俺はお嬢様の『ホケン』だった
ハッピーエンドではありません。
偶に無性にアンハッピーエンドのものを読みたくなるので、軽めのものを書いてみました。
お嫌いな方はご注意ください。
「リリアーナ・フォン・カールベルト!! 貴様との婚約を破棄する!」
王国の貴族達が通う学院の卒業式を祝うパーティ会場でいきなり告げられた言葉に、出席している生徒や先生達が騒めき、一気に視線を集めた。
そう告げたのはこの国の王太子である、アルベルト殿下。王族の証である紫の瞳に輝くプラチナブロンドを撫でつけ、秀麗な顔を歪ませて一人の女性を憎々しげに見ていた。その腕に縋り付いて隠れる様に見ているのは、アマイア男爵令嬢。ふわふわとしたピンクブロンドでくりっとした茶色の瞳がふるふるとしている。女性には怯えていますとわかり易く見えるが、男性には庇護欲を湧かせるだけらしい。
その証拠に彼女の周りには、宰相の子息リック、王宮魔導士長の子息ダナイ、騎士団団長の子息ロイ、そして勢いのある商家の息子のカルルが居る。彼女を守り心配そうに見守る姿はどこか滑稽だった。
対してそう言われたこの国のカールベルト公爵の一人娘であるリリアーナは真っ赤な髪を結い上げ、目尻の上がった黄金の瞳でそんな一行を冷やかに見ていた。
「理由をお伺いしても?」
「しらばっくれるな! 貴様のアマイアに対する非道な行い、知らぬとでも思っているのか!? 苛めだけならまだしも、暗殺しようとするなど言語道断だ!」
「そのような事、一切致しておりません。第一、そのような事をする理由がございません」
「理由? そんなものお前がアマイアに嫉妬したからだろう!」
「私達の婚約は政略以外の何物でもありません。殿下に対して何の感情も持っておりませんもの」
「そんな訳あるか! 大体お前の非道な行いは目に余る。証拠はあるんだ。衛兵! この者を男爵令嬢への暗殺未遂により捕縛する。捕らえろ!!」
どこかに控えさせていた衛兵達がリリアーナ嬢を取り囲み、会場から連れ去って行った。
◇◇◇
遠い祖国の学院で、お嬢様がいわれなき冤罪で断罪されている頃、俺は隣国の王都で髪飾りを物色していた。
俺が生まれた家は、俺の下に弟、妹、妹、弟の居る農村の貧乏家族だった。
毎日食べる物が無く、泣き叫ぶ弟達に僅かな食料を分け与える日々。満足に食べた記憶など、生まれてこの方一度もなかった。
ある年の冬、作育が悪く、より一層食べる物がなくなった。両親は仕方なく俺を奴隷商人に売った。もうどうにもならない事は分かっていたし、このままでも家族全員死を待つばかりだったから、俺はそれでも良いと思っていた。
だが俺は茶色の髪に茶色の眼のどこにでも居る子供だった。見目も良くなければ特技がある訳でもない。7歳のヒョロガキなぞ需要もなく安値だった。それでもこの冬は越せそうな金額だったので安心した。
連れて行かれた先では一日一食しか出なかったが、それでも家にいる頃よりは食べられた。逆に仕事もしなくて良いのでどちらかと言えば、楽だったように思う。
檻の中でただ只管誰かが買ってくれるのを待つ日々。
俺よりも見目のいい奴は早々に買われた。年上で力のありそうな奴も買われていった。俺は当然のように売れ残った。性的にも売れず、力仕事にも使えず、残るは痛めつけるのが好きな輩ぐらいだろうと親方が話しているのを遠くで聞いた。
あまりに長期間売れない奴は処分される。
買われた先で殺されるのと、親方に処分されるのとどちらでも変わらないなぁと、ぼんやり思っていた。
そんな俺の前に見た事もない綺麗な子供が現れた。
その人は真っ赤な髪に、意志の強そうな瞳で俺を真っ直ぐ見ていた。
「お父様、私この子が良いですわ」
そう父親らしき男に告げて、微笑んでいた。
そして俺はお嬢様の誕生日のプレゼントとして買われた。
こんな綺麗な子供が俺を殺すのか……。
