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八話
本能寺の御殿にも炎が迫る。
「上様… 」
蘭丸が促す。
「女人、小物はくるしからず疾く落ちよ。余の者は自分で分別せよ」
光秀の使者が去り際に残した口上、「信長様に於かれましては今一度御勘考が肝要と存じ上げます」
「光秀め。よほど余の首が欲しいとみえる。いずれ寺にでも押し込めて、自害させるつもりであろう」
「裏手の敵が引いたようじゃ、抜けるは今ぞ」
味方の声に小物や武者達が走り出る。
本能寺の正面にのみ兵を残し、余りの兵は、二条御所で防戦する織田家の嫡男・信忠に向かったためである。
信長が叫ぶ。
「馬を引け!裏門より抜ける」
「上様すぐにお支度を。今剣を持たれませ」
「お蘭、無用じゃ槍一筋あれば良い。今剣はその方にとらせる。一気に駆け抜けるのじゃ」
運命が変わった瞬間であった。