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一話
山の端から月が昇ってくる。
月明かりに照らされた街道に人影はない。
街道に沿うように山中に道がある。
里人が踏み固めた杣道か、遥か若狭にまで続く修験者達の奥駈道かもしれない。
この道を駆け抜ける異形の一団がある。
山伏装束を纏う天狗のような風貌の屈強な十数人の男たち、さらに其の後に忍び装束の一団が駆ける。
互いに微妙な間合いを保って、決して相手の結界に近づかない。
街道から脇道に入る鷹峯の里に近衛家の別邸がある。
周囲を築地塀に囲まれた、宏壮な屋敷の長屋門の頑丈な門扉は開け放たれ、赤々と篝火が燃やされ数人の侍たちに守られている。
今、その門前に先ほどの千代の一行が到着した。
千代と、とよ。
従う巫女姿の女忍たちが門内に消えると門が閉ざされる。
少し遅れて山伏や忍びの一団も裏門より邸内に消えてゆく。
―――屋敷の最奥の広間は今、連歌を装い酒食を交えた密談の場と化している。