第二十三回
第二十三回:チェ一族の焦り、毒見侍女を襲う「見えない包囲網」
ギィィィィ……、バタン――水刺間の重い扉が開く音。ウナム寺から戻ったソリの足音は、以前よりもスタッ、スタッと迷いがなく、地面を捉える響きに重みが増していた。出迎える女官たちの視線の中に、チェ尚宮のジロリとした、射抜くような殺気が混じる。
「……よく戻ったわね、ソリ。寺でのもぐもぐとした田舎料理で、味覚が鈍っていないといいけれど」
チェ尚宮の言葉は、絹に包んだ針のようにチクリとソリの鼓膜を刺す。だが、ソリは微笑みを絶やさず、静かに頭を下げた。その懐には、亡き老尚宮から託された「真実への鍵」――母の死の真相に繋がる、ある「匂い」の記憶が隠されていた。
ドクン、ドクン――チェ一族の焦りは、即座に「目に見えない牙」となって現れた。翌朝、ソリが調理場へ向かうと、そこには異様な静寂が広がっていた。
パシャンッ!――ソリが触れた水瓶から、鼻を突くツンとした刺激臭が立ち上がる。
「……これは、ただの水じゃない。……金属を溶かし、喉を焼く『腐食の毒』……」
さらには、愛用の包丁がパキッと不自然に折られ、支給された食材はすべてドロリと腐敗させられていた。
「……逃げなさい、ソリ。次は水や包丁だけでは済まないわ」
背後から聞こえる、クミョンのヒソヒソとした警告。彼女の瞳もまた、一族の業に囚われ、絶望にユラユラと揺れている。
ザッ、ザッ、ザッ……――宮廷の回廊を歩けば、物陰からギラリと光る不審な影。食事を摂ろうとすれば、器の底にネチャッと張り付いた謎の粉薬。物理的な暴力ではなく、精神をギリギリと削り取るような、執拗な嫌がらせの雨。
「……ソリ殿、こちらへ!」
ガシッ!――窮地のソリを暗がりに引き寄せたのは、ミン・ジョンホだった。彼の胸板のドクンドクンという力強い鼓動が、ソリの凍りついた心をフワァと溶かす。
「……チェ一族が動き出した。私の調査もパシッと核心を突いた。……君は一人じゃない」
ジョンホから渡されたのは、かつて母が愛用していたものと同じ、古びた酢の瓶。その栓をポンッと抜いた瞬間、ソリの脳裏に、幼い頃に嗅いだ「あの日の匂い」が鮮烈に蘇った。
シュッ、シュッ――。
(母様……。奴らが包囲網を絞るなら、私はその中心で『最高の猛毒』を真実という名の御馳走に変えてみせます)




