん中まで進んだ時、シルベスターが小さく呟いた。


「下僕、靴脱がせて。足に当たって痛い」

「俺が脱がせれば良いの?」

「早く」


 自力で歩くのは諦めたらしい。道の端に寄った俺は、その場にしゃがみ込み。片手でシルベスターの靴を脱がせる。シルベスターは靴を受け取り、両手で持つ。


「ご苦労、進め」

「もう自分で歩く意思は無いんだね」


 まぁここまで来ればね。俺も諦めている。再び歩き始めた。

 諦めはしたが、やはり人目は気になる。値切りが必須の八百屋のおっさんにも声をかけられた。


「何だ神崎君、やっと彼女が出来たか」

「そんなんじゃないよ!」


 シルベスターも恥ずかしかったのか、持っている靴で俺の頭を叩いた。


「痛い!」

「頭が高いのよ!」


 俺は再びしゃがみ、シルベスターから靴を没収。靴を手に持ったまま、お姫様抱っこを継続する。手で叩かれる可能性はあるけど、靴よりマシ。

 というか、叩かれる前に連れて行こう。早歩きで進む。


 山本おじさんの家へ到着した。チャイムを肘で押す。


『はーい』

「お届け物です」


 間違った事は言っていない。家の中からおばさんが出てきた。昔からパンチパーマのおばさんは、どことなく大阪のおばちゃんっぽさを感じてしまう。出身は埼玉らしいんだけどさ。


「トーゴ! あぁ良かった、心配したんだから」

「奥方」


 おばさんは目を潤ませていた。おじさんと同じで、シルベスターの事を可愛がっているんだろう。


「神崎君、ありがとうね。トーゴ、かなり無茶する子だから」

「よく知ってます。シルベスター怪我してるから、おばさん見てあげて」

「怪我!? 大変!」


 俺はシルベスターを玄関先に降ろし、座らせる。彼女の靴も玄関床に置いた。

シルベスターの足を見たおばさんは、悲しそうな顔をする。


「これは病院いかなきゃダメだね。というか、これじゃあ明日の勝負も無理なんじゃ」


 シルベスターの足は、靴を脱がせる前より腫れているように見えた。確かにこれは、無理に動かしちゃダメかも。


「そんな事ないわ! 明日こそアイツをギャフンと言わせるプリンを作るんだから!」

「ダメだよトーゴ。怪我が酷くなったらどうするの。何なら勝負は延期してもらおう」

「嫌よ! そんな事したらあの変態、逃げ出したんですねぇとか言って高らかに笑うんだわ!」


 あぁ、想像出来るね。不戦勝を喜ぶだろうね。

 とはいえシルベスターを勝負の場に立たせる訳にもいかない。ここは俺からネルに……待てよ?


