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『絶対味覚の毒見侍女と、父を陥れた天才包丁人――宮廷に潜む嘘を、私は舌で暴く』  作者: 水前寺鯉太郎


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第八回

第八回:断崖の別れ、母が遺した最後の一匙

 ドカドカッ、ヒヒィーン!――静寂を切り裂く、軍馬の嘶きと荒々しい蹄の音。漢陽ハニャンの場外、深い霧が立ち込める断崖の淵。ミョンイはソリの小さな手をギュッと握りしめ、背後に迫るチェ一族の私兵たちの殺気から逃れるように、一歩、また一歩と後退した。

 シャッ、シュルリ――闇の中から放たれた矢が、ミョンイの肩をグサリと貫く。

 「……お母様!」

 ソリの悲鳴が、夜の谷間にキィィィィンと虚しく響いた。

 ポタポタ、ジワリ――雪の上に零れ落ちる、母の紅い血。ミョンイは激痛に顔を歪めながらも、ソリを岩陰へとグイッと押し込んだ。

 「……聞きなさい、ソリ。どんなに泥を噛むような日々でも、あなたは『命の味』を忘れてはだめ……」

 ゴソゴソ、チャリッ――ミョンイは懐から、一振りの古びた銀のスプーンを取り出し、ソリの手のひらにギュッと握らせた。

 「これで……真実を味わうのよ。……逃げなさい!」

 ドサッ、ゴロゴロ……――追っ手の剣が振り下ろされる直前、ミョンイは自ら崖下へと身を投げた。ソリの視界で、母の姿が深い闇へとスゥーッ……と吸い込まれていく。

 「……お母様ぁぁぁ!!」

 パチパチ、ボウッ――追い打ちをかけるように、私兵たちが放った火矢が周囲の枯れ草を焼き払う。ソリは一人、熱風の中でハァ、ハァ……と枯れた呼吸を繰り返しながら、母の遺した銀のスプーンを、口の中にガチリと含んだ。

 ……。

 冷たい。けれど、その奥に潜む「母の涙」の塩気が、幼いソリの舌にジリジリと刻み込まれた。復讐の炎が、彼女の心臓をドクン!と突き動かす。

 ザッ、ザッ、ザッ……――ソリは一度も振り返らず、泥にまみれた足で、地獄のような漢陽の街へと歩き出した。

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