そう思いながら連れて行かれた先は、広々としたお屋敷だった。塵一つ落ちていない磨かれた床。高そうな絨毯。いい香りのするカーテン。こんな所に薄汚れた俺が立っていていいのか不安になった。
おどおどと周りを見渡していた俺に、お嬢様はその美しい顔を綻ばせながら聞いてきた。
「貴方の名前は?」
「……ありません」
奴隷として売られた時に名前も売られたため、今の俺に名前はない。親方には番号で呼ばれていた。
「そうなの? ……じゃあ、貴方は今から『リヒト』ね。分かった?」
「はい」
リヒト……それが俺の新しい名前。
「取り敢えずお風呂に入って綺麗にしてきて」
そう言われて俺は生まれて初めて風呂というものに入らされ、全身を隈なくゴシゴシ洗われた。ちょっとヒリヒリする。
風呂から出されて着せられたのは、これまた見た事もないシミ一つ無い綺麗なシャツにシンプルなトラウザーズ(後で名称を知った)だった。
洗われた俺は、もう一度お嬢様の前に連れて行かれた。
「綺麗になったわね。良かったわ。私はリリアーナ、これからは私のお願いを聞いてもらうわ」
「分かりました」
奴隷と主人には主従契約が魔法で結ばれている。奴隷は主人の命令には決して逆らえないのだ。逆らおうとすれば痛い目を見るらしい。だから主人は命令すればいいだけなのに、この人はお願いという。何故だろう?
不思議に思いながらお嬢様を見ていたら、ちょいちょいと手招きされたため、近寄る。
するとお嬢様は背伸びをして、俺の頭を撫で始めた。
「貴方は私のものよ。いいわね」
そんな事をされたのは生まれて初めてだったが、不思議と嫌じゃなかった。
「はい、分かりました、お嬢様」
そうして俺はお嬢様のものになった。お嬢様、5歳、俺は8歳の時だった。
一先ず従者として使い物になるように指導された。
今までやった事もない事を一から学ぶのは大変だった。でも一番狭い(とは言え俺の家より広かった)部屋を与えられ、毎日賄いを腹一杯食べさせられ、風呂に入らされる。とても奴隷としての扱いでは無いとは、何となく思っていた。
それなりに形になり、お嬢様の側に仕える事が出来る様になるのに一年掛かった。
するとお嬢様は自分を守れるようになって欲しいと言われた。
それからは毎朝、剣術の訓練が加わった。
勉強する際には側にいて欲しいと言われて、お嬢様とほぼ同じ授業を受ける様になる。終われば復習と言いながら、お嬢様自らが俺に教えてくれた。頭の良く無い俺にも根気良く教えてくれた為、文字も書ける様になり、算術も出来る様になった。
そんな生活に慣れてきた頃、お嬢様は「リヒトが作った料理が食べてみたい」と言い出した。
それで次は料理長の元へ習いにいった。
お嬢様は貴族なのに偉ぶってもおらず、やって貰った事に対して感謝を述べる人なので、使用人達は全員お嬢様が好きだった。その頃になると使用人達も様々な事をやらされる俺を、微笑ましく見守ってくれていて、みんなが協力的だった。
半年もすれば、基礎が出来るようになり、少しずつ教えてもらい、10歳になる頃にはそれなりの料理を作れるようになっていた。
俺の作った料理を食べたお嬢様は、美味しいと褒めてくださった。そして必ず俺の頭を撫でてくれた。
俺の咲かせた花が見たいと言われ、庭師に弟子入りし、花を咲かせる。
馬に乗ってこの柵を越える所を見たいと言われれば、馬番の所に行き、馬の世話をしながら乗馬を教わり、ついでに御者の仕事も教わった。
お嬢様は毎日俺が何をしたか聞きたがり、報告を兼ねて一日の事を話すと、にこにこと聞いてくださった。そして俺の頭を撫でて下がらせる、それが日課だった。
もちろんその間も護衛としての訓練は続けていたし、たまにお嬢様の授業にも付き合った。
そんな俺はお屋敷内での仕事が、大体出来るようになった。
ご褒美だと言われ12歳の誕生日に、奴隷の証である首輪を目立たない足輪に変えてくださった。
