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『絶対味覚の毒見侍女と、父を陥れた天才包丁人――宮廷に潜む嘘を、私は舌で暴く』  作者: 水前寺鯉太郎


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結び

終章:一〇〇年後の君へ ― 銀のペンの遺言

 一〇〇年の歳月が流れた。かつて中宗王が治めた王宮は、新たな時代の風に洗われ、人々の装束も、言葉も、少しずつ形を変えていた。

 王宮の書庫の片隅。一人の若い見習い医女が、整理を命じられた古い木箱を開けた。そこには、茶色く変色した紙の束と、見たこともない、だが不思議と気品を湛えた「銀色の筒」が眠っていた。

 「……これは、何?」

 彼女がその銀の筒――一〇〇年前のボールペンを手に取ると、驚くべきことに、その軸には今もはっきりと「大長今」の文字が刻まれていた。傍らにあった記録を開く。そこには、筆で書かれた掠れた墨文字とは明らかに違う、力強く、鮮明な「青い線」が並んでいた。

『一〇〇年後の君へ。

もし君がこの記録を読んでいるなら、君はきっと、誰かの痛みを取り除こうと足掻いているはずだ。

記録は、君を一人にしない。

かつて私が流した涙も、見つけた薬草の力も、このインクの中に生きている。

迷ったときは、このペンを握りなさい。真実は、君の指先から始まるのだから』

 見習い医女は震える手で、その銀のペンを白紙の上に滑らせた。さらさらと、一〇〇年の時を飛び越えてインクが溢れ出す。墨を磨る必要も、地位のある男の許可を得る必要もない。彼女はただ、目の前の病に苦しむ民のために、ソリから受け継いだ知恵を、その場で、その瞬間に書き留めていく。

 「……ありがとう、大長今様。私は、あなたの続きを書きます」

 窓の外では、かつてソリが歩いた同じ道に、新しい命が芽吹いていた。千七百年の闇を抜けた先、この国はもはや「隠蔽」の国ではない。誰もが「真実」を手にし、自らの手で歴史を刻むことができる「記録の時代」へと突入していたのだ。

 夕日に照らされた銀のペン先が、一筋の光を放つ。それは、過去から未来へと繋がる、決して途切れることのない「命の線」であった。

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