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第十三話 癇癪と大騒動



 お腹の子が双子かもしれないと言われてから、周囲の過保護度が一気にアップした。

 そのうち歩くことさえ禁止されそうで、「これくらい大丈夫だって」と頑張る私と、「いけません、姫様」と止める侍女たちの攻防が続き、そこにカイルが来ると強制的に抱きあげられて何もさせてもらえなくなる、という日々だ。


 大事にしてもらっているのは分かるけれど、運動不足はよろしくない。

 けれどお腹が大きくなってから、またやたらと眠たくなることが増えているので、あんまり抵抗する気にもなれない。

 頑張れる時は頑張るけど、今日も今日とてごろごろ昼寝だ。


 そうしてトロトロと微睡んでいる時に、それは突然起きた。


「ああ、姫様! そこからお逃げください! お早く!」


 子どもの泣き声が聞こえたような気がしてふと目をさますと、天蓋付きの寝台の、天蓋を支える柱が一本、豪快に折れていた。

 三本足になってしまった天蓋が自重で傾いてくるのに驚きながら、マイラに腕を引かれて慌てて降りる。


「ええっ? 何これ? なんで折れたの?」

「分かりませんが、緊急事態です。どうぞ避難を」


 険しい表情のマイラに手を引かれ、訳が分からないまま他の侍女や女騎士たちを連れて本宮の一室へ移動する。

 穏やかな日々に降ってわいた荒っぽいトラブルに、心臓がドキドキしておさまらない。

 周りも落ち着かない様子でいろんな人がバタバタと走り回っていて、ソファに座らされてお茶を出されたけれど、手を付ける気になれなかった。


(わぁぁん!)


 その時、また子どもの泣き声が聞こえて、今度はお茶のカップが置かれていたローテーブルが真上から叩き割られたかのようにバキッと壊れた。

 それでようやく気が付く。


 あ、これ子どもの癇癪(かんしゃく)だ。


 まだ生まれてないし、日本じゃ考えられないことだけど、ここは剣と魔法のファンタジーな異世界で、この子の父親は優れた魔術師だというのだから、そんなこともあるのだろう、と。

 その考えはストンと腹に落ちて、私はあっさり納得した。


 だから再び騒然となる周囲をよそに、あー、よしよし、落ち着けー、とお腹を撫でてやり、壁際でどうしたらいいのか分からずオロオロしている一番若い侍女に「竪琴を持ってきてくれる?」と頼んだ。


 マイラは皇帝に話をしに行っているし、彼女と交代して私の世話をしてくれている侍女は、破壊されたローテーブルから私を引き離そうとするので必死っぽいので。

 勢いよく「はいっ」と返事をして駆け出して行った彼女を見送り、また部屋を変えようとしている侍女や女騎士、近衛騎士たちに「大丈夫~、これこの子の癇癪だから、どこの部屋に行っても変わらないし。みんな落ち着いて~」と声をかける。


 まったく、生まれる前からお騒がせな子だ。

 でも子どもは手がかかるものだし、きっと悪い夢でも見たのだろう。


 ならばお母さんが子守歌でも歌ってあげようじゃないか。

 『異国の歌姫』と呼ばれた母の歌声、とくと聞くが良いよ!


 そうして騒然としている周囲をよそに、ソファに座ってのんびり子守歌なんぞ歌い始めたもんだから、どうも私が一番パニックを起こしていると思われたらしい。

 数分後、陛下が医者の集団を連れて押し掛けてきて、部屋はまた大騒動になった。


 うるさいよ! せっかくの子守歌が聞こえなくなるじゃないの!

 みんなちょっと静かにして!


 と、叫ぼうかと思ったけれど。

 子守歌を歌うよりも、私がカイルに抱きあげられてどこかへ運ばれていく間に、お腹の子はおとなしくなってしまった。


 どうやらお父さんがそばにいることが分かるらしい。

 お母さんだけじゃ不満だったのかい? と思うとちょっと複雑な気持ちになったけれど、まあとにかく落ち着いてくれてよかった。


 さあ、今度は大人が落ち着く番だよ……

 この大騒動、いつまで続くの……?


 などと、遠い目をしている間にまた別の部屋に連れていかれ、医者集団の診察を受けると入れ替わりに黒いローブを着た人たちが現れた。

 ソファに座ったカイルの膝に置かれたまま、彼らにも医者集団に話したことを繰り返す。


 お腹の子が泣いて、物が壊れただけ。

 母親である自分には何の影響も感じられず、ケガもない。

 カイルが傍に来たら子どもは落ち着いて、今は静かにしている、と。


 ……繰り返すたびにつのる、この無力感。

 我が子よ、お母さんだけじゃ不満なのかい……?


 それとは逆に、繰り返すたびになんとなく満足げな顔になっていくカイルに腹が立つ。


 子ども争奪戦は生まれてからのはずなのに、普通じゃない父親の影響で、思いがけず早まってしまった。

 うう、母は寂しいです……






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