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隣の家に住んでるメイドが、ちょっと苦くてちょっと甘い  作者: 二木弓いうる


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第11話 逆ギレ執事はド変態

 ネルは俺の額に手を当てて来た。俺がネルの発言を理解できないのは、熱があるに違いないとでも言いたいのだろうか。


「和歌様、体調が優れないようですね」

「健康だよ。おかしいのはお前だ」

「そんなはずありません。僕は姫様を毎日のように愛でているのですよ。姫様にはどんな怪我や病気も必ず治す効果がある。分かった、和歌様最近、姫様と一緒に居る時間少ないのではないでしょうか」

「うちの妹は普通の小学生だ。特別な力は何も無い」

「そうか、トーゴミさんなんかと出会ってしまったからか。和歌様はウイルスに感染してしまったのですね」

「あのなぁ」

「あの人は酷い人ですよ。過去に僕の恋人達に暴力を振るっていたのですから」

「……もしかしてゴリラ以外も殴ったのか?」


 頷いたネルは、指折りに数えていく。


「ポメラニアン、冷蔵庫、ウスバカゲロウ、爪楊枝……」

「なぁ、どうやったら爪楊枝に恋愛感情抱けるんだ?」

「色々ありましてね」

「……ネル、お前今まで何人と……いや、人じゃなくても良いけど、どれだけの数の恋人が居たんだ?」

「三桁は余裕ですね。ただ全員薄命でして、恋人で居られる期間は実に短かったです」

「百を越すのか。しかも全部人外なのか……」


 そういう人がいる事自体は否定しない。けど、それが妹にも同じ目を向けているとなれば話は別だ。

 ネルは笑顔で言った。


「和歌様、愛に定義など存在しないのですよ。数や形が普通でなくとも、今現在の愛が偽りでないと自分自身にはっきり言う事が出来れば、それで良いのです」

「愛と犯罪は異なるものだからな?」


 首を傾げるネル。何でそこで首傾げちゃうかな。


「そう言えば、愛媛は?」

「ソファーの上でお昼寝中ですよ。和歌様が帰ってくるまで僕のBGMは天使の寝息でした」

「聞いただけで変な事はしてないんだな」

「もちろん」

「……じゃあ良いよ」

「良いんですか、お義兄さん」

「調子に乗るんじゃない。と言うか、俺は愛媛に害が無ければそれで良いんだ」


 なぜかネルはキョトンとした顔で俺を見てくる。


「僕、今まで姫様に何か害ある事しましたかね」

「今みたいにスプーン舐めたりだよ」

「姫様自身には触れてませんよ」

「触らなきゃいいって訳でもないぞ。俺だって、ネルがただ愛媛の事が好きって言ってるだけなら、こんなに口出さない。そりゃ大きくなるまで待てとは言うかもしれないけどさ。でもネルが今までしてる事ってストーカーに限りなく近い行為じゃん」

「……そうですか」


 ネルは俯いた。反省してくれてるのかな。


「それに、動物とか無機物が好きって言ってるのも人それぞれだし、俺は仕方ないと思ってる。でも今は愛媛一筋だって言うなら、もう普通の人との恋愛を学べ。勝手に人のスプーンを舐めるな」

「それはちょっと無理かもしれません」


 即答かよ。この変態。


「少しは頑張ろうとか思わないのか」

「思いますけど……和歌様だって、綺麗と可愛いは違うって言ってたじゃないですか。それと同じですよぉ」

「それは違う。一緒にするな」

「……分かりました。もう姫様だけに愛を注ぎます」

「そうしろ。いや、本当は諦めて欲しいんだが」

「それは無理です。では手始めにキスして起こしましょう。白雪姫のように」


 ネルは愛媛の居るソファーに近寄った。俺は急いでネルの服の裾を掴んだ。


「それはアウトだ」

「姫様にしかしませんよ」

「あのなぁ、まだ愛媛は小学三年生なんだぞ。早すぎるだろうが」

「愛に速さ遅さはありませんよ。僕の初恋は三歳の時、相手は入浴剤でした」

「人間との話をしているんだよ」

 

 ネルは何故か頬を膨らませて怒り始めた。怒りたいのは俺の方なんだけど。


「もう。じゃあ僕はどうすれば良いんですか。令和の時代にお手紙からなんて古風な事でも言うんですか。良いでしょう、やってやります。そこまで言うならちゃんと教えて下さいよ。僕日本語書けませんから!」

「逆ギレすんな! 俺だって普通に遊ぶくらいなら止めたりしない。けどお前舐めようとするじゃん。物理的に舐めようとするじゃん!」

「かわいい子は舐めるもんでしょう!」

「犯罪なんだよ!」

「自分が舐める相手がいないからってそんな事言って。和歌様、貴方はまるで僕が悪いみたいに言いますけどね」


 そう言って台所に立ち、勝手に冷蔵庫を開けるネル。愛媛に手を出す事は諦め、夕食の準備を始めるようだ。

 俺は壁に寄りかかって、その様子を見張る。また愛媛のスプーンでも舐め出したら許さないからな。


「小学生に手を出そうとしてる奴が悪くないとでも?」

「愛に歳など関係ありませんってば。というか前から感じていたのですが、和歌様は僕の事ロリコンか何かだと勘違いなさってませんか?」

「そうだろうが」

「一緒にしないで下さい。僕は普通ですよ。ただちょっと愛が濃すぎるだけで」

「それ結局ストーカー行為って事だろ。お前が一番心配なんだが」

「そんな事ないです。まさか和歌様、僕が姫様の下着を盗んだりとか、そんな低脳な心配をなされてるのですか」

「だってお前そーゆー奴だろ」


 ネルは不服なのか、頬を膨らませたままだ。かわいくも何ともない。


「失礼な。僕はそんな下劣な事はしません。だったら堂々と、姫様がもうお召にならなくなったお洋服を頂いて、それらを縫い合わせ、シーツや布団カバー、枕カバーにします。そして姫様のほのかな香りに包まれて寝ます」

