第十一回
第十一回:残り物の真実、泥を払った探偵の舌
サッサッ、シュッ、シュッ――訓練場の外、罰として言い渡された掃除は続いていた。仲間たちが調理場でカチャカチャと華やかな音を立てている間、ソリは一人、土にまみれた竹箒を動かし続けていた。だが、その瞳は地面に落ちた「あるもの」を、ジロリと射抜いていた。
ポツン――それは、高価な薬草の燃えかす。本来、見習いの通る道に落ちているはずのない、王族にのみ許された禁忌の香りの欠片だ。
スゥーッ、クン――ソリは周囲の気配を伺い、その煤を指先でスリスリと弄んだ。そして、迷わず舌の先に乗せた。
ペロリ、チリリッ。
「……苦い。けれど、これは薬の苦みではない。……人を深く眠らせ、記憶を霧の中に沈める『忘却の毒』の味だ」
ドクン、ドクン――ソリの心臓が、事件の予感に跳ねる。昨夜、退膳間で自分が夜食を台無しにしたあの騒ぎ。あれは単なる失態ではなく、誰かが王の食事にこの毒を音もなく忍び込ませようとした現場を、偶然邪魔してしまったのではないか。
「……お前、掃除中に何をモグモグと食べているんだ?」
ジャラリ――背後から声をかけたのは、非番のジェハだった。彼はソリの鋭い眼光を見て、ボリボリと頭を掻いた。
「……またか。その目は、宮廷のドロドロとした嘘を嗅ぎつけた時の目だな」
「お役人様。掃除をしていたら、面白い『音』を拾いました。……昨夜、王様の夜食を運ぶはずだった女官の靴音。いつもよりペタペタと重く、湿っていませんでしたか?」
ジェハの目が、カッと見開かれた。彼はソリに促され、昨夜の当番日誌をパラパラと捲る。
「……確かに。一名、足に怪我をしたと偽り、早々に下がった者がいる。……まさか、そいつが!」
ソリは、掃除で集めた「ゴミ」の中から、さらに別の証拠を見つけ出した。それは、特定の地方の土が付着した、小さな布の切れ端。
クンクン、ペロリ。
「……この布に染み付いた、わずかな『潮風の塩気』。そして、この土のネチャッとした感触。……犯人は、チェ一族が抱える秘密の塩田から来た者に違いありません」
バシッ!――ジェハが拳を手のひらに打ち付けた。
「……決まりだ。ソリ、お前の舌はもはや料理人の範疇を超えているな。……よし、その『味わった真実』、俺が義禁府の力でドカドカッと暴き立ててやる!」
ソリは再び竹箒を手に取り、サッサッと何事もなかったかのように掃除を再開した。
(……お母様。私はもう、逃げるだけの獲物ではありません。この舌で、奴らの喉元をサクッと切り裂く猟犬になります)
シュッ、シュッ――。
(掃除の音は、真実を掘り起こすための旋律。……さあ、次は誰の嘘を掃除してあげましょうか)




