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喫茶オルクスには鬼が潜む  作者: 奏多
片羽だけの恋

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12/41

そして状況は移り変わる

 私は呆然としながら家に帰った。


 記石さん(と間違えた人)が居なくなってから、気づけば周囲に人がいた。

 さっき信号を渡って行ったはずの、サラリーマンとOLさん。

 突き飛ばされたと思う前と、全く同じ状況に戻っていたのだ。


 何がなんだかわからない。

 でも地下鉄の方向からは人がまだ流れてくるし、とにかく誰もいない状況じゃないうちにと、走って帰宅したのだ。

 先にお母さんが帰ってきていたのを見てびっくりしたけど、良かった。

 まだ18時50分でセーフ。

 でも慌てて走って帰ったことがわかったらしく、お母さんも不思議そうに私に尋ねて来た。


「どうかした? 不審者でもいたの?」


 不審者という言葉にドキッとする。

 でもあれ、不審者じゃない。どちらかと言えば……。


「お、おばけ?」


「は?」


 お母さんが、目を丸くする。


「だって、見えてた人が突然消えたりって、おばけじゃないの?」


 私の話を聞いたお母さんは、ややしばらく悩んだように眉間にしわを刻んだ後、


「ちょっと待ってなさい」


 と言って、お玉片手に自分の部屋へ。

 そうして、神社の交通安全のお守りを渡してくれたのだった。 とりあえずそのまま夕ご飯を食べ、部屋に戻ってからつぶやく。


「ないわー。お母さんそれないわー」


 おばけを見た。

 だからお守りを渡すのはまぁわかる。お母さんに笑ったりされなくて、良かったとも思っているの。

 でも渡されたのが、交通安全。


「いや、それほどひどく間違ってはいない?」


 ぶつかりそうになったのは車だし。交通安全なら、車道に突き飛ばされることはなくなる……んだろうか。

 車の方が気づいて止まってくれたりして。


「いやいやいや。でも、こういう場合、危険なのは車とは限らないよね」


 自転車でも怖いし、本当に不審者にでも追いかけられたら、それは対物安全のお守りが必要だろう。

 もしあそこに、記石さんが居なかったら。車にはねられて、どうなっていたか。


「でも記石さんじゃないって、言ってた……」


 記石さんじゃない人。でもあんなにそっくりなのに……と思う。


「まさか、双子だったりする?」


 だとしても、言っていたことの理由もわからない。

 それよりも考えるべきなのは、亜紀のことだ。

 亜紀は、幽霊になってしまったんだろうか。突然現れて、突然消えてしまった状況を説明するには、それしか思いつかない。

 でも亜紀になにかあれば、うちのお母さんに連絡が来るはず。だから問題はないんだろうけれど……。ちょっと怖い。


「怖いと言えば」


 私は首をかしげる。


「あんな目にあったのに、わりと平気だな私……」


 普通なら布団被って震えて朝を待つような、そんな状況になるんじゃないかと思う。

 オカルト系の映画とかなら、そうなるよね?

 でも走っていたとはいえ普通に家に帰ったし、お母さんに顔色が悪いと思われはしたけれど、震えてろれつが回らないなんてこともなかった。

 お母さんのお守りで拍子抜けしたのもあるけど……。


「何か、冷静すぎておかしいような」


 違和感はあるけれど、それがどうしてなのかわからない。

 ただなんとなく、あの時現れた記石さんのそっくりさんのおかげではないか、という気もする。


「きっと安心したのかな」


 助けてもらえたから……。 たぶんそうだろうと考えた私は、その夜はぐっすりと眠った。

 そして学校へ行って驚く。



「ちょっと美月。聞いた?」


 登校するなり、芽衣が挨拶もそこそこに話し始める。


「何を?」


「槙野君に告白して振られた女子がいるって噂」


 声をひそめた芽衣に合わせて、顔を近づけて私もささやき声になる。


「え? 誰か昨日、告白したの?」


 芽衣は首を横に振った。


「違うのよ。それが……同学年で、ときどきクラスに遊びに来てた子からっていう噂がね、流れてるの」


「え……まさか」


「美月が想像したとおり、彼女の名前が挙がってるみたいなの」


 芽衣は警戒して名前は口にしない。

 けど、それが亜紀のことだっていうのはわかった。それに当てはまる人って、一人じゃないわけだけど……限りなく亜紀が当てはまってしまう。


「でも告白したのって、だいぶ前だよ?」


 つい最近のことじゃないから、やっぱり亜紀じゃないはず。なのにどうして、亜紀の名前が挙がっているんだろう。

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