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貯金残高100円

「はぁ~」


結局クリスマスだって言うのにこうしてベッドの上でスマホを触ってる私って……


可奈は今頃彼氏とデートだろうなぁ、いいなぁ~、私だってほんとは今頃は刈谷先輩んチでみんなでパーティーだったのに……


ピンポーン! 誰か来たみたい、お母さん1階に居るよね?任せたよ、私は病人なんだから。


「あら、刈谷君」


バサッ! お母さん、今「刈谷君」って言った?


私は耳を澄ませて階下の様子を探ることにしました。


「まあ、可愛い。刈谷君の弟さんと妹さん?」


幸次君と幸乃ちゃんも来てるの?


「そうだ!ケーキ余ってるのよ、食べて行かない?どうぞ上がって」


なにやら1階で凄いことが起こってるじゃないですか! 私が一人動揺していたらお母さんが階段を上がって来ました。


「今子、刈谷君が来てくれたわよ」


「待って!すぐ行く!」


「ダメよ~、あなたは病人なんだから、小さい子に病気を伝染(うつ)したりしたら大変でしょ」


「そんな、それに私の体調不良はウィルス性の風邪とかじゃないから伝染ったりしないわよ」


「ダ~メ!そうね、それじゃあリビングの隣の部屋までならいらっしゃい、ドアは閉めておくけどね」


ここでゴネても仕方ないと諦めた私は渋々リビングの隣の客間から閉じられたドアを挟んで団らんに参加することになりました。


「そう、幸次君と幸乃ちゃんって言うの?可愛いわねぇ」


「お母さんあんまり幸乃ちゃんにグイグイ行くと痛い目に会うわよ」


私はドア越しに忠告する。


「美味しい?まだまだあるわよ、いっぱい食べてね」


「はい!」

「はーい!」


何?幸次君も幸乃ちゃんもケーキを使ったお母さんに簡単に籠絡されてるの!


「しかし刈谷君ってイケメンよねぇ」


そりゃそうよ。


「ウチのお父さんの若い頃によく似てるわ」


ドンッ! ついつい私は壁を叩いてしまった。


「刈谷先輩、気にしないで下さいね!ウチのお母さん物忘れが酷くて昔を美化してるだけだから」


ウチのタヌキさんと刈谷先輩が似ている訳ないでしょうよ! ってことは刈谷先輩が将来タヌキさんになっちゃうって言ってることなのよ!お母さんのバカ!


「あの、コレ、今子さんに渡しといてもらえますか?」


「あらプレゼントかしら?素敵なセーターね?手編みなの?」


えっ!?嘘!?刈谷先輩が?見たい!見たい!見たい!見たい!ドンッ!ドンッ!ドンッ!


「今子、静かにしなさい、幸乃ちゃんがびっくりするでしょ」


「婆ちゃんが間宮さんにあげたいって言って編んだんです。毛糸は俺の昔のセーターをばらして編み直したヤツなんでどうかなぁって思うんですけど」


「まあ!素敵なお婆様ねとっても可愛いセーターだわ、今子あなた幸せね」


お婆ちゃん……私なんかの為に、嬉しい……ありがとう……お婆ちゃん。


「刈谷先輩……ありがとうございます」


「間宮!元気になってまた婆ちゃんの話相手してやってくれよな」


ドア越しの刈谷先輩の声が優しい


「はい」


私は本当に幸せだ。家族はもちろん友達も、そして大好きな人や大好きな人の家族にも心配してもらってる。みんな、みんな、ありがとう。


「それじゃあそろそろ帰ります。今日は突然すみませんでした」


「いえいえ、ほんとまたいつでもいらっしゃい。今子のこともよろしくね」


「はい、いつもこっちがお世話になりっぱなしですけど、これからも宜しくお願いします」


せんぱ~い~、なんて好青年なの!こりゃお母さんの印象1000点満点でしょ?そのまま「嫁に下さい」って言っちゃえ!


「今子、挨拶しなさい!ドアは開けないでね」


「刈谷先輩、幸次君、幸乃ちゃん、今日はわざわざありがとう。元気になったらまた一緒に遊んでね」


「それじゃ間宮、無理すんなよ」

「イマ姉ちゃんバイバイ」


玄関まで送って行ったお母さんが戻ってきて刈谷先輩から預かったセーターを渡してくれました。


それはとても素人が編んだとは思えないような立派な白いセーターで、お母さんに促されて着てみるとサイズも私にピッタリでした。


お婆ちゃん、ホントにありがとうございます。


しかもコレ、刈谷先輩のおさがりだしムフフ、ああ刈谷先輩の匂いがする~ムフフフフ。


「さあ、アンタは部屋に戻って寝てなさい」


私はお母さんにお尻を押されながら無理やり部屋に帰されました。


「ちょっとアンタの部屋、空気が悪いわよ。換気くらいしなさい」


そう言うとお母さんはベッドの横の窓をいきなり全開にしました。


「ちょっとお母さん!寒いわよ!そんなに開けたら」


「本当ね、寒いと思ったら雪が降ってるじゃない」


ちらっと窓から空を見たけど夜の6時を回った頃で空は真っ暗でした、でもお母さんが言うような雪なんかは降っていなくて、まーたお母さんがおかしな事でも言ってるんだと相手にしませんでした。


「あら?あれは雪ダルマね、それからあれはトナカイかな?」


「ちょっとお母さんいい加減閉めてよね、私は病人よ」


さすがにこれ以上は付き合ってられなくて私はお母さんをどかせて窓を閉めようとしました。


その時、さっきの私の位置からは見えなかったけど窓の外の一階の軒の向こうに光るモノがいくつも見えました。


白い雪、雪ダルマ、トナカイ、サンタクロース、そして、男の子と女の子とお婆ちゃんとちょっと大きな男の子と女の子の光る紙人形でした。


いつか私が幸乃ちゃんに披露したパネルシアターよりももっと大きな黒い板に光る紙人形たちがキレイに貼られていて、その真ん中には『メリークリスマス イマ姉ちゃん いつもありがとう』と書かれていました。


「これは幸次と幸乃からのプレゼントだってさ」


パネルを支える刈谷先輩が笑顔でそう言いました。


「おねーちゃーん!」


幸乃ちゃんが手を振りながら私のことを"お姉ちゃん"って呼んでくれました。


「またおウチに来てねー」


私は涙が止まらなくなって、手を振り返すのがやっとのことで、それでも笑顔でなんとか声をあげました。


「幸乃ちゃん!幸次君!お姉ちゃん早く元気になって遊びに行くからねー!」


「間宮!じゃあな!暖かくして寝ろよ!」


「刈谷せんぱーい!だーい……」


さすがにお母さんやご近所さんの手前、途中で止めたけど、私は気持ちが届くように笑顔で3人を見送りました。


「いい子達ね、大切にね」


「うん」

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