10歳になったお嬢様は王太子との婚約が決まり、王妃教育が始まった。王宮に通う事が多くなりお忙しくなられた。
そして俺には市井の生活を知りたいから、どこかに勤めてその内容を教えて欲しいと言われた。もちろん公爵家の事は言わずに。
俺に拒否権などない。言われるままに市井におり、食事処の手伝いとして勤め出した。料理長から習っていた為、料理も出来た俺は重宝され、可愛がられた。
それを報告すれば、微笑まれ頭を撫でられる。それが俺には堪らなく嬉しかった。
一年働き、惜しまれながら辞め給金を持ってお嬢様の元に戻れば、それは俺のものだという。
「それはリヒトが働いて得た給金でしょう? お前のものよ」
「いえ、俺はお嬢様のものですので、これはお嬢様のものです」
「なら、それはリヒトにあげるわ。大事に使いなさい」
「……有難うございます」
とは言うものの、使い道もなく考えた結果、家族に送ろうと思った。
だが調べてみれば、あの後流行病にかかり村全員が亡くなっていた。
売られた俺が生きているのに……皮肉なものだと思った。
仕方なく、そっと貯めておいた。
その次には冒険者の仕事が知りたいと言われた。
言われるままに冒険者として登録し、活動し始めた。最初はランクが低い為、地道な作業だったが、それすらもお嬢様は楽しげに聞いていた。
勿論仕事だけに、嫌な事や大変な事は多かった。
だがお嬢様に報告して、撫でられれば全て忘れられた。
お嬢様の微笑みを見るだけで頑張れた。
以前に一度だけお嬢様に聞いた事がある。
「どうして俺を買ってくれたのですか? 他にも見目のいい奴らは居たでしょうに」
「ああ……私はリヒトだから買ったのよ。顔の良い人間は信用出来ないから」
「そうなのですか?」
「そうよ。下手に顔が良いと隠れキャラだったりするかもしれないし。リヒトは私のホケンみたいなものかしら?」
正直お嬢様の言っている意味は分からなかった。
「ホケン……とは?」
「えっと……最後の切り札って事かな?」
「そうなのですか?」
「ええ、そうよ。私のリヒト」
そう言いながら、頭を撫でてくれて。
それ以上は答えてくれなかった。
お嬢様の従者を勤めながらも、冒険者として活動しランクがGからDに上がった。
この頃には討伐にも出るようになり、収入も多少増えた。だがそれもお嬢様は受け取ってくれなかった。俺の僅かな蓄えが増えていった。
この国の貴族は15歳から18歳まで、学院に通う決まりになっている。お嬢様も例外では無い。15歳になられた為、学院の寮に入る事になった。
入学する前にお嬢様に呼ばれた。
「私のリヒト。命令よ」
お嬢様からの初めての命令。奴隷の足輪が反応する。
「明日からこの国を出て、3年間他国で自力で過ごしなさい。方法は問いませんが、私に恥をかかせるような行動はしないように。そして三年後の私の誕生日に、貴方の稼ぎでプレゼントを贈りなさい。どのようなものでも構いません。後、これはいざという時に読んで。以上よ」
足輪の反応が止まる。
そして一通の手紙を渡してくださった。
「いざとは?」
「その時になれば分かるわ」
そう言って微笑むお嬢様は、教えてくださるつもりはなそうだ。
「畏まりました」
そう頭を下げれば、ふいと手を上げられた。
その頃には俺も18になり、身長も伸びお嬢様の背では俺の頭には届かなくなっていた。いつものように跪き、頭を垂れる。
頭を撫でられる事に多少の羞恥を感じるが、お嬢様からのこの行為は俺にとって儀式であり、欠かせないものだった。
が、いつまで待っても撫でられる気配がない。
不思議に思って頭を上げようとしたとその時、ふわりとお嬢様の香りがした。
お嬢様に頭を抱かれている事に気付くのに時間が掛かった。
今までにない行動でピシリと固まってしまう。
少し混乱した私の耳許でお嬢様は「私のリヒト……」と囁いてくださった。
