第十回
第十回:真夜中の失態、冷え切った蔵の誓い
ヒタヒタ、サワサワ――真夜中の王宮。退膳間の薄暗い廊下を、ソリと友人ヨンセンの二人の影が、忍び足で進んでいた。好奇心か、あるいは空腹か。二人が不用意に触れた膳が、無情な音を立てて崩れ落ちた。
ガチャン、ドシャッ!――王に供えられるはずだった夜食が、床の上でベチャッという音と共に散らばる。
「……どうしよう、ソリ!」
ヨンセンの震える声。直後、廊下の向こうからドカドカッと荒々しい足音が近づいてきた。
ギィィィィ、バタン――二人は有無を言わさず、退膳間の奥にある冷え切った蔵へと放り込まれた。鍵がガチャリと閉まる音。そこにあるのは、冷気と、行き場を失った食材たちのしん……とした沈黙だけだった。
ブルブル、ガチガチ――寒さに震えるヨンセンを、ソリはギュッと抱きしめた。暗闇の中で、ソリは床にこぼれた夜食の残骸から漂う、わずかな「焦げた匂い」をスゥーッと吸い込んだ。
(……失敗の味。けれど、この悔しさは忘れない)
翌朝。
扉がバタンッと開き、訓育尚宮の鋭い眼光が二人を射抜いた。
「……身の程を知らぬ見習いめ。王様の膳を汚すとは、万死に値する」
訓育尚宮の声は、氷の塊をバリバリと噛み砕くように冷酷だった。彼女は、泣きじゃくるヨンセンを無視し、すべての責任をソリに押し付けた。
「ヨンセンの分まで、お前が償え。今日から一週間、訓練場の外を一人で清めよ。……一欠片のゴミも残すな」
サッサッ、シュッ、シュッ――広大な訓練場。ソリは一人、竹箒を手に取った。仲間たちがウフフ、オホホと楽しげに調理の基礎を学んでいる声を背に、彼女は黙々と土を掃き続けた。
ザッ、ザッ、ザッ……――箒が地面を擦る音が、ソリの心の中でシュッ、シュッと包丁を研ぐ音に変わっていく。
「……見ていなさい。私はこの土の下にある『根の味』さえも、いつか自分のものにしてみせる」
ジロリ――ソリは、遠くで自分を冷笑する見習いたちの視線を、鋭い眼光で撥ね返した。手のひらにできたマメがズキズキと痛む。だが、その痛みこそが、今の彼女にとって唯一の「生きている証」だった。
シュッ、シュッ――。
(母様……。掃き清めたこの道の先に、必ず真実へと続く階段を作ります)




