第13話 カチューシャティアラの違いなし
あの後は結局、お開きになった。最後が喧嘩で終わっちゃったから、イベント的にはあまり盛り上がらない終わりになってしまった。勝負自体もイマイチだったしな。セブンスターが悪い訳じゃあないけど。
勝負としては引き分け。次の勝負は、明後日の六時になった。
翌日の昼休み中。学校で弁当を食べ終えた俺に、クラスメイトが声をかけてきた。
「和歌山ーなんかメイドが呼んでるー」
「メイドが……?」
まぁきっとシルベスターだろう。他のメイドは知らないし。俺は教室を出て、メイドがいたという校門の前まで向かう。
案の定、シルベスターが門の外に立っていた。登下校の時間以外は門の鍵は閉められているから、彼女が中に入ってくる事はない。
「下僕、ちょっとついて来なさい。行きたい所があるの」
「今は無理だよ。この後まだ授業あるから」
「あたしと授業どっちが大事なのよ!」
「そんな彼女みたいな質問しないでよ……待って、もしかして今俺はデートに誘われてる?」
シルベスターは顔を赤くさせて、目を吊り上げた。
「違うわよ、今度のネルリヤンとの対決に使う食材を買いに行くの! その荷物持ちに決まってるでしょ、勘違いするんじゃないわよ!」
「そんな言い方をされたら勘違いしたくもなる」
「あぁもう、うるさい男ね。仕方ない、待っててあげるから早く授業終わらせてきなさいよ!」
「少なくともあと二時間はかかる」
「じゃあ一度家に戻るわ。二時間後、ここにいなさい!」
それだけ言うと、シルベスターは走って逃げた。あの照れよう、やっぱりデートの誘いなのでは? 偉そうだけど。
デートだと思うと、色々期待してしまうものがある。当然、この後の授業は何一つ頭に入らなかった。
放課後、俺は速攻で校門の前へ向かった。シルベスターは昼休み同様、メイド服で立っている。デートだとしたら違う服着るのかなとか思っていた、俺の期待を返してほしい。
「良い卵を売っている養鶏場があるらしいわ。行くわよ!」
「もしかしてデートじゃない……!?」
「もしかしなくともデートなんかする訳ないでしょ、馬鹿!」
顔を赤くさせて否定された。これは照れ隠しなのでは? と思ってしまう俺が居る。
「まぁデートじゃないと仮定して」
「仮定なんてしなくていいわよ!」
「どこにあるの? その養鶏場」
「電車で二駅先!」
「とうとう町内ですらなくなった……!」
「いいのよ、電車代も主がくれたわ!」
山本おじさん、シルベスターに甘すぎだと思う。
俺とシルベスターは駅に到着した。愛媛の事は心配だが、シルベスターを一人で行かせるのも不安だし。ここはネルが普通に子守りしてくれると信じよう。
切符を購入し、改札の中に入った。俺の電車代は実費だけど、まぁそれを出さないほど俺はケチじゃないよ。
電車が来るまであと三分。ホームにいた人たちは、皆シルベスターに目を向けた。
「人の事ジロジロ見てくるなんて、無礼な奴らね!」
「それは無茶ってもんだよシルベスター。メイドが電車に乗ろうとしてりゃあ悪気がなくても皆見ちゃうよ」
あと普通にかわいいからってのもあるんだろうけど。そこは恥ずかしいから言わないでおこう。
「せめてこれ取れば?」
俺はシルベスターからメイドのカチューシャを取った。やっぱり、これを外しただけでもメイド感が薄まる。かわいさは変わらないから、人から見られなくなる事はないかもしれないけど。
「ちょっと! 勝手に取るんじゃないわよ、仕事してないみたいじゃない!」
まさか今仕事中のつもりなのか!?
「少なくともネルとの勝負は仕事じゃないでしょ」
「そんな事ないわ。あの変態を倒さないと、他の仕事が手につかないのよ」
「それは……分からなくもない。愛媛に手を出そうとしないか見張ってるだけで時間全部持っていかれる」
「ほらみなさい」
そう言ってドヤ顔をするシルベスター。イラっとはするけどかわいいので許す。
そんな事を言っている間に電車が到着した。カチューシャを頭に付けなおしたシルベスターが先に乗り込み、俺がその後ろを追った。
席は埋まっているが立っている人は少ない。比較的空いている方だと思う。二駅だし、十五分程度で着く。立ってても苦じゃないわな。
「どーぞっ」
一番角に座っていた幼女が、俺達に席を譲ろうとしている。見た感じ愛媛より小さい、幼稚園児くらいかな。
隣に座っていたおばあちゃんが、申し訳なさそうに微笑んでいる。
「ごめんなさいねぇ、この子誰かに席譲るのが偉いと思ってて。良かったら座ってやって頂戴」
席を譲るのは実際偉い事だ。謝る事はない。ただ、気持ちだけで十分なんだけど。
「あたしに席を譲るとは、いい心がけね。褒めてやるわ!」
「わーい!」
シルベスターはおばあちゃんの隣に座った。まぁ幼女喜んでるし、厚意を受け取るのも悪くないか。
「お姉ちゃんの頭についてるの、なーに?」
俺の隣に立った幼女は、メイドのカチューシャに目を向けている。
「プリンセスのティアラみたいなもんよ」
すごい説明するじゃん……。メイドについて面倒だったのか、本当にそう思ってるのか分からないけど。
「お姉ちゃんプリンセスなの!?」
「まぁ似たようなものね」
本当にそう思ってるのかもしれない。
「じゃあお兄ちゃんが王子様……?」
疑問形で聞かれてしまった。俺がネルみたいな顔だったらまた違ったかもしれない。
シルベスターは少し頬を赤くさせて、答えた。
「それは王子じゃないわ。下僕だもの」
これは確実にそう思われている。照れ隠しでの返答であってほしかった。
「下僕って何?」
「……執事、使用人なら伝わる?」
「ひつじ! 知ってる! 絵本で見た、プリンセスやお嬢様の隣にいるの!」
「じゃあそれ」
「そっかぁ」
納得されてしまった。まぁ詳しく聞かれても困るし、それでいいか。
「いいなぁ。わたしもティアラ欲しい!」
幼女はプリンセスのティアラを羨ましそうに見始めた。愛媛がおもちゃを欲しがる時の目と同じだ。
「これは会社でもらったものよ。欲しかったらいっぱい勉強して、アラカルト派遣会社に入社なさい」
さらっと勧誘してる! まぁ下手に買ってもらえって言うよりマシかな。
幼女は「分かった、頑張る!」と納得してくれた様子。頂戴とか言われなくて良かったかもしれない。
電車が止まった。気づけば隣の駅に到着したようだ。おばあちゃんがゆっくりと立ち上がった。
「さ、着いたよ。お姉ちゃん達にバイバイしてね」
「うん。しつじさん、おばあちゃんが座ってた所座っていいよ! お姉ちゃんもバイバイ!」
幼女は置き土産の言葉を残して、おばあちゃんと一緒に電車を降りた。
電車に乗り込んでくる人はおらず、周辺には席を狙っている人もいない。
「あぁ言われたんだし、座れば良いじゃない」
「……じゃあ、失礼します」
俺はシルベスターの隣に座った。隣を歩いた事だってあるのに、妙に気恥しい。なんなら触った事だってあるのに。早く到着してほしいような、ほしくないような。そう思ってるのは、俺だけなんだろうか。
「狭い乗り物ね」
「まぁ、あと一駅だし。そういえば、養鶏場って駅から近いの?」
「その後タクシーで二十分よ」
「……えっ!?」




