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『絶対味覚の毒見侍女と、父を陥れた天才包丁人――宮廷に潜む嘘を、私は舌で暴く』  作者: 水前寺鯉太郎


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第四十一回

第四十一回:二つの脈診、そして「万年筆ペン」の衝撃

 「……後陣痛。間違いありません」

 医女ヨリの断定に、奥御殿の空気は凍りついた。鍼が打たれるたび、后(王妃)の顔色は土色へと沈んでいく。

 ソリは、その指先が捉えた「違和感」を反芻していた。ヨリの脈診は完璧だ。だが、それは「教科書通りの病」を探しているに過ぎない。ソリが見ているのは、后の食習慣、心の疲弊、そして微かな体温の変化……料理人として培った「生命全体」の記録だった。

 「シン教授、お聞きください。ソリには別の見立てがございます」

 シンビの勇気ある発言が、沈黙を破った。シン・イクピルの厳しい視線がソリを射抜く。

 「……申してみよ。お前の指は何を読み取った」

 ヨリとの再診。それは、個人の名誉を懸けた戦いではなく、后の命という「歴史の連続性」を守るための聖戦となった。

 一方、宮廷の権力構造は、チェ女官長の「孝心」を逆手に取った策によって揺れていた。

 「……王様が左賛成チャチャンソンの改革を支持なさるなら、私は治療を拒み、このまま果てましょう」

 関節炎に苦しむ皇太后の頑なな拒絶。中宗王は国政を捨て、母の枕元で断食してまで懇願する。オ・ギョモの失脚を狙うミン・ジョンホの先手に対し、チェ一族は「王の情愛」という最強の盾を突きつけたのだ。

 その混乱の最中、西域の交易商人が、見たこともない献上物を持ち込んだ。

 「……これは『ボールペン』と申しまして、墨も筆も、硯も不要。ただ紙の上を走らせるだけで、思考がそのまま形となる魔法の道具にございます」

 中宗の手が、その細い筒を握る。さらさらと、紙の上に滑らかな線が描かれた。墨が乾くのを待つ必要もなく、筆を整える手間もない。

 「……な、なんという……! これがあれば、政務の報告も、民への触れ書きも、これまでの十倍の速さで成せるではないか!」

 あまりの利便性に、心身ともに疲弊していた中宗は、思わず玉座から転げ落ちた。

 「これだ……! この『記録の力』こそが、我が国を次の千年へと導く!」

 ソリが医学で命の記録を正そうとする中、王は「書く」という行為の革命を目の当たりにしていた。

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