夢界-1
静寂の中、その甲高い音は耳元でどんどん大きくなっていった。それはやがて、騒音といえるほどの大きさまでに成長し、重たい瞼を半ば強制的に開かせた。
「ん……」
はっきりとしない視界の中、耳元にあるスマホに手を伸ばしアラームをきる。
カーテンの隙間からは朝日が差し込み、早くこの狭い隙間を開いてくれとばかりに俺を照らしている。
学校に遅れるわけにもいかないので仕方なくベッドから出て、カーテンを開けてやると、いままでたまっていたエネルギーを放出するかのように、一瞬にして部屋全体を照らし出した。
そうなると、部屋の全貌が明らかになるわけで、暗闇から慣れてきた目はその部屋を見つめ今日一日の気合いへと変える。
「よし!」
ようするに、部屋全体が見えるようになったことにより、壁じゅうに貼られたアニメヒロインたちのポスターが一斉に俺を見つめたわけだ。
このまま、この楽園とも呼べる場所に居たいという気持ちはもちろんあったが、そういうわけにもいかないのでしぶしぶ部屋を後にして、階段を駆け下りる。
「おはよう」
「あ、お兄ちゃんおはよう! もう少しで朝ごはんできるから、座って待ってて」
と、今挨拶したのは妹の美乃梨で、両親が共働きでしかもほとんど帰ってこないということもあり、朝ごはんはいつも美乃梨が作ってくれている。
一方俺の方はというと、最近ようやく妹の助けなしで起きることができるようになった残念な兄貴なのだが、妹が起こしてくれなくなったのが残念であるという事実については今は触れないでおく。
そんなわけで、顔も洗ってしっかりと目を覚ました俺は、食卓についた。
「はい、おまたせ」
「お! 今日もうまそうだな。いただきます」
「どうぞ」
エプロンをはずし、妹が椅子に座ったのを確認した俺は、食事の挨拶をしておいしそうに彩られた朝食に手を伸ばそうとした。
「あ、お兄ちゃん。今日、私帰りが遅くなると思うからよろしくね」
「え……。ついに俺の妹にも……」
そう、朝食に手を伸ばそうとした(・・)のだが、美乃梨の衝撃的な発言によりそれは叶わなくなってしまった。
そして、悲しそうな目で美乃梨の方を見ると、美乃梨は軽蔑の目を持ってこちらに目線を返してきた。
「いや、彼氏とかそういうのじゃないから」
「だよな! そうだよな!」
さすが俺の妹。まだ何も言っていないのに予測で返した言葉が的確に的を射ている。
ちなみによく友達にシスコンを間違われるが、それは断じて違う。俺はただ妹のことをこの世界で一番大切にしているだけだ。
それをシスコンというのだと、友達に断言されてしまったら最後なわけだが、あいにくそこを指摘してくる友達は今のところいない。
「今日は友達の家に遊びに行って夕飯ごちそうになってくるから遅くなるだけ。もちろん何人か友達はくるけど、女子だけだから心配しないで」
「そうか、気をつけて行って来いよ」
「絶対、つけてこないでよ? この間もお兄ちゃんのせいで大変だったんだから」