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ディリオン群雄伝~王国の興亡~ (修正版)  作者: Rima
第一部 第一章『崩壊』
5/46

『忠実なる者達』 ※挿絵

 諸侯同盟(アリストクラティオン)の結成により王国は一気に戦乱への道を歩み始めた。それまで不安定ながらも保たれていた平和は脆くも崩れ去った。王土が俄にざわめきだち、戦の機運に満ち満ちていた。


そして、戦いには攻める側がいれば守る側もいる。若き貴族は王座を守護する為に進軍の途上にあった―――





◆ ◆ ◆


【新暦658年3月 王都ユニオンへの途上 貴族ジュエス】





 王命を受けたジュエスは反乱軍と戦う為に王都への途上にあった。勿論兵を連れてである。その数は1万8千。プロキオン家を中心にリンガル各地の貴族や領主が集まる、リンガル勢のほぼ全軍であった。

 プロキオン家は飽く迄もリンガル地方最大の貴族に過ぎず、他のリンガル諸家より上位というわけではない。にも関わらず、ジュエスは彼個人の求心力によって事実上リンガル勢全てを手中に収めており、これは特筆に値する事柄であった。


 オリュトスに於いてケイズ老公率いるコーア軍2万5千と合流すると一路王都ユニオンへ向かっていた。

 先陣はコーア軍が担当し、リンガル軍は後から続いた。コーア勢の方が王都までの道に詳しく、また意気込んだケイズ公が先頭に行くことを望んでいたからだった。

 道中の露払いもコーア軍が行う予定だったが、4万人を超える大軍に襲いかかってくる賊などいようはずもなく、恙無い行軍であった。


 ケイズは息子ケイトセンを公都オリュトスに置いてきていた。内政を担当する者が必要というのも理由だったろうが、一番の理由は戦場に自分と反りの合わない辛気臭い男を連れて行きたくなかったというところだった。


 その気持ちはジュエスにもよく分かる。ジュエスも益体もない老臣共をリンガルに置いてきていた。自分のいない後事を託せるのは諸君らしかいないとか何とか心にもない事で言いくるめてきた。老臣連中は見せかけにすぎない信頼への感激でむせび泣いていたが、体良く追い払われたことには気付いているのだろうか。

 老臣共も昔は有能だったが今は腕も頭も錆び付いている。それに奴らはかつてジュエスを裏切り捨てようとした。その事をジュエスは決して忘れてはいなかった。


 幕僚として連れて来たのは若い士官ばかりだ。コンスタンスもセルギリウスもそうだが、皆、忠誠心に溢れ有能だ。


「反乱軍なんかジュエス様の手に掛かればあっという間に追い散らせますよ! 俺もバッタバッタとなぎ倒してやりましす!」


 左隣に並ぶコンスタンスが言った。譜代家臣ニールトン家出身の若者で、実直な武人だが些か抑えの効かない所がある。


「突撃しか能の無い奴は早く死ぬ。ジュエス様の迷惑にしかならん」


 右隣に並ぶセルギリウスが言った。クレア家出身の貴族で、ジュエスの信頼するプロキオン家の事実上の副将である。冷徹極まりない、氷の男だ。だが、見かけによらず忠誠心は篤い。本来クレア家はプロキオン家の家臣では無いのだが、このセルギリウスはジュエス個人に対する敬意や忠誠心から事実上の臣下として振る舞っている。


「何だ嫉妬してるのか? いつも俺が先鋒を任せてもらえるから」

「私はジュエス様の采配に疑問を持った事は一度足りとてない。貴様が前線でがむしゃらに戦っている間、私は軍勢の半数の指揮を任されているのだからな」

「フンッ、鈍亀みたいに引きこもってるだけの癖して偉そうに!」


 セルギリウスが鼻で笑い、コンスタンスが怒っている。彼らの何時もの光景だった。


 この二人がジュエスのリンガル軍に於ける両腕だった。


 冷静沈着に防御を固めるセルギリウスと果断な突撃を得意とするコンスタンスの組み合わせは、少なくとも訓練や小規模な実戦では大きな効果を上げている。

 今でこそ張り合ってはいるが、これがどうして、いざ戦場に於いては実に見事な連携をみせるのだ。大規模な会戦でも戦果を上げられるだろう事をジュエスは疑っていない。


「二人共、今は行軍中だ。慎め。部下に示しが付かん」


 ジュエスは叱責した。可愛い"飼い犬"であっても甘やかしはしない。


「申し訳ありません……」「申し訳ありません……」

 

 叱責を受けた二人は見事な"連携"を見せた。コンスタンスは露骨に、セルギリウスは表には出さずに気落ちしていた。


「張り合いは戦場で行え。いつもの事だが、二人には期待しているのだからな」


 そして、ジュエスはすかさず褒めた。称賛は一度落としてから持ち上げると非常に高い効果が見込めることを知っていた。


「は、はいっ!」「は、はいっ!」


 再び"連携"を見せた二人は今の気落ちはどこへやら、ぱっと顔を輝かせる。


 ――本当に単純な奴らだなあ。だからこそ良いのだが――


 ジュエスは心中で笑った。


 セルギリウスとコンスタンスは優秀な戦士であり、巧みな指揮官である。だが二人とも攻撃的で軍人的な気質が強すぎた。彼らの才覚は飽く迄も前線でしか発揮出来ない類のものだ。

