第四十七回
第四十七回:銀の絶筆、真実の疾走
「……済まない、ソリ。……私は、臆病者だった」
刺客の刃に倒れ、虫の息となったユンス。彼の視線の先には、ソリが握りしめる「銀のボールペン」があった。月光を浴びて冷たく輝くそのペンは、まるで死にゆく者の魂を浄化する審判の杖のようだった。
ソリは無言で、ペンをユンスの手へと握らせた。
「……これで、書いてください。あなたが葬った真実を。後の世が二度と、同じ過ちを繰り返さぬように」
ユンスは血に濡れた手で、震えながらペンを走らせた。筆と墨であれば、この出血と混乱の中では満足に文字を成せなかっただろう。だが、ボールペンの先端は、力尽きようとする彼のわずかな筆圧を正確に捉え、紙の上に「消えることのない告白」を刻みつけていく。
『アヒルに毒はなかった。すべては、オ・ギョモの命を受け、チェ一族と共に私が仕組んだ謀略である。――内医正ユンス、死を以てこれを証す』
最後の一点を書き終えた瞬間、ユンスの手から銀のペンがこぼれ落ちた。カラン、と乾いた音が静寂に響く。それは、千七百年の歴史の中で歪められてきた「嘘の鎖」が断ち切られた音だった。
「……ソリ、君はここに残れ。私は、この『命の記録』を王様の元へ届ける!」
証書を懐にねじ込み、ミン・ジョンホは愛馬の腹を蹴った。免職の身でありながら、彼は今、一国の軍隊にも勝る「真実」を背負っていた。
背後で刺客の増援が迫る。だが、ジョンホの瞳に迷いはない。
「どけ! 私は司憲府監察、ミン・ジョンホである! 王命の証、この銀の筆跡を見よ!」
宮廷の門番たちが、彼のただならぬ気迫と、その手に掲げられた銀のペン――王の下賜品の輝きに圧倒され、次々と門を開く。ザッ、ザッ、ザッ――蹄の音が、千七百年の帝国の夜明けを告げる鐘の音のように響いた。
その頃、オ・ギョモとチェ女官長は、ユンスの殺害が完了したと信じ、勝利を確信していた。
「……これで、すべては闇の中。あの医女も、いずれ消える運命よ」
チェ女官長が優雅に茶を啜ったその時、バタンッと激しく扉が開き、血と埃にまみれたジョンホが、王の御前へと飛び込んできた。
「……王様! 死にゆくユンスが、その『銀のペン』で遺した最期の証言でございます!」
差し出された紙に記された、鮮明な、そして決して消すことのできない青いインクの文字。中宗王の瞳が怒りに燃え、オ・ギョモの顔から血の気が失せていく。
記録が、ついに権力を凌駕した。




