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十四話
前久は朝廷に図り、少しずつ秀吉の官位を高めた。
左近衛権少将、参議、と引き上げ、後には近衛家の養子として摂家の家格を与え、天皇から「豊臣」の姓を賜ることが出来た。
名実共に天下人の道筋をつけたのであった。
鷹峯の屋敷に隠棲した蘭丸の存在は、極めて少数の人のみが知るところである。
又、生存の噂を確認の為、様子を探る動きもあるが、近衛家の侍や千代達の甲賀
忍群に固く守られ侵入することはできなかった。
そんな中、事前の申し入れの後、秀吉の使者が訪れた。
馬二頭を小者に引かせ、五名ほどの侍を伴い、徒歩で門前に立った簡素な身なりのその使者は、
「羽柴秀長と申す。何卒森蘭丸様にお引き合わせ願いたし」
と密やか述べた。