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喫茶オルクスには鬼が潜む  作者: 奏多
きっかけの雨は降り続く

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25/41

喫茶店で友達とお茶を

 お水とおしぼり、メニューを置いて、ようやく慣れて来たフレーズを口にする。


「こちらメニューになります。当店では、お茶一杯でも本一冊分を読み終わるまで滞在していただいてかまいません。よろしければ書架にも本がありますので、ご利用下さい」


 沙也が小さく笑う。


「すごく様になってる美月。とりあえずカフェオレもらおうかな」


「かしこまりました」


 カウンターの中にいる記石さんに伝えると、既に聞こえていた記石さんはもう準備を済ませていた。

 鬼に関わる出来事のカモフラージュのために始めたお店だというけれど、記石さんはお店の体裁を守るためにも、きちんとコーヒーを淹れる。

 ひいた豆から立ち上るコーヒーの香りに鼻をひくつかせながら、私はカフェオレの出来上がりを待つ。


 その間に沙也の方も、気持ちが定まったみたいだ。

 カフェオレを沙也の前に置いた時、彼女が私を見上げて言った。


「今って、勤務中だけどお話してもいいのかな?」


「確認してくるから待っててね」


 基本、私は鬼に感情を提供するために通っているからか、記石さんはものすごいゆるい勤務状況にしてくれているけれど、一応断るべきだろう。


「店長、他のお客さんがいない間だけ、お話してもいいですか?」


 記石さんはうなずいてくれる。


「かまいませんよ美月さん」


「ありがとうございます」


 そう言って沙也の向かいの椅子に座った。

 そんな私の前に、記石さんがやってきてカフェオレを置いてくれる。


「美月さんもどうぞ。何もないと、お友達も口をつけにくいでしょうから」


「あ、ありがとうございます」


 頭を下げてお礼を言うと、気にするなと言うように手を振って、すぐに記石さんは離れてしまう。

 沙也が身を乗り出して、ささやき声で言った。


「あいかわらず美形だけど、あげくスマートな対応とか、すごい人ね」


「本当に今のは驚くほどスマートだった……。私のまで用意してくれてたとは思wa

なくて」


 記石さんの美形さには慣れたのだけど、こういう対応にはドキッとさせられる。

 ただ記石さんにすんなりと慣れたのは、アルバイトを始めてすぐ鬼に提供したのが、記石さんにドキドキする気持ちだったからだと思う。

 じゃなかったら、仕事にならない。


 お礼のためにもアルバイトを、と思っているのに、不純だから嫌だったのもある。

 おかげで以後は平常心で仕事ができて、とても助かっていた。鬼って便利……。


「そういうドキっとすることなら、沢山あってもいいのになぁ……」


 沙也がため息をついた。


「何かあったの?」


 尋ねると、疲れたようにうなずく。


「解決できないかもだけど、聞くだけでいいなら聞くよ?」


 話を聞いてもらうだけでも、気が楽になるものだ。特に女の子は話を聞いて欲しいだけの人も多い。

 そう思って言ったのだけど、沙也はなぜか涙目になった。


「私、美月のこと信じてるの」


「うん」


「でもこんな話したら、気のせいとか、それぐらい寛容に受け止めたらって言われそうで、怖くて……」


 いつになく苦悩している沙也の表情に、言うだけのことも難しい問題らしいとわかった。

 そしてもう一つ。


「誰かに、気にしすぎとか、許してやればいいのにとか言われたの?」


 沙也が目に涙をためてうなずいた。


「お母さんに……」


「それじゃ言うの怖くなるよね」


 もしそれが学校内のことなら、一番味方になってくれて、そして第三者でもある相手だ。

 悩みをいって、心が狭いと返されたら辛いだろう。


「それは学校のこと?」


 聞けば沙也はうなずいた。


「芽依には話した?」


 首を横に振る。


「学校じゃ話せなくて……誰かが聞いてて、私のこと自意識過剰だとか、言いがかりをつけたって言われそうで怖くて」


 沙也は自分を落ち着かせるように、カフェオレに口をつけて、息をついた。


「だから美月なら、放課後に確実にお店にいるし、バイトの後にでも呼び出せればと思って」


 とにかく、ものすごく自分の評判を気にしていることはわかった。

 人に知られたら、さっと聞いただけだと笑われると思うようなことだということも。


 でもそんな気持ちには覚えがある。私も亜紀の問題の時に、とても言いにくかった。

 嫉妬しているのは事実だから、嫉妬してる私が悪いと言われそうで、辛くて誰にも打ち明けられなかった。

 苦しくても友達なんだからのろけられるぐらい我慢するべきとか。心が狭いとか言われたら、登校するのも嫌になっていただろう。

 耐え難くなってようやく口に出せた経験を思えば、沙也の気持ちはわかる。


「大丈夫。沙也が悪いなんて言わないから。亜紀の時も私、同じように思ってぐずぐずしてたもの」


「ありがとう」


 沙也は心底ほっとした表情になる。

 それでも踏ん切りがつかなかったのか、景気付けのようにカフェオレをぐいっと飲んで、それから私に向き直る。


「あのね……」


 そうして沙也が口にしたのは、なんとも気味が悪くて、奇妙な話だった。

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