第四十三回
第四十三回:王の筆跡、真実を綴る金色の筒
「……ソリ。面を上げよ」
中宗王の声が、重厚な玉座の広間に響く。傍らには、かつてソリを追い詰めたオ・ギョモやチェ女官長が苦虫を噛み潰したような顔で並んでいる。
王の手元には、あの西域から届いた魔法の筆記具があった。だが、それは先日王が驚きのあまり転げ落ちたものとは違う。白銀の軸に、細工師が龍の紋様を彫り込み、そこには王の直筆を模した「大長今」の名が刻まれていた。
「余の母を救ったのは、古い格式ではなく、お前の執念と知恵であった。……これを受け取れ。墨を必要とせず、水に濡れても消えぬこの筆で、お前が見た『真実』をこの国の歴史に刻み続けるがいい」
捧げ持たれたボールペンが、ソリの手元へと渡る。手に取った瞬間、ずっしりとした金属の重みが、そのまま「命を記録する責任」の重さとなって彼女の掌に伝わった。
(……王の名が入ったペンだと! あんなもので何を書くというのだ……!)
チェ女官長の背筋に冷たい汗が流れる。これまでの宮廷では、筆と墨を準備する間に、不都合な記録を「うっかり」汚したり、書き直したりする隙があった。だが、このペンにはその隙がない。見たものを、その場で、消せないインクで即座に記される。それは、隠蔽を常としてきたチェ一族にとって、逃げ場のない光に射抜かれたも同然だった。
その夜、ソリは内医院の片隅で、下賜されたペンを紙に走らせた。さらさらという心地よい振動。
『母様、ハン最高尚宮様。……今、私の手には、王様から授かった「真実の杖」があります』
ソリの指先で、千七百年の歴史が「過去」から「未来」へと、これまでにない速度で書き換えられようとしていた。




