ぼくのりょうしんがまともにもどってほしい……
スヤスヤ……
スヤスヤ……
「……もう寝たね」
「……はぁ~、でも、我が子の笑顔はとびきりいいねぇ」
「……じゃあ」
「……そうだな」
パパとママには、自分の子供にはまだ見せていない。
「「真の姿になろう!!」」
◇ ◇
ぼくのママは郵便局の窓口さんだ。
「いらっしゃいませ。保険に関するご相談ですね」
ぼくのパパは郵便局の配達員さんだ。
「ゆうパックを届けに来ました。こちらに判子かサインをお願いします」
2人共、お仕事です。
「今日もお願いします」
ぼくが着替えにとまどったり、ぐずったりしても、ママがぼくを幼稚園に送ってくれて、
「迎えに来たぞー!」
パパがぼくを迎えに来る。日が落ちて暗くならない内に、元気な声で呼んでくる。
「今日はね~、ちょっと苦手にしてるお魚料理」
「じゃあ、大好きなゲームをパパと遊ぼうか」
ママが料理を作ってくれて、パパがぼくと遊んでくれる。
「ごめんなさい……ちょっと頭痛が……」
「大丈夫。俺が全部やる」
ママが疲れているときは、パパがママの代わりになって、ぼくはさびしくなる。
だいじょうぶ?ってママの体をゆすってみると、ママは少し明るくなって微笑んでる。
たまに出て来るパパの料理だけど
「美味しくできたぞー!パパはお肉料理大好きだから!!」
「もぅ~、栄養を考えてください。野菜や魚を中心にですね~」
パパの料理は美味しい。ぼくの食べたい料理を出してくれる。
ぼくのかぞくは、こんなにも幸せなんだ……。
だったんだ……
◇ ◇
今のは遠い遠い、遥かに遠い記憶。
「……………」
ぼくのお母さんには秘密がある。だけれど、みんなが知っている。
「今日は御客様感謝祭よ。欲しいモノは3つまで買ってあげるわ。ゲームソフトも一個買ってあげるわよ!」
……ただの毎月20・30日の感謝デーの事を、自分の言葉にしてしまう。
「学校の運動会ってそろそろよね。お母さんも食べ歩きして、万全な出場をしてあげるからね!最新のカメラも買ったから!」
上級生がウルトラソウルをダンスするけど、それを運動会って言うし。食べ歩きって、結局は痩せては帰って来ないよね?わざわざ、英字にして発音するのはなんだ?
ぼくが小学校に入学してから、お母さんの様子が何かおかしいし、ぼくのお父さんにも秘密がある。だけれど、みんなが知っている。
「今日の仕事も大した事はなかったなっ!!我が実力の前では、どんな山積みの荷物だろうとお客様に正確かつ迅速に届けられるのだ!!」
「おかえりなさい、御主人様!いつもの時間通りね!」
「それはそうと、おいしい牛乳と少し高い牛肉を買って来たんだけど」
いつものようにお父さんは仕事から帰って手洗いを済ませた後、ぼくがうんざりするぐらいお母さんの手を握りながら買って来たモノを渡す。
「まぁ!またあなたの邪眼に心を見抜かれてしまったわっ!!」
「ふっ、いつだって君の心は感じ取れるんだよ」
「今日は御主人様達が大好きなすき焼きですからね!」
「君の料理ならなんでも美味しいし、僕は君を幸せにするために生まれて来たのさ」
「もーぅ!」
誰か助けてください。
ぼくの家族はおかしくなっています。
ここは夢の中だよね。
そう思っているんだけれど、ぼくのクラスメイトは行事の度に言ってくる。
「堀山くんのお父さん達って変わってるねー(良い意味で)」
「仲凄く良いよねぇー。一緒に出掛けてるんでしょ」
「ウチなんか、ママがすごーく怖いよー、パパがいつもビビッてるもん」
家族の形は色々あるけど、絶対にぼくは……ぼくは……
「ぼくはお父さん達が嫌い」
「反抗期?」
「すっごいスピードで大人になってるんだね、堀山くん」
ぼくはこの両親の温かさだけは、良いと思ってる。