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《第1章始動》気づいたら記憶喪失だった  作者: 或真
序章 覚醒
3/31

傍観者

「あり得ない…こんな出鱈目!」


「私も長いこと生きてきましたので、大抵のことでは驚かないと自負していたのですが、流石にこれは…」


________________________________________________


時は遡ること3時間前。二人は馬車の中で今回の依頼内容について話し合っていた。


「今日は龍王の討伐ですよ、気を引き締めないと命の危険がありますからね。」


「わかってるよ。」


馬車内で会話をするのは、長剣を腰に差した眩い金髪の優男と、禍々しい杖を持つ老婆であった。

名の知れた冒険者である二人は、王から大森林の支配者たる龍王の討伐を依頼されていたのである。

古代の魔物である龍王を相手にするのだから、物凄い緊張感に襲われていた。


「龍王ってあれでしょ、単体で一国を滅ぼしたりできる神話級の魔物でしょ?そんなのに勝てるの?」


「断言はできませんが、私たちの方が勝率は高いかと。」


「でも龍王って遠距離と近距離攻撃どちらもできるんでしょ?」


「そうですが、対策は可能だと思います。」


というように、金髪の優男の愚痴を老婆が鎮めるというやりとりが続いていた。

彼らが課された依頼は、竜王の討伐並びに「永命の虹林檎」の回収も含まれていた。

実は王女様が不治の病にかかってしまったらしく、虹林檎がなければ死んでしまうそうなのだ。

そのため、この依頼の重要度は高く、国を代表する強者を派遣したのだ。


金髪の優男の名はアズルという。王国随一の冒険者であり、魔物討伐数ナンバーワンを誇るとともに、神剣に認められし者である。その一方で老婆の名はシャルル。王国最高戦力の一柱である魔法師団の団長、史上最高の魔術師という、王国個人戦最強の存在であった。そんな少数精鋭のパーティで龍に挑む訳だが、前代未聞なのである。そもそも龍は神格化されており、最高位の龍、龍の長ともなると、神話で神だと称えられる程に強力であるのだ。歴史書によると、龍の怒りを買った大国が一月以内に滅ぼされたとか。


というわけで、そんな世界の最強の種族の一角である龍王を討伐するというのは、不可能に限りなく近いのだ。こんな情けない声を出すのは、無理もない訳である。


「俺まだ死にたくないんだけど!」


「力を合わせれば、死にませんよ。」


「でもさぁ…」


頼りない様子を見てシャルルは特大の溜息を吐いた。本当なら、だらしない姿を嗤ってやりたいのだが、実はシャルル自身、物凄い恐怖と緊張感を感じていた。


シャルルは一度だけ龍王を目にしたことがある。何十キロも離れたところから目にしただけなのだが、その力強い覇気に気圧されてしまったらしい。あの時の鋭い目つきを思い出すと、今でも鳥肌が立つ。シャルルはそんな恐怖心を自分の精神力だけで押し潰していた。


そうやって馬車内で絶句していると、馬車が止まった。大森林の入り口に到着したのだった。


「い、いよいよですね、アズル君。お互いに頑張りましょう。」


「お、おう!そうだな!」


そういったはものの、両人共足がガクガク震えているのだ。

そんな恐怖を胸にパーティは大森林へと突入した。


キラの大森林は、世界最大級の森林群である。その危険度は中心部へと進む程増し、より凶悪生物が出現する。そして、龍王が守る虹果実は広大な森の中心部、すなわち最も危険なのである。通常、森林の攻略は、大軍隊を展開してするものなのだが、これを二人という少人数でやる上、龍王までも討伐しなければいけないのだ。骨が折れるで片付けられる問題ではないのだ。


しかし、日和っていた割にこの二人は通常の域を優に超えているのだ。余裕の立ち回りを見せて、襲ってくる魔物たちを次々と返り討ちにしていった。結果、半日経たずに中心部へと辿り着いたのだった。


「いよいよですね。」


「ああ、龍王様とのご対面だぜ!」


緊張感は最高潮を迎えたそのとき、低く、逞しい、地鳴りのような轟音が鳴り響いた。


「この音ってあれだよな?」


「ええ、そうでしょうね。」


「この音だとかなり近くにいるよな。」


「そうですね。とりあえず音の方に向かいましょう。」


龍王の唸り声の方へと二人は足を進めた。足を進めるにつれ、音は大きくなり、体内に響いていった。


(いよいよご対面と行こうか!)


そう意気込んだ瞬間、

「うわぁあああ!」


走りながら叫ぶ全裸の男の姿が見えた。そして、そのすぐ後ろを龍がものすごいスピードで追いかける。


(冒険者?いや全裸はおかしいだろ。一体どうやってここに?)


「シャルル、どうする、あれ?」


「と、とりあえず、た、助けましょうか。」


いつも落ち着いているシャルルまでもが混乱している。なぜそこにいるかは分からないが、彼の命が危ないことは確かなのだ。という訳で、アズルとシャルルは二人の間に乱入しようーと動いたその時、どこから取り出したのか、青年の手には光の大剣が握られていたのだ。


(え?あれどこから出した?)


そうやって疑問が積み上がる中、青年は跳び上がり、龍めがけて光り輝く大剣を振り下ろした。

鋭い金属音と共に、赤い血が宙を舞った。龍の胴体は一閃で二等分にされてしまったのだ。世界最強の一角である龍王が一撃で仕留められるという事実を、二人は信じられなかった。


(龍王って確か極大魔法でも相殺しちゃうんだったよね…)


しかし彼らは、まだまだ驚かされることになる。胴体が眩しく光った後、瀕死の龍はおらず、そこにいるのは可憐な少女一人だけだったのだ。しかしその少女は明らかに人間ではない。一対の逞しい翼と角が体から生えているのである。


(あの少女ってたぶん龍王?いやあり得ない…よな?)


