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令和 邂逅

僕の家族を紹介します。


この神社の大宮司を努めるおじいちゃん、そしておばあちゃん。


宮司の父親とお母さん、自称花嫁修業中の姉。ちなみに彼氏はいない…


自分は大学生、普段は京都の自宅からこの日光の神社に通うが、今年が60年毎に行われる重要な大祭の歳に当たるため、正月明けより家族全員がこの地に逗留している。


大学の休暇を待って、高速道路をバイクで飛ばして日光の神社についたのが昨日の夜。今朝は五時起きで拝殿前を箒で掃き清めている。


…本当は神社の朝はもっと早いのであるが…


夜明けのひと時。


澄んだ空気と静寂、体中にみなぎる気力と充実感、ここは僕にとってのパワースポットかもしれない。

ふと顔を向けた先に若い男女の姿が見えた。


…早朝から…


そういえば夕べの母の言葉。


「最近、朝早くからお参りされる方が多くなったような。しかもアベックでお見えみたい」


どうも旅雑誌にパワースポットとして掲載されたのがきっかけみたいだそうである。


ご苦労様です。


あれあれ、関係者以外立ち入り禁止の拝殿前に入ってくる。


ご縁の方ならお茶を差し上げなければ?


「よろしければ粗茶を差し上げます。お休み所に…お通りを…」


長身のイケメンが軽く会釈された。


少し後ろの寄り添うよう歩く女性。どこかで会った方のような、姉によく似ている。


軽く頭をさげられた。


何かおかしい。


着物姿のお二人。若様と姫様のようないでたち。腰に刀が…


「映画のロケか…」


一瞬立ち尽くす… 


「消えた…」


「坊、どうされた」


声の方に振り向いて、現実に引き戻された。


そこにいつからいたのか、十人程の山伏姿の白装束の一団に囲まれている。


「映画のロケ?刀姿の若様と姫君様…」


「えっ、誰か本堂の今剣を」


頭格の山伏が叫ぶ。


数人の山伏が、慌てて本堂に飛び込むと、すぐに駆け戻る。


「お姿拝見できました」


「よかったのう」


全員に安堵の吐息が漏れる。


手ぬぐいで額をぬぐう人もいる。


鍛え上げた筋肉、異形の装束の人たちが笑う。


一様に柔和な澄んだ目をした、意外に若いひとたちである。


「天狗のおじさん、今御到着ですか」


一週間ほど前に、京都の邸で出会った人たちである。


「一足先に参ります」


「ご苦労様で御座います。ご挨拶痛み入ります」


父が応対していた。


「あれっ。とっくにお付きと思っていましたよ。僕は夕べ着きました」


「だってわしらは歩きだもの」


好々爺然とした年配の頭が笑いながら答える。


京都から歩いてきたようである。


常に鍛錬と修行を欠かさない人たちである。


「お祀りしてある今剣(いまのつるぎ)のことですか」


僕の問いかけに、頭が答える。


「少し前といっても、800年位前のことかもしれないがのう。平清盛様の命により、鞍馬寺にお預けとなった幼少の牛若丸様を、別当の連忍様は大切に育て為された。昼は自ら学問を教えられ、夜は我らの御先祖が、鞍馬流の武芸と兵法をお教え申し上げた。我らの先祖は鞍馬衆と呼ばれる人々である。鞍馬山の天狗様じゃそうな。牛若丸様の聡明さに一山の人々は驚き鞍馬寺の将来を託そうとしたが、やはり源氏のお血筋であった。源氏の再興を願い、奥州の藤原氏を頼られ密に出立なされた」


「連忍様はその心意気にうたれ、それを見逃し、別れに臨んで寺宝の今剣(いまのつるぎ)を守り刀として与えなされた」


「そして、我先祖の鞍馬衆に命じられた。今剣のゆくところ、どこまでもお供してこれをお守りせよ」


「今剣のお供ですか?」


「刀に手足があるかいな…密に刀の持ち主を守るように命じられたのであろうかのう」


「義経様は、奥州の衣川の館で、ご自害とも船出したものの嵐のため陸に戻り鎌倉勢に斬られたとも聞きましたが」


「我らの口伝では、沖を埋め尽くしたお迎えの水軍の軍船に守られ、大陸にお渡りなされたとのことじゃ。その折、お供をもうしあげた鞍馬衆に今剣を託され鞍馬に帰るように諭されたそうじゃ」


「その後、お供のご先祖様達はこの地に、衣川の館で討ち死になされた方々の菩提を弔い京に帰ったとも、この地にとどまったともいわれておる」


「織田信長様の家臣、森蘭丸様が、この地に信長公の霊廟を建立され、堂を建て今剣を安置なされたのは400年位前のことじゃがのう。先ほど坊がお会いなされたお方が、蘭丸様と奥方様の千代様であろう。坊の御先祖様じゃ。先代に、今剣は時に行方不明になることが度々あったと聞かされたことがある。其のたびに我らは右往左往、ずいぶん振り回されたそうな」


天狗の頭に今回付き添ってきた、息子さんの蘭忍さんが父親の口調をまねて言った。


「刀様だけに…振りまわすのはお得意のようで…」


思わず僕が叫ぶ。


「う、うま、い…」


ぐわーん


いきなり姉が手に持ったお盆で蘭忍さんの頭を叩いてすたすたと離れていく。


眼を白黒させた蘭忍さん、そんな二人を交互に眺めて天狗さんはただ笑っている。


一期一会のような言葉もありますが、人は案外縁があれば、時を超えて連綿と邂逅を果たす事ができるものかもしれないと思います。

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