第十三回
第十三回:王の不調、診断書のない「隠された毒」
しん……
大殿の空気は、凍りついたように重かった。
王・中宗の御前に並べられた、山海の珍味を尽くした十二皿の御膳。
だが、王は箸を一度も「カチャリ」と鳴らすことなく、力なく横たわっていた。
医官たちは「ヒソヒソ」と額を寄せ合い、脈を診ては首を横に振るばかり。
「……脈に異常はない。だが、龍顔(王の顔)は土色だ。……これは、鬼神の仕業か」
そんな無能な嘆きを背に、18歳になったソリは、静かに下げられた「食べ残しの膳」の前に跪いた。
スゥーッ、クン
ソリは、手付かずの冷え切ったスープから立ち上がる、微かな「澱み」を吸い込んだ。
そして、銀の匙をスープに浸し、その滴りを舌の先で「ペロリ」と受け止めた。
……。
「……苦い。けれど、これは薬の苦みではない。……もっと深く、喉の奥を『チリリッ』と刺す、冷酷な金属の味だ」
ドクン、ドクン
ソリの心臓が、事件の真実に触れて跳ねた。
銀の匙は変色していない。毒見役も無事だ。
だが、王の体内では、何かが「ピチャッ、ポタリ」と音を立てて蓄積されている。
「……ソリ。またお前の『ジロリ』が始まったな」
背後から声をかけたのは、今や義禁府の中堅となったジェハだ。
彼は成長したソリの凛とした横顔を盗み見ながら、ボリボリ、と頭を掻いた。
「……王様の不調、お前の舌には何が見える?」
「お役人様。王様が毎日召し上がっている『真鍮の器』。……あれから、微かに『酸っぱい音』が聞こえます」
「音だと? 器が鳴るのか?」
ソリは、王が愛用する真鍮の器を「コン、コン」と指先で叩いた。
「……いいえ。器の表面を磨く際、誰かが『ヌリヌリ』と、特定の果実の酸を塗り込んでいます。それが、王様の好まれる塩気の強い汁物と反応し、目に見えない『毒の膜』となって、少しずつ喉を焼いているのです」
ジェハの目が、カッ、と見開かれた。
「……器そのものを毒に変えたというのか! 診断書に載るはずがない、料理の前の『嘘』か……!」
「……ええ。犯人は、王様が器を口に運ぶたび、その『カチャリ』という音を、死への秒読みとして聞いていたのでしょう」
ジロリ
ソリは、遠くでこの騒ぎを「ニコニコ」と静観しているチェ一族の尚宮たちを見据えた。
彼女たちの優雅な扇の「パタパタ」という音が、今は汚れた陰謀の羽音にしか聞こえない。
シュッ、シュッ
ソリは自ら、新しい土器を用意し、王のために「コトコト」と粥を炊き始めた。
毒を洗い流し、真実を呼び戻すための一皿。
(母様……。18歳の私の舌は、もう誰にも欺けません。……さあ、器に隠された殺意を、私がすべて味わい尽くして差し上げます)




