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隣の家に住んでるメイドが、ちょっと苦くてちょっと甘い  作者: 二木弓いうる


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第1話 愛媛とお試しキャンペーン

 俺はトレーの上に転がった、赤い玉を見つめていた。妹の愛媛も、ガラガラくじのハンドルを握ったまま玉を見つめている。


「おめでとう、四等!」


 抽選会主催の山本おじさんが笑顔でハンドベルを振る。おじさんとは呼んでるけど、白髪頭で腰も曲がっていて、年齢的にはおじいさんだと思う。隣の家に住んでいて、昔から良くしてもらっているから、俺達は山本おじさんって呼んでるけど。

 いや、今そんな事はどうだっていいな。


「よっしゃ、何だかよく分からないけど別のもん当たった!」


 俺はスクールバッグの中を埋め尽くしていた大量のたわしに目を向ける。これ以上たわしが増えたらどうしようかと思ったわ。腐らないとはいえ、そこまで使うもんでもなくない?


「お兄ちゃん、当たったよ!」

「おう、良くやった!」


 愛媛は余程嬉しいのか、その場でピョンピョンとジャンプする。俺も同じくらい嬉しかったけど、流石に高校一年生の男が小学三年生の妹と揃ってジャンプをするのはちょっと恥ずかしいからな。やめておこう。


「はは、愛媛ちゃんは可愛いねぇ」


 山本おじさんに褒められ、愛媛は「へへー」と笑みを零した。

 確かに愛媛は母さん似で、可愛い顔をしている。今日はピンクのワンピースに白いカーディガンを着てるから、余計にそう見えるかも。

 父さん似で可愛げなど一切ない俺との共通点は、黒髪ってことくらいだろうか。


「で、四等って何だっけ」


 俺の質問に、山本おじさんは笑顔で答えた。


「ああ、メイドか執事だよ」

「は?」

「メイドか執事」

「ちょっと待って、メイドか執事って……あの金持ちの家に居る奴だよね」

「そうだよ。こんな商店街には居るはずがない奴だよ」

「……そんなのが何でこんな商店街のガラガラくじの景品になってるの?」


 しかも都会のイベントでならまだしも、ここは田舎町にある商店街だ。半分はシャッターが閉まっていて、少し寂しい雰囲気もある。


「ある会社から電話が掛かってきてね。景品にしてくれって。はいこれ」


 俺はおじさんからパンフレット受け取り、書かれた文章を読み上げる。


「アラカルト派遣会社――普通のご家庭にも豪華で楽な生活を、をモットーに働く、メイドや執事専門の派遣会社です。内容は普通の派遣会社や家政婦紹介所とは異なりますが、絶対に損はさせません。是非ご検討下さいませ」


 おじさんはもう一枚、紙を渡してきた。さっきの紙と比べると、随分ぺらっぺら。


「あとこれね」


 俺はおじさんから受け取った、ぺらっぺらな紙を読み始める。


「えっと……この度はご当選おめでとうございます。さて、貴方様には我社におります特殊クラスのメイドか執事を雇う、無料お試しキャンペーンをプレゼント致します。契約期限は二週間。住み込みの契約にはなってしまいますが、使用人達の生活費用は全てこちら側で全額負担させていただきます。貴方様がする事は、本当に豪華で楽な生活を送る事だけ。キャンペーンご希望の場合は下記電話番号までお電話下さい」

「そうそう。下の方までちゃんと読んでねって」


 そう言って、おじさんは俺が持つ紙を指さした。下の方? あ、ほんとだ。一番下に何か小さく書いてある。


「注意! 我社の社員は皆優秀なのですが、特殊クラスの者は少々性格・性癖に難有りです。よく考えてからお電話下さい。返品不可」


 読み終えた俺は、思わず眉を顰めた。こんな怪しい話、ある訳ないだろ。

 他人事だからなのか、おじさんは笑顔で言った。


「試してみても良いんじゃないかい? 君達、今は二人暮らしだし。大変な事だって多いだろ? おじさん達だって協力はするけど、限度があるからね。今後の事を考えたら、身近で助けてくれる奴が傍に居た方が良いよ」


 おじさんのいう事はもっともだ。正直、二人しかいないうちも問題なんだよな。


 俺は再びパンフレットの表紙に目を向ける。そこにはメイド服を着た綺麗なお姉さんが映っていた。くるぶしまで丈のある黒いワンピースに、白いエプロンがまぶしい。髪をキャップの中に入れていて、いかにもメイド長って感じのお姉さん。でも微笑んでいるその表情は、怖そうには思えなくて。むしろとっても優しそうだった。


 この人が家でお世話してくれるとか最高じゃん。この人じゃなかったとしても、もしアニメや漫画みたいな可愛らしいメイドが来てくれたら。あわよくば……という事もあるんだろうか!


