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喫茶オルクスには鬼が潜む  作者: 奏多
きっかけの雨は降り続く

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23/41

きっかけはいつもささいで

 その日の出来事は、ほんのささやかなもので、クラスメイトなら一度はあるだろう、普通のことだった。


「美月、その傘いいね」


 雨の日だった。

 朝から降り続いた雨は止まなくて、梅雨がないはずの札幌だというのに、空気はじめじめとしていた。

 そんな学校の帰りにそう言ったのは、沙也だった。


「うん、お母さん使ってたのをもらったの」


 雨の日らしい青と紫の花がプリントされた傘。留めるボタンが貝殻になってて、ちょっとオシャレだった。

 朝この傘をくれるとお母さんが言ってくれたので、じめついた日だけれど私は少し気分が浮ついていた。


「沙也の傘も可愛い」


 淡いミントグリーンの地に白い花柄。私は派手なものが苦手だから、沙也のパッと見には普通の傘のように見えて、でも次の瞬間にはハッとするような柄がさりげなく入っているような傘はとても好みだ。


「ていうか、沙也はいつもセンスいいよね」


 沙也はふわんとした髪をいつも違う結い方をしているし、校則範囲内だけど可愛い髪ゴムなんてものを見つけてくるのも上手い。そもそも私服のセンスも見習いたいほどで、私は時々ご教授願っている。

 そうして他人に褒められて「沙也の見たてのおかげだよ」と言う時、自慢できる友達を持てた自分がとても誇らしくなるのだ。


「美月も可愛いの見つけてくるの上手いじゃない」


 沙也もそんな風に褒めてくれる。

 そんな私達の様子を、たまたま通りがかった槙野くんたち男子も目を止めたらしい。


「貝殻とか高級な傘だな?」


「でもいいねこれ。カタツムリみたいでセンスいいかも」


 後者は槙野くんの発言だ。

 以前なら、褒められたことに有頂天になったと思う。同じクラスでも、滅多に話さない人だから。

 というか、あまり男性と話すことそのものが無い私なんだけど。いや、ある一人とはとてもよく話すようになったので、そろそろこんな風に言ってはいけないのか。

 なんにせよ、この頃には亜紀の事件のこともあって、槙野君のことはどうとも思わなくなっていた。


「ありがとう」


 だからさらっとお礼を言って終わった。


「久住さんの傘もシンプルで使いやすそうなのに、綺麗な色だね。女の子はやっぱり傘にも気を遣うんだな」


「めんどくさそう。俺黒で雨さえ防げればいいや」


 槙野君は沙也のことも褒めていく。彼はわりと気配りの人だ。一方だけ褒めて、風のように通り過ぎて行くことがない。

 だから余計に人気があるんだろうなと、冷静になった今だからこそ感じる。


「あれ、お母さんは新しいのを買ったの?」


 沙也に言われてうなずく。


「うん、今度はちゃんとカタツムリの形をした留め具の傘を見つけたらしいの」


「美月のお母さんの、そういうとこ可愛いよね」


「自分では子供っぽいと思ってるらしいよ? 昔は気にしてたらしいけど、好きなものは好きなんだし、おばさんだからずうずうしく気にしないことにしたって」


「その考え方が面白すぎ。振り切ってる感じがいいよー」


 私はすぐに沙也との会話に夢中になって、正直、槙野君から声をかけられたことも忘れてしまった。

 だから、特に印象深い出来事ではなかったのだ。

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