「シルベスター、こういうのはどうだろう」


 俺は提案を口にする。シルベスターはにんまり笑った。


「悪くないわ。それならアイツへの嫌がらせにもなりそうだわ」


 おばさんもにっこり笑って、シルベスターの肩に手を置く。


「それじゃあ、トーゴの事は明日の日中に病院に連れて行くわ。神崎君、本当にありがとうね。ほらトーゴも、お礼言わなきゃ」

「下僕が勝手にやった事よ!」


 おばさんは笑顔のまま、俺に顔を向ける。これはね、ちょっと怒ってるよ。


「神崎君、トーゴちゃんの部屋までいいかい?」

「まぁここまで来たらね」


 ここで拒否したら俺まで怒られるやつ。山本おばさん、昔から怒ると怖いんだから。


「ちょっと!」


 シルベスターをお姫様抱っこした俺は、おばさんが案内する部屋の方へ進む。室内だから、商店街を歩くほど恥ずかしくはない。


 シルベスターの部屋と言われた場所にたどり着く。和室だ。意外といえば意外。まぁおじさんの家が和風だからな。

 愛媛の部屋にあるようなぬいぐるみは一つもなく、あるのは足の低い机と桐ダンスのみ。

 机の上も、きれいに片付けられていて何も無い。あとは床の間の中に、桔梗だっけ、紫の花が一輪挿しに生けられている。


「ベッドもないけど、シルベスターどこで寝てるの?」

「押入れの中に布団があるわ」


 とりあえず畳の上に座らせ、押入れの戸を開ける。上段に乗った一組の布団をシルベスターの指定した場所に広げた。


 ……いい匂いがしたというのは黙っておこう。


 シルベスターは布団の中に潜ると、俺に背を向けた。


「ご苦労。ネルリヤンの事もちゃんと躾けておきなさい」

「シルベスター、メイド服のままで寝るのか?」

「アンタの前で着替えろと?」


 下着ならもう見た事あるし、見せてもらえるならぜひ見たいというのが本音ではあるが。


「それはよろしくないな。またなシルベスター、お大事に」


 俺は大人しく彼女の部屋を後にした。ネルと同じ変態のカテゴリに入れられたくないからな。


             ***


「和歌様、おかえりなさいませ」


 家に帰った俺は、無言でネルの頭を殴った。


「何をするんですか和歌様、痛いじゃないですか!」

「その位なんだってんだよ。シルベスター捻挫してんじゃねぇか!」

「違います。アイツが勝手に転んだんですよぉ」

「それは……でもダメだろ」


 シルベスターのことだ、ネルに攻撃しようとして勝手に転んだ可能性もなくはない。

 ただ本当にそうだったとしても、ネルなら手当する位出来たはずだ。最低でも病院に連れていく事は出来るだろう。それをコイツは、ただ嘲笑って放置したんだ。悪いにも程がある。


「貴方も結構すぐ手が出ますね。どうせなら姫様が好きな攻撃にした方が良いですよ。アニメ、二人はウニウニに出てくるガンガゼスプラッシュとか良いと思います。手を組んだ状態で相手の脳天を殴るんです」

「そんなん使う時絶対ないし、あるとしたらお前にだけだよ」

「分からないじゃないですか。使うかもしれませんよ、あの野蛮な女相手にとか」

「……だからシルベスターはそんなに悪い子じゃないってば」


 俺は思わず頬を赤くして俯いた。ネルリヤンは信じられないものを見たという顔で言う。


「だってあれ性格悪いですよ。口も性格も頭も悪い」

「確かに口と頭は少し悪いかもしれない。けどシルベスター、性格は悪くないぞ。確かに素直じゃないし、あまのじゃくで不器用な所あるけどさ。愛媛みたいな小さい子やお年寄りが困っていればちゃんと手を差し伸べる。おじさん達の事だって面倒見てるみたいだぞ」

「僕だって和歌様が溝にハマりでもしたら助けますよ」

「ハマるとは思えないし、他の時でだって助けろよ」

「それに素直じゃないって、僕アレから嫌いって言われるんですよ。その理論でいくとアイツは僕の事好きって事ですかぁ? やだぁ」

「いや、それは本当。シルベスター普通にお前の事嫌い」

「何なんですアイツ。めんどくさい」

「あと俺もお前嫌い」

「それはまぁ別に。僕は姫様から好かれさえすれば後はどうでも」

「そういう所」

「しかし和歌様、何であんなの助けに向かったんですか?」


 ネルからの質問に、俺の心臓が思わず跳ねる。それは……それは……。


「……あんなのってな。困ってる人がいたら助けるのは常識だろうが」

「それは人の場合でしょう? あれは人じゃありません」

「本当に失礼な奴だな」

「とにかく、あの頭おかしいのとは仲良くしちゃダメですよ。あぁいや、仲良くしておいて最終的にボロボロにして捨てるって言うなら止めません」

「何なんだよお前は。俺は普通に友達としてシルベスターと付き合う。それで満足か?」

「いや友達としても付き合ってほしくないんですよね」

「そこまでお前に振り回されてたまるかよ。っていうかこれ、問題行動だろ。会社側は何とも言わない訳?」

「何も言われませんね」

「そんな馬鹿な。むしろ、とっくに解雇されててもおかしくないのに。何でお前雇われてるの?」

「破壊費とか訳の分からない理由で給料マイナスになってる分、辞めさせてもらえそうにないんです。何故でしょうね。まぁ辞める気もないですけど」

「分かり切ってるじゃねぇか」

「内臓でも何でも、売れるものはもう売った後です」

「……本当に?」

「冗談です!」

「てめぇ!」


 笑顔でいるネルに、完全に遊ばれている。


「とにかく、今回の件は会社に報告するからな」

「そんな手間かけなくていいんですよ。どうせ会社も何もしません」


 俺はネルの言葉を無視し、電話をかけた。



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