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隣の家に住んでるメイドが、ちょっと苦くてちょっと甘い  作者: 二木弓いうる


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第12話 チェリーのプリンとセブンスター

 昨日は早くに寝たからか、ずいぶん早く目が覚めてしまった。

 窓の外に目を向ける。

 まだ日も登り切ってない。流石にネルも寝てるだろうな。


 下の方でガラガラッと雨戸の開く音がした。うちじゃなくて、山本おじさんの家の方……えっ!


 声を出しそうになったのを押し殺して、俺はおじさんの家の方を見ていた。

 見れば雨戸をあけていたのは、シルベスターだった。

 いつものメイド服ではなく、白とピンクのネグリジェを着ている。

 髪も少しボサボサで、まだ目も半開きのようだった。


 これは覗きじゃあない。あくまで見えてしまっただけ。

 その後シルベスターは、すぐに家の中へ入って行った。

 偶然だったとはいえ……良いものを見た気がする。


           ***


 俺も窓から目を離し、リビングへと降りた。

 驚いた事に、ネルの奴はもう起きていた。シルベスターを見ていた事は感づかれないようにしないとな。


「おや、和歌様。おはようございます。随分お早いですね」

「まぁ目が覚めてな」

「すぐに朝食もおつくりしますね。ところで、昨日の話ですが」

「あーっ、良いから作ってくれ。期待してるぞハッハッハッ」


 我ながら無理やりな誤魔化し方で、その場は収めた。


 いつもより早くに準備が済んでしまったので、俺も早めに学校へ向かう事にした。

 そのせいか、いつもはいない彼女と会ってしまった。今日はこういう日なのかもしれない。

 シルベスターはいつものメイド服に着替えていて、玄関の外をほうきで履いていた。

 早朝にも見てたってバレたら怒られるかもしれない。ここは気づかなかったふりをして、普通に挨拶をする。


「おはようシルベスター。早いね」

「おはよ。主は朝早いもの」


 そうか。山本おじさん達はお店もあるしな。


「結局、次の勝負は何作る?」

「ちゃんと考えたわ」


 一人で考えたのか。俺の出番がないと思うと、ちょっと寂しい。

 けど、ここは静かに彼女を応援しないとな。


「その、頑張ってね」

「当然!」


 いずれはシルベスターと契約する気ではいるけれど、すぐに出来るか微妙だし。お隣さんでいられる期間も、それはそれで大事にしておこう。


             ***


 とうとうリベンジの日がやって来た。前回同様、簡易キッチンが用意されている。

 なんか前回よりギャラリー増えてない? 


「それじゃあ、スタート!」


 山本おじさんが合図を出す。今回のシルベスターは俺の元へは来ず、自力で食材を買いに走った。既に愛媛の好みを伝えたからか? なんだろう、少し寂しさも感じている俺がいる。


 数分後、食材を買って戻って来たと思われるネルとシルベスターが簡易キッチンの前に立った。

 でもシルベスターが持っていたのはビニール袋ではなく、保冷バックだった。冷たいものでも買ってきたのか?


 ……どうなってる?


 二人とも、一切動かないぞ。観客達からも動揺している声が聞こえて来る。


 シルベスターは保冷バッグをシンクの上に置いてはいるけど、そこから何かを取り出して調理し始める気配もない。


 ネルもビニール袋を置いてはいるけど、中身すごく軽そう。

 その後も動いたのは時間だけ。

 結局二人が何かを作ってる様子は一切なかった。


「そこまで!」


 おじさんの合図と同時に、シルベスターは保冷バッグの中から透明なカップを取り出した。

 俺は彼女の前に立って、その中身を確認する。


 どう見てもプリンだった。黄色い部分の上に茶色いカラメルソース。さらにホイップクリームとさくらんぼを乗せたシンプルなプリン。


「プリンは冷やすのに時間がかかるから、事前に調理しておいたの。ここは王道で攻めたわ」

「すごいなシルベスター、すごく美味そうだ」

「当然よ、プリンなんて固めるだけ。朝飯前よ」

「ところでシルベスター。プリンの材料はどうしたの? 卵とかはスーパーにしか売ってないし。食材は商店街で買うってルールにも反しない?」

「そこは事前に主と話し合ったわ。プリンの上に、この商店街で買ったチェリーを乗せる事でオーケーを貰ったの」

「チェリーオンリー……!?」


 正直ギリギリな気もするけど、まぁおじさんが許したならセーフとしよう。

 シンプルではあるけど、お店に出てくるような見た目だ。うちで食べるやっすいプリンとは絶対舌触りが違うんだろうな。見て分かる。

 

 さて、これに対してネルはどう出てくるか。

 ネルは袋の中から、あるものを取り出して愛媛の前に置いた。

 なっ……嘘だろ!?

 愛媛も俺も思わずその商品名を叫んでしまった。


「セブンスターだぁ!」

「セブンスターだぁ!?」


 愛媛は喜びながらピンク色の箱を空けた。中から出てきたのは小さなラムネ菓子一個と、光り輝くハートの宝石がついたネックレスだった。偽物の宝石ではあるが、十分な輝きを放っている。


 そう、セブンスターはラムネ一個が入ってるからという理由でお菓子売り場で売られている、ほぼおもちゃの商品だ。何が出るか分からないというお楽しみ感も、かわいハートや花の形をしたアクセサリーも、全てが女児心をくすぐる。


