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喫茶オルクスには鬼が潜む  作者: 奏多
きっかけの雨は降り続く

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かすかな変貌

 その日のHRでは、先生が烏に襲われた女子生徒の話をしてくれた。

 烏がいそうな場所は避けるように、という先生の言葉に、女子はみんな青くなる。


「私、血まみれになった子みちゃった……」

「顔をつつかれたって」

「え、やだー! 一人でグランドとか行くの怖いんだけど! ただでさえ人並みぎりぎりで踏みとどまってるのに、よけいにおブスになったら生きていけない……」

「誰だって嫌でしょ。絶対痛いもん」


 怖がって話し合いながら、女子はほとんどが誰かと一緒に帰宅することにしたようだった。

 そんな中で単独行動をしようなんて猛者は、元から単独行動を愛しているような子ばかりだ。


「え、私気にしないし」

「いちいち怖がってたら何もできないもん」


 そんな剛の者を横目に、私達三人は一緒に玄関へ向かう。

 芽衣は基本的に剛の者のくくりだけど、沙也や私を心配してくれてついてきているのだ。


「まぁ、烏ぐらいなら、傘を振り回したら逃げてくんじゃない?」


 靴を履き替えた芽衣の言葉に、沙也が「たくましーい!」と笑う。


「あ、でも傘いいかも……でも今日は持ってきてないや。鞄でもなんとかなるかな」


 私も見習いたいと思ったけれど、いかんせん手には鞄しかない。


「鞄は振り回しにくそうだよね。辞書とか入ってるし」

「振り回そうとして、自分の頭にぶつけそうな気がしてきた……」


 そう言って笑いながら玄関を出ようとしたところで、槙野君達とすれ違った。


「織原さん、雨降ってないよ?」

「違うよ、烏よけじゃないのか?」


 同じクラスの男子達の言葉に、芽衣はあっさりとうなずく。


「さすがに流血沙汰とか嫌だからね。烏とかにつつかれて、変なバイキン入っても怖いでしょう」

「おーさすが男前」

「織原に守られたい……」

「私が守るのは女の子限定だよ。男は自分でがんばって」


 強さを称える男子達に、芽衣はすげなく対応する。

 一方でそれを聞いた槙野君は、気の毒そうな表情になる。


「女の子は防犯のために色々しなくちゃいけなくて大変だよね。久住さんとか、か弱そうだから、烏じゃなくても気をつけることが多そうだ」

「男だって烏にはつつかれるだろ? うちの近所のじいさんも、烏に石投げてから、ずっと狙われてるぞ」


 別な男子の言葉に、彼らは「烏って攻撃してきた人覚えてるらしいよね」という話題が出る。


「げ。そうしたら傘振り回したら狙われるかな」


 さすがにそれは芽衣も嫌だったようだ。すると槙野君が提案してきた。


「校門あたりまでなら、俺たちも一緒に行こうか? 部活前にコンビニ行く気だったし、大集団なら烏も寄ってこないんじゃ」

「お、槙野ったら紳士―。俺も守って」


 槙野君の友達が、そっと寄り添っておねだりする姿に、私達は思わず吹き出す。

 沙也も怖いのが吹き飛んだようだ。

 そうして私達は、十人ぐらいの集団で歩き出す。


「なんか集団下校みたいだよね」

「小学校ぐらいだとよくあったよな」


 校門までの短い距離。私達はコンビニとは反対の方向にあるバス停へ行くので、ほんの一分も歩かないのだが。

 それでも集団で何かするというのは、心強いし楽しい気分になってくる。


 ふと、数か月前なら、地に足のつかない気分になっていたんだろうなと考えた。

 槙野君と一緒に下校とか、その頃は夢に見ていたから。

 今は冷静で、沙也のためにも一緒に行こうと言い出してくれたことに感謝するぐらいの気持ちしかない。


 ……が、ふいに誰かが挙げた声で、その穏やかな気持ちもかき消されることになった。


「あれ、舞島?」


 沙也の前を歩いていた男子生徒が、斜め左を見ながら言ったので、他の男子が不思議そうに首をかしげた。


「あいつ早退しただろ。病院行くって親が迎えに来て……」

「そうだよな。でも……」


 話の流れから、舞島というのが怪我をした女子生徒の苗字だというのがわかる。

 当の男子生徒は困惑した表情になった。

 そうして彼がもう一度目を向けた先に、私も目を向けた。


「え?」


 一瞬、遠目にしか見ていないのだけど、烏につつかれた彼女のように見えた。

 まばたきすると、ちょっと違うのがわかる。


「あれ、三谷さんじゃないの?」


 他人に言われてみると、すうっとその姿が三谷さんらしく見えてきた。いや、今では完全に三谷さんにしか見えないけど、でも。


「ものすごい雰囲気が似てる……?」

「顔立ちとか、雰囲気全然違う奴だったのにな」


 男子生徒たちも不思議そうにしている。

 そんな中、槙野君は怪我をした彼女のことを思いだしたみたいだ。そのことに話題を移した。


「そういえば……どうなんだ? 怪我とか」

「保健室に付き添った女子の話だと、傷はそれほど深くないとか言ってたな。ただ額にしっかり爪痕がついてたから、残るかもとか」

「いやーん、玉のお肌に傷が残るなんて……俺でもブルっちゃう」

「男がデコ傷ついたぐらいなら、別に問題ないだろ」

「前髪とかで隠せるといいんだけど……」


 沙也が不安そうに言って、考え込んでしまう。

 そのあたりで、校門に到着してしまった。

 私達は槙野君達と別れてバス停へ向かう。そうして沙也がバスに乗るまで見届けた後、私は芽衣と地下鉄へ。

 改札で別れて一人になった後、つぶやいてしまう。


「……どういうこと?」


 つぶやいた私に、柾人は潜めるような笑い声を立てるだけだった。

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