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第十二話 信じる者は救われる



 寝ている間に竜胆の宮に運ばれていた晩餐会の翌日から、また後宮が騒がしくなった。

 マイラと女騎士たちが前と同じく「害虫駆除をしております」モードになり、気のせいかいつもより女騎士の数も増えているような。


 しかし何があろうと私にできることがあるはずもなく、のほほんと過ごしているうちに嵐は去った。

 ちなみにぼけっと過ごしていた私にそれが去ったと分かったのは、マイラが落ち着きを取り戻し、また前のように金属を使わない装身具について相談してきたからだ。


「以前から首元の飾りが少ないことが気にかかっていたのですが、長めのリボンに刺繍をしたりビーズを縫いこんだりして、巻いてみるのはいかがでしょう?」

「ああ、チョーカーだね。いいと思う。そういう飾りの他にも、(ドロップ)型のビーズがあれば真ん中に付けて首飾りっぽくできると思うけど、あるかなぁ?」


 妊娠が分かってから、カイルは私を竜胆の宮から出さなくなってしまったので、すっかりドレスや装身具の話から遠ざかっていたけれど、こういう話はやっぱり楽しい。

 どうやら子どもが生まれるまでこの軟禁生活は続きそうだけど、今は状況が落ち着いているようで、マイラは私が話に乗ってくるのが分かると、前みたいに糸やビーズを扱う業者を呼んでくれた。


 手芸用品を幅広く扱っているその業者は、もちろんリボンも扱っていたので、見本品を広げてもらうと部屋が一気に華やかになる。

 奇麗だねぇ、と眺めているだけで楽しくなって上機嫌でリボンやビーズを選び、「こういうのを作ってほしい」と雫型のビーズを図で説明して注文した。


 カッティングも頼んだので難易度が高くなったそれを、できるかどうか分からないけれど、とにかく作ってみます、と引き受けてくれた業者を見送り、さっそく購入したリボンでチョーカーが作れるかどうか試してみる。


「あんまりビーズをたくさん付けると、重くなってずり落ちちゃうね」

「そうですね。刺繍を散らして、一粒だけ目立つビーズか宝石を縫い込むのがいいかもしれません」


 あれやこれやと相談しながら、試しにリボンに刺繍を入れる。

 そんなふうに過ごしていると、こまめに診察してくれる女医がある日、難しい顔をして言った。


「竜胆の姫様。お腹のお子は、もしかすると双子かもしれません」

「ああ、それでお腹が大きくなるのが早かったんだね」


 そっかー、と納得して頷いていると、女医は難しい顔をしたままいつもと同じように「心穏やかにお過ごしください」と言って出ていく。

 なんだか深刻そうだったので、もしかして双子がダメな国か? と思ってマイラに聞いてみたけれど、特にそんなことは無いらしい。


 むしろ魔術師の家系に生まれる双子は特殊な能力を持っていることが多いので、喜ばれるんだそうで。

 皇族も強い魔力を持って生まれる子が多い血筋だそうで、双子であれば民は歓迎するだろうという。


 え、じゃあもしかしてカイルも魔法とか使えるの? と訊ねると、「魔法」じゃなくて「魔術」だと訂正された上で、「今代の皇帝陛下は優れた魔術師でもあります」という返事がきて、驚いた。

 普通に剣を持ち歩いてるし見た目も剣士タイプなのに、じつは魔術師だったの、カイル?


 ただ彼の使う魔術は特殊なものが多いので、見せてー、と頼んでもそう軽々と見せてもらえるようなものではないらしい。

 残念……


 勝手に期待して勝手にガッカリしていたら、その夜に来たカイルにいきなり聞かれた。


「体は大丈夫なのか?」


 唐突な質問に驚いたものの、すぐに女医の難しげな顔を思い出して問い返す。


「大丈夫だよ。先生に何か言われたの?」


 カイルは答えず、黙り込んでしまったので、それが返答なのだろうと分かった。

 彼は出会った時から表情の読みにくい強面をしているけれど、だいぶ慣れてきた私はなんとなくそこから感情を読み取れるようになってきている。

 今、彼から読み取れる感情は、「心配」だ。


「……お前は、体が小さいだろう」


 しばらく辛抱強く待っていたら、カイルがぼそりとそうつぶやいた。

 なるほど、私の体のサイズで双子というのが、負担になり過ぎるのではないかと心配してくれたのか。


 あー、これは、どうしたものかな?