その言葉に全身が痺れて、動けない。
暫くするとゆっくりと離れて、いつもの様に頭を撫でられた。
顔を上げるとお嬢様は、俺の目を見て微笑んでくださった。
その微笑みは儚く、今にも消えてしまいそうで訳もなく不安になった。
「元気でね」
「はい、お嬢様も御元気で」
「プレゼント……楽しみにしているわ」
「お任せください」
出来るだけ稼いで、良いものを贈ろうと心に決めた。
隣国に行き、三年間の期間限定で仕事を探す。給金を考え、商家に住み込みで仕える事にした。お嬢様に様々な事を教わったので、何でも出来る俺は中々重宝された。
そして休みの日には冒険者として小銭を稼ぐようにした。
そんな日々を過ごし三年経った。
お嬢様のプレゼントに頭を悩ませたが、討伐の成果の一つで青い綺麗な魔石を手に入れる事が出来た。これを加工して髪飾りを作ってもらう事にした。
金はある程度貯まったが、お嬢様は宝石よりもこっちの方が喜んでくれるだろう。
お嬢様が持っている小物は王太子の瞳の色である紫が多かったが、お嬢様自身は本当は青が好きだと言う事を俺は知っていた。
そう思って店を物色していたその時、足輪に衝撃が走った。
慌てて店の外に出て、路地裏に身を隠し足輪を確認した。暫くすると足輪はパリンという音と共に、粉々に砕け散ってしまった。
奴隷の証である輪が外れる場合は二種類しかない。
一つは契約が解除された場合。拘束が外れ輪が切れる。
もう一つは契約者が亡くなった場合。契約自体がなくなり輪が砕け散る。
お、お嬢様が……亡くなった……?
そんな……馬鹿な!!
信じられないが、もう足輪は跡形も無くなっている。
どうしたら良いのか分からない。
その時、お嬢様の手紙の事を思い出した。
急いで部屋に戻り、お嬢様から預かった手紙を探す。
今がいざという時でなくて、一体いつだと言うのだ!
ガサガサと鞄の底から引っ張り出した手紙を、震える手で開封する。
『私のリヒトへ
元気にしていますか?
無理をしていませんか?
いつも無茶な事ばかり言って御免なさいね。
貴方がこの手紙を読んでいると言う事は、私は断罪され処刑されたのでしょう。
私には生まれた時から、私になる前の記憶がありました。
そしてその以前の私は、今の私の未来を知っていました。
王太子と婚約し、王太子が学院で出会った運命の女性を虐めて婚約破棄され、処刑されるという悪役令嬢の未来でした。
勿論死にたくはないので回避するつもりですが、もし駄目だったら……と思うと、私は何の為に生まれたのか分からなくなりました。
死ぬ為に生まれたのだと思うと、居た堪れなくなったのです。
考えた末に、私はホケンをかけた。
万が一死んだとしても、私が居たという証拠を残したかったから。
だから私は貴方を買った。
私が見た未来では、一度も見た事もない貴方を。
色々頑張りましたが、上手くいきませんでした。
運命の強制力というのか、多少のズレはあるものの逃れられないようです。
でももし抵抗も虚しく、私が死んだとしても貴方がいる。
貴方こそ、私の生きた証。
この定められた運命の中で、貴方といる時だけが私の心の安らぎでした。
私の リヒト
最後のお願いです。
私の代わりに生きてください。
私の分も幸せになって。
今まで有難う。もう自由よ。好きに生きてね。
リリアーナ』
ぽたぽたと床に黒いシミが付いて、初めて自分が泣いている事に気付いた。
ブルブル震える手で手紙を見ていたが、やがてぼやけて何も見えなくなった。
「お嬢様……」
全部分かっていらしたという事なのか?
自分が死ぬ事も?
だから俺に様々な事を学ばせ、一人でも生きていけるようにしてくださったのか?
あれは……最期の別れだったのか?
もう二度と会えないの……か?
お嬢様に?
嫌だっ!!
嘘だ!
そうだ!何かの間違いかもしれない。
足輪はきっと壊れただけだ。
確かめねば!