「ドン引きだよ」

「仕方ないでしょう。姫様愛らしいですし……まさか和歌様、姫様に禁断の恋を?」

「ねーよ」

「それはダメですよ、姫様は僕のです」

「ちげーよ!」

「違いませんけど、まぁ和歌様が姫様を家族愛としてしか見ていないのならば僕は和歌様なんてどうでも……いや、よくないですね。だって姫様と僕が結ばれたら、和歌様と僕は兄弟になる訳ですし。和歌様が変な奴と結ばれると僕の親族がおかしな事になりますからね」

「まずお前と愛媛が結ばれる所からおかしいんじゃないか」

「そんな事ないです。それで和歌様、どのような娘がお好みですか。僕が探して来ます」


 輝かせた目で俺を見てくるネル。こっち見んな。というか、余計なお世話すぎる。


「余計な事はするな」

「そうおっしゃらずに。別に言う位良いじゃないですか。ただの雑談ですよぉ」

「……かわいい系とキレイ系だったら、かわいい方が良い」

「姫様の事じゃないですか!」

「性格はまぁ、自分の言いたい事ハッキリ言えるタイプのが好き」

「姫様の事じゃないですか!」

「でも実は寂しがりやとか可愛いところがあると」

「姫様の事じゃないですか!」

「うるせぇ!」


 大きな声で怒った俺に対し、ネルは急に小声になる。


「そんな大声出さないで下さい。姫様がびっくりしたら可哀そうでしょう」

「愛媛はこの程度でビビらない」

「和歌様が姫様に似ている方をご希望だとは分かりましたから。残念ながら僕が知ってる女性で姫様に似ている方はいらっしゃいませんねぇ。いたらご紹介できたのですが」

「いや、お前の知り合いって大体人外だろ。俺人間がいい」

「いえいえ、うちの会社にいる女性なら紹介出来ますよ」

「それはあれか、メイドさんって事か」

「えぇ。特殊クラスだけでも、あの化け物抜かしたら三人いますから。むしろ僕以外一応メイドだったのに、僕が来るなんて運命でしたね」


 呪いの間違いだと思う。


「でも特殊クラスって事は、やっぱりちょっと個性的なんだろ?」

「そうですねぇ。赤子や老婆に手を出して書類送検された事がある人と、ヘビースモーカーギャンブラーと、対人恐怖症ですね」

「そりゃメイドとしては問題児だな」

「えぇ。特殊クラスは特殊過ぎるあまり、ずっと契約が取れなかった者達の集まりです。会社が取った妥協策が、商店街の景品だったんですよ」

「……それさ、会社がお前らを追い出したかっただけじゃないか?」

「あの会社おかしいんですよ。僕の事を変態とか言いますし。僕が特殊クラスに入れられている意味は今でも分かりません」

「あの会社は信頼出来る所だな」


 目の前の変態は「そんな事ないです」と言いながら、調理を再開した。料理するのが好きって男もいるし、それを見るのが楽しいって人も世の中にはいるけど。俺は男の料理する様を見てても面白いとも何とも思わない。


「他にも事務仕事の女性もいますし、社長の娘だっていますよ」

「それはそれで気になるけど……シルベスターとか可愛いと思うんだけど」

「ボロ雑巾が何ですって?」

「誰もボロ雑巾の話なんかしてない」


 ネルは手元に玉ねぎを用意し、皮を剥いていく。俺の方は一切見ない。それはそれで腹立つな。


「そうですよね。本物のボロ雑巾の方が可愛いですよね」

「そんな事ない」

「しかし和歌様、シル……あぁ嫌だ、口にもしたくない」

「ほんとにシルベスター嫌いだよな。お前が人間の可愛さ分かってないだけじゃないのか? 言ってしまえば、お前愛媛が初恋なんだろ」


 ネルは玉ねぎをまな板の上に置き、包丁を握ってトトトトトトっと勢いよく刻み始めた。その手慣れた感じを見て、俺はようやくコイツが使用人だった事を思い出した。もはや変態としか見てなかった。


「それもそうですね。僕、人間相手じゃ姫様が初恋でした。姫様には僕の初めてを奪った責任を取っていただかなくては」

「それはダメだ。ネルは常識と忍耐力を覚えろ。な?」

「頑張ったら交際を認めてもらえますか」

「お前が真人間になったらな。あ、でも愛媛が嫌だって言ったら問答無用で追い出す」

「分かりました。真人間に……トーゴミさんみたいにならなければ良いのですね」

「シルベスターはそこまで悪い子じゃないぞ」

「和歌様はお優しいですね。何でそこまで言い切れるのですか。トーゴミさんに何か洗脳でもされました?」

「えっ」


 膝枕の時の事を思いだして、俺は思わず顔が赤くなる。

 こんな時に限ってコイツは俺を見るものだから、何かを感づかれてしまった。


「何かされたんですね。何ですか、あっ、色仕掛けですか!」

「いや、そうじゃない。愛媛ー、そろそろ起きないと夜眠れなくなるぞー」


 愛媛を起こしに行こうとする俺を、ネルは血相を変えて追いかけてくる。シルベスター関連だと追いかけてくるのか。


「本当に何かされたんですか、答えて下さいよ和歌様!」

「あー、うるさいうるさい」


 俺は逃げるようにリビングを出た。その日の夜もネルリヤンに問責められたが無視するために早くに寝た。


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