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『絶対味覚の毒見侍女と、父を陥れた天才包丁人――宮廷に潜む嘘を、私は舌で暴く』  作者: 水前寺鯉太郎


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第三十九回

第三十九回:瞳に宿る真理、非情なる落第宣告

 「……なぜ、あなたは私よりも遅いのに、患者の顔をそんなに長く見つめているの?」

 深夜の修練場。ソリは、同期のシンビが一点の曇りもない瞳で病人と向き合う姿に、雷に打たれたような衝撃を受けた。自分は「正解」を探していた。だがシンビは「痛み」を探していたのだ。

 シン教授の冷徹な「不可」の正体……。それは、知識を武器にして己を誇示しようとするソリの慢心への警鐘だった。

 「……ようやく、分かりました。医術とは、過去の書物を写すことではなく、目の前の命という『生きた記録』を読み解くことなのですね」

 ソリの指先から、余計な力が抜けた。その瞬間、彼女の針はかつてないほど鋭く、かつ優しく、経絡を捉え始めた。

 そんな折、トックの家に一人の女が乗り込んできた。

 「おい、トック! 景気はどうだい!」

 豪快な笑い声と共に現れたのは、済州島の恩師チャンドク。彼女の漢陽ハニャン到着は、停滞していた空気にかき混ぜ棒を入れるようなものだった。

 「……ソリ、あんた。宮中の飯を食って、また頭でっかちになってるんじゃないだろうね?」

 チャンドクの毒舌は、ソリに「野の医術」の逞しさを思い出させる。トック夫妻との騒がしい再会。それは、巨大な陰謀に立ち向かう一行にとって、束の間の、しかし最も必要な「心の薬」となった。

 月日は流れ、修練の半年が過ぎ去った。翌日に修練終了を控えたその日、イ教授の口から非情な試験結果が読み上げられる。

 「……以上。……そして、この二名は落第とする。今すぐ荷物をまとめ、故郷へ帰れ」

 凍りつく教室。落第者の名は、単に成績が悪かった者ではなかった。それは、イ教授の「宴会」という名の懐柔を拒み、シン教授の「実直な医道」を選んだ者たちだった。権力に跪かない者は、歴史から消去される……。イ教授の冷笑は、そう告げているようだった。

 ソリの指が、拳となって固く握られる。

 「……記録を消すことはできても、流した汗と真実は消せません」

 その眼差しは、もはや一介の修練生のものではない。千七百年の歴史の重みを知る、一人の「闘う医女」のそれであった。

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