第四十六回
第四十六回:白銀の筆跡、沈黙の証言
「……見えます。ソリ、お前の顔が……ハッキリと見えるぞ」
中宗王が再び光を取り戻したその瞬間、内医院に衝撃が走った。医局長ユンスと同じ病名を下しながら、なぜソリの処方だけが王を救えたのか。
「……病は同じでも、その『根源』が違いました。ユンス様は書物の記録を診ましたが、私は王様の『日々の生活の記録』を診たのです」
ソリの理路整然とした説明に、並み居る重臣たちは言葉を失った。この勝利は、オ・ギョモの権力基盤を根底から揺るがす。彼は自らの保身のため、長年の腹心であったユンスを即座に切り捨て、医局長の座を剥奪した。トカゲの尻尾切り――千七百年の歴史の中で繰り返されてきた、権力者の卑劣な再編劇である。
王の回復により、チェ女官長とクミョンへの嫌疑も晴れ、二人は獄から解き放たれた。だが、自由を得た彼女たちが最初に向かったのは、感謝の祈りではなく、オ・ギョモへの糾弾だった。
「……私たちを見捨てようとしたこと、終生忘れませんわ」
チェ女官長の冷たい一言。かつての鉄の結束に、修復不可能な亀裂が入った。
「……王様。どうか、ハン最高尚宮様と、私の母の名誉を回復してください」
ヨンセンの計らいで拝謁したソリは、涙ながらに訴えた。だが、歴史の重みはあまりに深い。一度「罪人」として刻まれた記録を覆すには、まだ決定的な「証言」が足りなかった。
ソリは、免職中のミン・ジョンホと共に、没落したユンスの屋敷を訪ねる。
「……ユンス様。あのアヒル事件の真実を、あなたが書き記した『裏の記録』を、見せてはいただけませんか」
その時、静寂を切り裂いてチェ一族が放った刺客たちが現れる。証拠を隠滅し、口を封じるための最後の手段だ。乱闘の最中、ソリの懐で鈍く光るものがあった。それは、王が褒美として下賜した、龍の細工が施された「銀のボールペン」。
「……このペンは、毒に触れれば色を変える銀でできている。……お前たちの吐く嘘も、このペンは逃さない」
死の淵にあるユンスを前に、ソリは銀のペンを握りしめた。これで書かれる言葉は、もはや単なる文字ではない。千七百年の闇を照らす、不可逆の「審判」となるのだ。




