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『絶対味覚の毒見侍女と、父を陥れた天才包丁人――宮廷に潜む嘘を、私は舌で暴く』  作者: 水前寺鯉太郎


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第二十六回

第二十六回:濁る薬汁、静かなる宣戦布告

 「……やはり、私の目に狂いはなかった。私の采配こそが、明の使者を満足させたのだわ」

 女官長の前で、チェ尚宮は扇をパッと広げ、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 太平館。脂ぎった山海の珍味に飽き果て、糖尿病に苦しんでいた使者が最後に求めたのは、ソリとハン尚宮が差し出した「真実の味」――体に染み渡る滋養のスープだった。使者は「滞在中の食事はすべて彼女たちに任せる」とまで宣言したのだ。だが、その手柄を横からサッと掠め取り、自分の功績として報告する。これこそがチェ一族の、そして宮廷という魔窟のやり方だった。

 一方、宮外の隔離施設。

 「……おかしい。他の者たちは快方に向かっているというのに、なぜ私だけが……」

 チョン最高尚宮の喉は、砂漠のように乾き、視界はドロリと濁っていた。宮中から届けられる高価な薬。それを飲むたびに、体の中から力がシュルシュルと抜けていく感覚がある。彼女は傍らに控えるミン尚宮の手を、ガシッと掴んだ。

 「……ミン尚宮。この薬のかすを包んで、町医者の元へ走りなさい。……誰にも知られてはならぬぞ」

 数刻後。戻ってきたミン尚宮の顔は、幽霊のように真っ白だった。

 「最高尚宮様……。これは、病を治す薬ではありません。……少しずつ、真綿で首を絞めるように体を蝕む『遅効性の毒』が混じっております」

 沈黙。部屋を流れる空気までもが、ピキリと凍りついた。チョン最高尚宮の瞳に、かつてない鋭い光が宿る。

 (女官長……。お前は、私をそこまでして排除したいのか)

 その頃、ソリは后(王妃)の前に跪いていた。

 「ナウム寺で看取った、あの尚宮の最期を教えておくれ」

 后の穏やかな、しかしすべてを見透かすような瞳がソリを射抜く。ソリは静かに、だが一言一言に真心を込めて語り出した。権力に翻弄され、孤独に死を待っていた老婆が、最後に何を想い、何を味わったのか。

 「彼女が求めたのは、豪華な膳ではなく、幼い頃に食べた素朴な味でした。料理とは、人の心を、記憶を救うものでなければなりません」

 同席していた長官が、深く頷く。

 「后様。太平館での一件も、このソリ……チャングム(長今)という娘であればこそ、心を尽くして使者を救えたのでございましょう」

 その言葉は、后を通じて皇太后の耳へと、さざ波のように広がっていく。チェ一族が築いた「偽りの功績」の足元を、ソリの真実が静かに侵食し始めていた。

 「……呼んだか、チョン最高尚宮。死に損ないが何の用だ」

 隔離所に現れた女官長は、鼻をつまむようにして冷たく言い放った。チョン最高尚宮は、寝台から這い出すようにして立ち上がり、女官長の耳元で、カサカサと枯れ葉が擦れるような声で囁いた。

 「……お前が私に飲ませていた、あの『黒い汁』の正体……。町医者が驚いておったぞ」

 女官長の顔から、血の気がスッと引いた。

 「……何を、馬鹿なことを」

 「私を今すぐ宮中へ戻せ。……さもなくば、この薬の残りは、司憲府サホンブの役人の手に渡ることになる。……どうする、女官長?」

 ギラリ――老いた虎の最後の牙が、女官長の喉元に突きつけられた瞬間だった。

 夜の帳が降りる頃、ミン・ジョンホは、トックの案内で賑やかな料亭の裏口に立っていた。

 「旦那様、ここです。チェ・パンスルが、横領した金をこっそり運び込んでいるのは……」

 トックがブルブルと震えながら指差す先。豪華な衣装に身を包んだ商人たちが、札束や銀塊をやり取りする影が窓越しに映る。ジョンホは腰の剣を静かに確かめ、鋭い視線で闇を睨みつけた。

 「……宮中の毒を、外の金が支えているというわけか。……すべて暴き出してくれる」

 ザッ――ジョンホが闇へと踏み出す。ソリが料理で戦うなら、彼は剣と正義で、この巨大な悪の網を切り裂く覚悟だった。

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