 心配してくれるのはありがたいけれど、双子というのは個人的に「楽しみ二倍だね!」みたいなノリでわくわくしているのだが。

 私が能天気すぎるのか?


 あ、でも、この能天気にはいちおう理由がある。


「大丈夫、カイルさま。私ね、『安産型』だって凄腕の産婆さんに言われたことあるから」


 安産型、という言葉が分からず日本語になってしまったので、追加で子どもを産みやすい体形のことだと補足説明しておく。


 もうずいぶん昔のことだけど、学生時代に体験学習で行った介護施設で、そこの施設利用者の女性に言われたのだ。

 何百人も取り上げた凄腕の産婆さんだというその人に、「あなたいい形ねぇ~。きっとするっと赤ちゃん産めるわよ~」と。

 そして施設スタッフさんから、「この人に腰を撫でてもらうと安産になる」という話を聞いて、一緒に行った女の子たちと腰を撫でてもらったのだ。

 みんなノリのいい子たちだったので、パワースポット扱いで大はしゃぎだった。


 そんな騒がしい私たちに付き合ってくれたのは、ふんわりした雰囲気の優しげなおばあちゃんで、凄腕の産婆さん、と聞いてもぴんとこなかったけれど。

 太鼓判押されて腰を撫でてもらったことで、何となく「私はするっと赤ちゃん産めるんだなぁ」と刷り込まれたのは覚えている。


 なので今も私は胸を張って、自信満々に言った。


「だから、大丈夫だよ!」

「……」


 が、カイルは見知らぬ老婆の言葉がどれほどアテになるのか、という明らかな不信顔で、どうもあんまり説得の効果は無いようだった。

 うーん、残念。


 信じる者は救われるって言うし、良いことは信じとけば楽なのになぁ。






女医「(姫様の睡眠時間、どうも安定しないな……。薬の処方は間違ってないはずなのに、なんでこんなに効かないんだろう? うーん、これはもしかして……?)陛下、もしや姫様に毒物を完全無効化する魔術をかけていらっしゃいますか?(無いよね? 難易度の高い魔術だし、媒体は高価なくせに効果は数日で切れるし、まさかやってないよね??)」

皇帝「会ったその日から継続的にかけているが、何か問題があるのか」

女医「(会ったその日からーーー?! しかも継続的に?! アッ、そうだった、この御方、皇帝陛下で魔術師だったァーーーっ! ……あれ? でも姫様からも侍女からもそんな話聞いてないんですが? もしかして誰も知らないんです??)……あ、いえ、あの、えー、問題といいますか。もし姫様の身に何かが起きた時、毒物の完全無効化の魔術がかけられておりますと、治療に必要な薬の成分まで無効化されてしまうことがありますので、いちおう確認を、と。……お腹の御子は双子かもしれませんし、今のところ経過は順調ですが、万一の時の事を考えますと……」

皇帝「……そうか。では、何か対策を講じておく」

女医「はい、陛下」


報告終了、退室後。


女医(……あああああ、猛烈にヤバイことを聞いてしまった感。会ったその日に毒物無効化魔術とか……、ただの平民出の寵姫の主治医って聞いてたのに、ぜんぜん“ただの”じゃないんですけど、どういうことなの……。……いや、その前に、患者に薬を無効化する魔術がかかっているのを主治医に教えないとか、おかしくない……?

 …………アッ、そうか、これ試験か?! 私が気付くかどうか、試されてた?! アアァーー! どうしよう?! 気付いて聞いて、無効化魔術のこと教えられてしまった……! ってことは試験、合格? どうしよう、責任重大だぞこれ、どうしよう……!

 ……そうだ、神殿に行こう。最近、巫女姫が見つかったとかいう精霊神殿ならご利益あるはず……、うん、もう、祈るしかない……、がんばれ、私……、そしてどうか無事に出産してください、竜胆の姫様……!)」

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