(ありりりえまませせんん。こここんなななででたらめめ。)


茂みの中から隠れて様子を伺っていた二人はお互いに情報を処理できていなかった。シャルルは夢だと決めつけて、自分自身を殴っている。一方でアズルは物凄い高速で震えていた。それほどに常識離れした状況だったのだ。


そして二人は更に壊れていく…


「お前と友達になる!」

と青年が龍に向かって言うのだ。


(すなわち、この青年は世界最強の一角と、対等な関係、仲間になろうと…)


アズルは絶句し、ひどい目眩に襲われた。


(きっとこの青年は魔王だ!)

などと決めつけなければ、一連の動きが説明ができない程にあり得ない。


そしてシャルルはというと。白目を剥いて気を失っていた。シャルルは長命である。王国初代王子の代から王国に仕えており、知識は膨大である上に、龍に対峙したことのある唯一の王国民である。そのため、龍王の危険性は人一倍理解してるのである。なのに、一人の童に龍王を瞬殺され、脳がショートしちゃったのだ。


二人が戦慄、そして絶望してるのをよそに、龍王と青年の契約は順調に結ばれていく。気づいたら、もう手遅れ。固い握手をかわし、龍王と青年は友という契約関係になったのである。


(やばい!やばいよ!このままじゃあ、この二人だけに世界を滅ぼされる!)


「まずいですね。」


いつの間にかシャルルが起きていた。


「不味いどころじゃないよ、世界の終わりだぞ!」


「知っています。なのでとりあえず王国へと帰還してー」


『あのー盗み聞きはやめてもらえません?』


龍王がこちらを向いてそう言い放った。どうやら無意識に大声を出して会話していたようで、見つかっちゃったのだ。


「魔王よ、私の名はアズル。世界の秩序を取り戻し、お前を殺すものだ!!」

と青年に向かって叫んだ。


「えっ?魔王?誰のことですか?」

と青年は混乱した様子で答えた。


「とぼけるな!龍を一撃で倒すことなんて魔王くらいしかできんわい!」

と言いつつ、アズルは突進した。刃で青年を切り裂こうとした瞬間、龍王に阻まれて、束縛されてしまった。


「クソ龍王がよ!離せよ!」


「失礼わよ!私には『アド』っていう名前があるんです!」


「シャルル、極大魔法を!」


そうアズルが号令すると、シャルルは詠唱を始めた。彼女の足元に魔法陣が同心円状に広がっていく。


「待てよ!魔王は普通光の大剣を使わないだろ!」


(はっ!確かに!)

そうアズルが気づくと、シャルルに詠唱を止めろと指示したが、


「すみません、完成してしまいました。数多の星よ雨のように降りそそげ、隕石衝突ッ!」


そう唱えると、空が暗転し、巨大な赤茶色の隕石が降ってきた。そのまま落下すれば、全員が巻き添えを食らうだろう。


(やばい!隕石なんて切れねぇ!逃げるしかない!)


退避を決断したアズルをよそに、龍王は隕石に向かって魔法を唱えた。


「数多の刃よ敵を切り裂け!連気斬!」


その瞬間、落ち迫る隕石はいくつもの小さな礫へと切り刻まれたのだ。


(すごいです。私の最高火力をこうも簡単に…)


隕石が切り刻まれたのを見て、アズルと青年は喜んだたが、喜びもぬかの間のもの、小さな礫が豪雨のように降り注いだのだ。殺傷力はないが、とにかく痛い。礫の雨が降り止んだ時には、四人はアザだらけになっていた。


「痛ってぇー!」


「そうですね。」


「何大魔法を大森林で打ってるの!?普通砂漠地帯とかで打つものでしょ!あんたのせいで私もっと弱体化しちゃったじゃないの!」


「落ち着かなよアド、きっと感謝してるって。」


「アーサーは大したお人好しね!」


「えへへ、褒められると照れるなー」


「褒めてないわよ!」



この茶番の間、シャルルは考えていた。

(この危険な二人を世界に野放しにするわけにはいかないですし、この人たちが何者なのか、戦力調査や、身辺調査も必要ですね。特にこの全裸の子の身辺は絶対調べる必要がありますね。ここは我が王国に来てもらう事にしましょう。)


そう結論づけたシャルルは、アーサーとアドを王国へ招く判断を下す。


「お二人方、先ほどの魔法は失礼しました。このお詫びをしたいので、王国までのご同行をして頂きませんか?無理にとは言いませんが。」


青年はちょっと考えた後、

「それって街に行けるってことか?」


「はい。」


「ならば断ることなどないさ、アドも別にいいでしょ?」


「虹果実さえあればいいわよ。」


ここで大切なことをアズルは思い出した。いろいろなハプニングで忘れていたが、虹果実の取得が任務だったのだ。虹果実を持ち帰らなければ、王女が死んでしまうのだ。


「龍王ーじゃなくてアドさん、虹果実を一部いただけないかな?」


「なんであんたなんかにあげないといけないの?」


「実は…」

アズルは王女の病について説明すると、アドが快くOKしてくれた。


「悪用しないのなら全然良いわよ。でもほんの一欠片だけど良いかしら?」


「もちろんだ!ほんとにありがとう!」


任務も完了できたことなので、アーサー一行と虹果実を連れて、アズル達は帰路に着く事にしたのだ。

一日中色々あったせいか、ろくな戦闘をしなかったものの、ものすごい疲労に襲われていた。


(こりゃぐっすり眠れそうだ!)

アズルはそう思いながらキラの大森林と後にしたのだった。







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