ようやく回った頭でそう叩き出した俺は、商家に別れを告げ、急いでお嬢様の元に戻った。
だが、戻っている途中で気付いた。
お嬢様の誕生日前なのに、国に戻れていると言う事は……。
ぶんぶんと頭を振って、その考えを追い出す。
逸る気持ちを抑え、一週間後に漸く公爵家に帰り着いた。
だが俺の祈りも虚しく……お嬢様は埋葬された後だった。
教えて貰った場所に行くと、お嬢様の名前が彫られた墓石があった。
花が添えられており、嘘ではない現実を突きつけられた。
がくんと力が抜け、その場に膝をついた。
逃れようのない現実に打ちのめされ、突っ伏して泣き崩れた。
もう会えない。
もう二度とお嬢様に頭を撫でてもらう事はなくなったのだ。
漸く気付いた。
俺は……あの優しいお嬢様をお慕いしていたのだと。
あの時間がどれ程、大切で幸せだったのかを思い知った。
気が付けば夜も更けて、とぼとぼと公爵家に戻ると旦那様に呼ばれた。
執務室に行き、コンコンとノックをする。
「旦那様、リヒトです」
「入れ」
旦那様は机の上に両肘をつき、手を組んで項垂れていた。
垣間見えるお顔は疲れが見え、以前に比べて一気にお年を召されたように見える。
「誰かに聞いたのか?」
「いいえ……足輪が壊れましたので、何かあったのだと……」
「そうか……お前は何か聞いていないのか?」
「……これを……」
お嬢様の手紙を旦那様に渡す。
それを読んでいた旦那様も震え出し、ドンっと机を叩き、頭を抱えて俯いた。
「何故! どうして言ってくれなかったのだ!! 分かっていれば……いや……それでも……」
暫くすると旦那様は深い溜息をつかれながら、お嬢様が亡くなった経緯を教えてくださった。
卒業式の後のパーティで、お嬢様は皆の前で断罪されたらしい。
お嬢様は認めず、無実を訴えていたが、王太子は聞く耳を持たず問答無用で捕らえて貴族牢にいれたそうだ。
丁度その日は王と王妃が、隣国の王太子の戴冠式に呼ばれていたためパーティには欠席していた。
宰相が式に出席する予定だったが、急に魔の森から魔獣が溢れてその対応に追われ出られなくなった。
そんな合間を縫って王太子はお嬢様を捕縛し、さらにその日の内に毒を飲ませて服毒死させた。飲ませたのはあの女に惑わされた宰相の子息だったらしい。
何の証拠も無く、あの女の証言だけを信じて。
信じられなかった。
これもお嬢様のいう強制力なのだろうか?
「それでどうなったのですか?」
「帰ってきた陛下によって冤罪と証明され、殺人罪で王太子は廃嫡、幽閉、宰相の子息は斬首。原因となった男爵の子女も処刑する。その他も其々廃嫡され僻地へ飛ばされた」
「……そうですか」
「……お前はどうする?」
「どうするとは?」
「お前の主人はリリアーナだ。これから何をするのも自由だ。このまま我が家に留まるか?」
「……いえ、お嬢様の言っていた夢を叶えに行こうかと思っています」
「夢?」
「はい、色々仰っておられました。それを一つ一つ叶えてみようかと」
「そうか……お前には言っていたんだな。もう戻らないつもりか?」
「はい、今までお世話になりました」
「分かった。何かあれば頼れ。それ位させてくれ」
「有難うございます」
次の日、今までの給金だと、身に余る金額を頂いた。
「どこに行くのだ?」
「お嬢様は海を見てみたいと仰ってましたので、取り敢えず海を目指します」
「そうか……海か……。気を付けてな」
「はい、皆様もお元気で。今まで有難うございました」
そういって見送ってくれた使用人の皆にも挨拶をして、公爵家を後にした。
のんびりと海を目指しながら旅をする。
お嬢様はエルフを見てみたいと仰っていたから、海を見たら次はエルフを探しに行こうか。
あぁ……他にも仰ってらしたなぁ。
出来れば全部叶えて差し上げたい。
お嬢様。
貴女は俺の事を光だと思ってくれていたようですが、俺にとっては貴女こそが光。
貴女に俺がどれだけ救われたのか、きっと貴女には分からないでしょう。
でも、申し訳ございません。
今まで貴女のお願いを何でも聞いてきましたが、最期のお願いだけは聞けそうにないです。
貴女が居ないのに、どうして幸せになれるでしょうか?
でも貴女が望むから、生きましょう。
俺が生きている事こそが、貴女の生きた証なのですから。
俺はお嬢様のホケンですからね。