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十一話
深手を負い生死の淵をさまよう蘭丸であったが、甲賀の屋敷に匿われ、甲賀に伝わる門外不出の秘伝薬を駆使した千代の昼夜を分かたぬ必死の看病が功を奏し、一命をとりとめた。
…早く首を獲れ、恩賞にありつけるのじゃ…
蘭丸の頭上に振り下ろされる地侍の刀。眼前に走る閃光。
そして無音の闇。
蘭丸は眠りつづけた。
時々蘭丸の意識が戻る。心地よい気分。
痛みは無い。幽冥の堺に居るような不思議な感覚。
奇跡的に傷は治癒していたがまだ体は動かない。
今剣は刀の所持者、蘭丸を守った。
…お蘭、刀は無用じゃ。槍一筋あれば良い。
今剣はその方にとらせる。一気に駆け抜けるのじゃ…
夢の中で懐かしい声を聞いたような気がする。
恩賞目当ての地侍の槍に貫かれた信長の最後の姿。
蘭丸の頭上に白刃を振りかざす地侍を、必殺の手裏剣で仕留める若い女忍。
「私が必ずお助けいたします」
寝食を惜しんで看病に努める、美しい女忍の横顔。
「千代殿…」
蘭丸が目覚めた瞬間であった。