表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

スサノオノミコト、ヤマタノオロチを退治する話①

 ヨーロッパには物語の類型として、悪龍の守護する城砦に囚われた姫君を、古今無双の英雄が救い出すという物語があるらしい。“あるらしい”などと曖昧な表現になってしまうのは、その古今無双の英雄殿が何時代の某殿か存じ上げぬ為である。

 そのパロディであればマーク・トウェインの『アーサー王宮廷のヤンキー』とかウィリアム・スタイグ原作のアニメーション映画『シュレック』など、すぐに思い浮かぶ。各種、龍殺しを達成した人物の伝説・神話を調べてみても姫君の存在が意外と欠けている。外国のことは良くわからない。

 日本にはスサノオという英雄がいる。彼が退治したヤマタノオロチは龍ではなく蛇じゃないかという人もいるかもしれないが、どちらでも、よろしい。どうせ頭が8つもある蛇など実在しないのだから、ヤマタノオロチを龍と解釈しようが、蛇と解釈しようが許容しうる誤謬の範囲に違いない。とにかく、我らがスサノオは悪龍を退治し姫君クシナダを救い出した古今無双の英雄なのである。

 このスサノオ、実は人間ではない。神である。『古事記』を信じればイザナギが単為生殖によって生み出した神々の一人なのである。そもそも受精を行っていないのだから単為生殖ですらなく、単為発生とよぶべきかもしれない。ご存知のとおり日本の神々は通常、我々が行っている生殖行為と同様の行為によっても子孫を作ることが出来るし、顔を洗ったり、勾玉を噛み砕いて吐き出すといった雌雄のパートナーを必要としない行為からでも子孫を生み出すことが出来るのである。偉いのだ。

 スサノオがなぜ神々の国から地上に降り立ったかは、もっともな理由がある。彼は獣の死骸を人様(神様の?)の邸宅に投げ入れたり、Restroomではない場所で大便を捻り出した。当然の結果として追放さるるに至ったのである。

 彼は髪を切り、髭を剃り、旅に出た。旅の途中、渇いた喉を潤すため立ち寄った川の上流から箸が流れていた。箸?と私は思うのである。子供のころ、学校で、縄文人はドングリなどをすり潰して作ったパン(のようなもの)を食べていたと教わったのである。パン(のようなもの)なら素手で食べたほうが、食べやすいにちがいない。ということは米を食っていたのだろう。そんな昔からあったんですね。箸

 さて、箸が流れてくるということは川を上れば人里に辿り付くにちがいないと考え、スサノオ歩くこと三時間弱(未舗装路なのだ)、無事、田園風景(なにせ箸を使うぐらいなのだから)の小さな村落にたどり着く。神代の時代だからそんなに貧富の差は激しくは無かっただろうがスサノオは、その集落でもっとも富裕そうな家を訪ねた。どこにでも大便を垂れ流す男である。少々、厚かましく出来ている。すると、家の主と思しき夫婦が一人のうら若き乙女を抱いてシクシクと泣いているではないか。

 私なら、失礼いたしましたと立ち去っていたに違いない。スサノオは違った

「いったい、どうした理由です?」

ひとの家庭事情に土足で踏み入ることに迷いが無い。

「実は私ども夫婦には八人の娘がおりました。年に一度、ヤマタノオロチという化物がやってきて毎年一人ずつ連れ去っていってしまうのです。まもなく、残された最後の娘もヤマタノオロチに連れ去られてしまうでしょう」

 なぜ、ヤマタノオロチは一度に八人まとめてお持ち帰りしないのであろうか?そのほうが、ずっと効率がいいのに。娘を“うら若き”と断言できた理由がここにある。つまりヤマタノオロチ氏は八人の娘が、ちゃんと都条例的な何かに引っ掛からない年齢に達するまで待つことの出来る理性の持ち主だということである。

 そういえばヤマタノオロチの尻尾から天叢雲剣が発見されたことから、氏がたたら製鉄を営んでいたのではないかと推察する学者もいる。慧眼である。たたら製鉄では砂鉄を使う。砂鉄を多く含む土砂を川に流し砂鉄をとりだす工程を「鉄穴流し(かんなながし)」というらしい。川は当然濁るに違いない。ここで川から流れてきた箸の存在を、クシナダ嬢の実家が稲作農家である事実を思い起こしていただきたい。これは、もう、ご近所トラブル待った無しである。

 もしかするとスサノオが訪れる以前、稲作集落とたたら集落は川をめぐり何度も相争っていたのかもしれない。両陣営の戦争は鉄器を多く持つたたら集落側優位に進み、稲作集落は長の娘を人質として差し出すことで停戦合意に至ったのだ。両者合意のこととはいえ口惜しくて涙が止まらない。末娘が都条例的な何かの定める合法年齢に達した年、突如として英雄然とした若者(※神様の年齢感覚は不明である)が現れたのである。長夫妻はこれを利用しない手は無いと考えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