 なんて、あるわけねーわ。現実はもっと厳しいもんだ。こんな人がうちに住み込みで働くなんて、後々怪しい壺とか買わされかねない。


「おじさん。タダほど怖いものはないって言うじゃん。流石にこれは怪しすぎるって。難ありとか書いてあるし」

「そうかな。悪い話じゃないと思うんだけどな。タダだし」

「俺は嫌だ。それは受け取らない事にする。なんならこの権利はおじさんに譲る」

「いいのか?」

「いいよ。おじさんが良いならだけど」


 俺はおじさんにパンフレットとぺら紙を渡す。本当は他の賞と交換してくれって言いたかったけど、それでたわしが増えても困るので諦める。

 愛媛が少し悲しそうな顔で俺を見てくるけど、気にしてはいけない。


「当てたの、あげちゃうの?」

「うちには必要ないって。俺達が狙ってたの、一等の米と二等の甘味詰め合わせじゃん。おいしくないやつは別にいらないだろ?」

「んー……えひめ、プリンがいい」


 俺の言葉で考えを改めたようで、愛媛はもうケロっとしている。よしよし、スーパーのやっすいプリンで誤魔化そう。


「じゃあ今度プリン買ってやるから、それで我慢してくれ」

「分かったー」

「よし、じゃあ帰るぞ」


 俺達は手を繋いで、商店街を後にした。


                ***


 その日の夜。山本おじさんから電話がかかってきた。


『神崎君に譲ってもらったのが申し訳ない位、すごく良い子が来たよ!』

「……はい?」


 興奮気味に言うおじさんとは対照的に、俺は冷静に話を聞いた。


『あの景品の話だよ。あの後、会社に電話してみてね。早速来てもらったんだよ。そしたらな、来たんだよ。本物のメイドが! 外国人の女の子でね、歳は神崎君と同じくらいかな。でも日本語すごくうまいし、メイドとしての仕事も完璧にこなしてくれるんだ。まぁ、確かにちょっと気が強くて不器用な子だから難アリって言われてもおかしくないけど、石村のクソジジイと比べたら全然良い子だったよ!』


 石村のクソジジイというのは、町内会でもすぐ問題を起こすクレーマーおやじだ。俺も歩き方がムカつくと言われた事がある。そのクソジジイと比べたら誰だって良い子になる気もするけれど。


「そっか。喜んでもらえて良かった」

『いやぁ、うちの妻も喜んでるよ。うち子供いないし、まるで娘か孫が出来たみたいだって。しかも、あんなにかわいい子が来るなんて思ってもなかったからさぁ』

「そっか。かわいいんだ……」

『あぁ、すごくかわいいよ。パンフレットに乗ってたメイドさんは美人さんって感じだったけど、うちの子はもっとかわいい系って言うのかな。神崎君も見たらうっかり惚れちゃうかもしれない。それ位のかわいさだよ。美少女コンテストにでも出したら優勝するんじゃないかな!』

「そっか……」


 俺はその場にしゃがみ込み、腕を抱えてうずくまる。


『それでね神崎君、実は相談あるんだけど……あれ? 神崎君? もしもし?』


 愛媛が俺の手から受話器を取った。いつもなら取り返しただろうけど、今はまぁ、いいか。うん。


「お兄ちゃん泣いてるー」

『泣いてる!?』


 いやだって、そんな大絶賛される程の美少女と暮らせる権利を放棄してしまった訳だろ? そりゃおじさんが喜んでくれてるなら何よりだけど、俺だってメイド美少女と暮らせるものなら暮らしてみたかった。何故あんなにも疑ってしまったのだろうか。もっと素直に喜んで受けとりゃ良かった。


 後悔が頭の中をグルグル回っている。愛媛が電話越しにおじさんと何か話している。いつもなら、おもちゃじゃないんだぞって止めるけど。今は無理。そんな元気ない。メイドと暮らしたい。


 その愛媛が俺の顔に笑顔を向けてくる。あぁそうだな、お兄ちゃんには愛媛がいるもんな。愛媛で我慢するわ。


「お兄ちゃん、もう一人余ってるって」

「……は!? ちょ、ちょっと変わって」


 俺は愛媛から受話器を受け取り、耳に当てる。


『あぁ神崎君? 変わった?』

「はいすいません、あの、余ったってもしかして」

『うん。四等ね、五枠あったんだよ。でもくじの当選として出たの、四枠だけだったんだ。で、くじは今日までだったからこれ以上出る事ないし。会社側に聞いたら、利用したい人がいるなら当選者でなくてもぜひご利用下さいって言うし。うちだけもらうの悪いから、神崎君さえ良かったら貰っちゃえば? って思って』


 おじさんは続けて、メイドがいる会社の電話番号を教えてくれた。おじさんとの通話を切った俺は、一応愛媛に確認を取る。


「愛媛ぇ、家に知らない人が住んでも平気か?」

「いいよ。お友達になれるよ」

「そうか……じゃあ、まぁ、いっかぁ」


 俺は笑顔で、教えてもらった電話番号を入力した。

 

 それが全ての始まりだなんて、一体誰が思えただろうか。

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