 流石のシルベスターも抗議してきた。


「こんなの卑怯よ!」

「何が卑怯なんですか。ちゃんと商店街にある駄菓子屋さんで購入しました。何らルールには反しておりません」


 確かにルールには反していない、けど、これは流石に……。

 山本おじさんもジャッジに困っているみたいだった。

 シルベスターは普通にキレている。


「これじゃあ勝負にならないわ。もう一度勝負なさい。今度はアンタもプリンで勝負するのよ」

「何度やっても同じ結果だというのに。しつこい方ですね。まぁいいでしょう、そこまで言うならやってやりますよ」


 今回のはある意味ネルの方が反則負けじゃないのか? まぁ本人達がもう一度って言うなら、それでもいいけど。

 俺はシルベスターに近づいて、一応確認を取る。


「再戦はともかく、プリンで良かったの? ネルが市販の菓子で勝負したんだ。シルベスターも次はセブンスター三個セットとかで勝負してもいいんだよ?」

「そんなのあたしが嫌」


 負けず嫌いなんだろうな。そんな強気な所も嫌いじゃない。メイド服とのギャップがむしろ良い。

 今度はネルに近づいて、注意を入れた。


「次はちゃんとプリンで勝負してやれよ」

「分かりました」


 本当に分かってるかは分からない。次おかしな事したら愛媛から叱るようにさせよう。むしろ、その方が言う事聞く気がする。


 じゃあ俺は前回のお子様ランチ同様、愛媛が残したプリンを食おう。


 俺はプリンのあった方に目を向ける。愛媛はセブンスターのネックレスを身に着け、スプーンを手にしていた。スプーンをカップの中に入れ、黄色い部分をすくい上げる。そのカップの中身は、既に少なくなっていた。俺がネルなんかと喋っている間に、半分以上食べていたようだ。


「えっ、愛媛プリンも食べるの?」

「だってプリン食べたいもん」

「ラムネは?」

「もう食べちゃった」


 そうか、ラムネは小さいのが一個入ってるだけだからな。あっという間に食べ終わっちゃったのか。


「じゃ、じゃあ愛媛。俺にも一口」


 そう言った瞬間、最後の一口は愛媛の口の中に入っていった。愛媛はカラになった容器を机の上に置いて。


「ごちそーさまっ」


 満足そうに両手を合わせた。


「な、何で食べちゃうんだよ!」

「だって美味しかったから」

「美味しかったんなら兄ちゃんにもくれよ!」


 愛媛の両肩を思わず掴んだ。 

 そんな俺の頭を、背後から誰かが叩いてくる。


「浅ましいわよ、我慢しなさい」


 シルベスターだ。


「じゃあシルベスター、次の対決では俺の分も下さい」

「嫌よ。アンタに作った所で勝負の加点にはならないもの」


 そんな。ちょっとくらい余分にくれても良いじゃないか。

 いっそ金出せば作ってくれるかな。でも客と商売人みたいな関係になりたい訳でもないんだよな……。


「またくだらない事やってんのか! 執事だのメイドだのよく分かんないもん見せびらかして楽しいか!?」


 不幸って続くもんだな。また石村のじーさんがケチをつけてきた。シルベスターはともかく、ネルを見せびらかして楽しい訳ないだろうが。


 じーさんは観客の女の人、特に若いお姉さんにぶつかりながら歩いていた。絶対わざとじゃん。山本おじさんが怒りの声をあげる。


「何だジジイ、また来たのか!」

「来ただけで何でそこまで言われなくちゃいけないんだ。迷惑な上に酷い言いがかりをつけやがって」

「言うに決まってるだろう。それにわざわざ人にぶつかりながら歩いてくるのは止めろ!」

「ちょっと当たっただけだろうに」


 二人の喧嘩が始まった。今回もネルが止めてくれたり……あっ! 愛媛の背後に回って頭を撫でてる! いつの間に!


「おい兄ちゃん、今回もうまいもん寄こせ」


 石村のじーさんからネルの方へ近づいて行った。

 刺激しないようになのか、ネルは低姿勢で対応している。


「申し訳ございません。今回は特に持ち合わせがなく」

「何!? じゃあ無駄に人集めてたってか」

「魅力的で申し訳ない」


 自分を魅力的だって言ってるのか。すごい自信だな。


「ネルを苛めちゃダメ!」


 愛媛!?

 ネルをかばって、愛媛が両手を広げている。


「何だガキ! 命令すんな!」


 石村のじーさんが、愛媛の前髪を掴んだ。

 俺が動くより先に、ネルがじーさんの手を叩いた。


「失礼。姫様の髪に触れて良いのは僕だけなので」


 いやお前もダメだけど??


「なっ、何するんだ!」

「あなた、やめて下さい!」


 人込みの中から、申し訳なさそうな顔をした石村のばーさんが出てきた。腰の曲がった白髪のばーさんは、見るからに大人しそうな人だった。


「ばーさん……ふんっ。覚えてろよ!」


 石村のじーさんは、仕方なさそうに家の方へ帰っていく。勿論、謝りはしない。


「愛媛、大丈夫か」

「うん。でも……怖かったよぉ」


 愛媛は涙目になって頭を押さえている。


「ネルを庇ったのは偉い。けど、自分から危険な目に逢いに行くな」

「だってぇ……」


 一番悪いのは石村のじーさんだけどな。

 あぁいう奴には関わらない方が賢明だ。


「姫様が僕のために立ち向かうお姿、感動致しました。もう二度と変な奴に触れさせないよう、おそばを離れません」


 この変態にも極力近寄らないでほしい。


「すみません、うちの人がご迷惑を」


 石村のばーさんが頭を下げて、じーさんを追いかけて行った。ばーさんは優しいな。何であんなじーさんと結婚したんだか。


 山本おじさんがため息を吐いた。まさに不完全燃焼って感じ。


「あのクソジジイ、自分がタワシしか当たらなかったからってひがんでるんだ」

「そもそも何であんなにタワシばっかりだったの?」

「在庫がいっぱいあったから」


 嘘でもいいから誤魔化してほしかった。

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