 内政や後方支援を担当出来る者がいれば、とジュエスは常々思っていた。

 老臣共はもっと役に立たなかった。蛮勇なケイズ老をもっと酷くしたような奴らしかいないのだ。

 補佐として連れて来たフェブリズという下級勇士(ミリテス)には見込みが有りそうだが、まだ経験も実績も無い。まだまだ頼るには足りない。


 何にしても、今率いているのがジュエスの持つ全ての駒だった。


 ――大事な大事な僕の"飼い犬"達。使い潰さないよう慎重に用いていかなければな――


 そして、ジュエス達は王都への道を進むのであった。



 ◇ ◇ ◇




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)


 "ユニオンの如く大きい"


 ディリオン王国では良く聞かれる陳腐な言い回しだ。

 ジュエスは普段何気無く使っているその言葉の意味を始めて理解した。


「これは……何と大きいんだ……」


 王都を見たジュエスは思わず口に出した。


 王都ユニオンはディリオン王国の地理的な意味でも、政治的な意味でも中心に位置する。それ故に規模も常識はずれな巨大都市として成立していた。


 巨大な城壁は山脈の如くに視界一杯に立ち塞がり、各所に設けられた防御塔は雲をも突かんばかりの高さだった。城門一帯は更に多くの防御施設で囲まれており、そこだけで一つの城塞と言ってもいい威容を誇っている。

 壁の周囲には空堀や水堀が延々と張り巡らされ、その防御力を一層高めている。


 プロキオン家の拠点ノホールドやコーアの公都オリュトスもこの巨大都市に比べれば所詮辺境の城塞であると言わざるを得ない。

 時折、王都から訪ねる貴族連中が蔑んだ目でノホールドを見ていたのをジュエスは思い出した。その時はそいつらの首を刎ねる場面を思い浮かべて我慢したものだが、王都の巨大さを目の当たりにすると、彼らの反応も致し方ないと納得してしまった。

 彼の家臣達も初めて見る王都に言葉も無いようだった。


 ――途轍もない大きさだ。ここを攻める側にならなくて良かったな――


 この巨大都市に攻め込もうとしている反乱者の軍勢をジュエスは多少哀れに思った。


 都市の規模が大きいと言う事は即ち大量の住民を抱えているということでもある。彼らの生み出す喧騒と煙、汚物の臭いは城壁を簡単に乗り越えて、外まで垂れ流されている。

 更に城壁の外にも無数の掘っ建て小屋や露天商が溢れている。壁を境にして市の内外を語ることは既に意味を成していない様にすら見受けられた。


 城壁の外には先んじて集結していた国王直下のハルト兵が野営地を築いて待機していた。兵士達が新たな友軍の姿を見て歓声を上げている。

 野営地に来ていた物売りや野次馬達も同様に集まってコーアとリンガルの兵を珍しそうに眺めている。


「王都の連中は何だか変わってますね」

 

 側近のポンポニア家のフェブリズが言った。彼はこの行軍の中で兵站や後方支援に於ける力量が抜群である事を示し、ジュエスは逸早く側近として取り立てていた。

 フェブリズは小柄で丸々とした顔の如何にも文官肌な男だった。性格も見た目通りの男で戦いは不得手であり、勇猛さより慎重さを重んじている。


「多分、彼らも私達の事を同じように思っているんじゃないかな」


 ジュエスは言った。リンガルの人間が王都を知らない様に、王都の人間もまたリンガルの様な辺境の事は知らないのだろう。


 ジュエスは幕僚達に軍の野営準備を整えるよう指示し、自身は少数の護衛と共に同じくコーア軍に指示したケイズと市内へ入った。


 市内は雑然とし、混沌としていた。道の両脇には数階建ての住居が建ち並んでいた。空間を活用しようと上の階に行く程に道へ張り出すようになっている構造の所為で、日の光が余り差し込まない薄暗い道になっている。


 通りは何もなければ馬が四頭は並んで歩けるだろう程の道幅があったが、今は出店や露天商、物乞いが溢れていてゴミやら何やらで足の踏み場も無かった。

 その上、山程の人間が物を買いに行ったり、井戸から汲んだ水を運んだり引っ切り無しに往来している為に馬上から見ると人の頭の海の様に見える。


「安いよ安いよ! さあ買っていきな!」

「この林檎は良い品だよ! 大市場何かじゃ手に入らないよ!」

「モア産の陶器、高級品だ! 今しか買えないよ! そこの貴族さんがた、どうだい!」

 

 露天商の呼び声は止まること無く、あらゆる種類の物を売りつけようとしている。


 大通りという本幹から小枝のよう何本も脇へ伸びている路地裏も見える範囲――それすらも殆どないが――は人や物でごった返し、無数の洗濯物が掛けられている。


 そんな喧騒の中、道端に蹲っている人が見受けられた。死にかけているようだ。げっそりと痩せ細り、体中に鞭打たれた痕がある。

 肩には家畜に使う焼き印が押されている。

 道行く人々は蔑みの視線を向け、邪魔だとばかりに蹴飛ばしていく。


 ――奴隷か――


 ディリオン王国には東方諸国とは違い、奴隷は有り触れた存在ではなかった。それでもユニオンを始めとする大都市や鉱山、大農場には生計が立てられ無かったり、刑罰の代わりに奴隷に身を落とす者が少なからず存在した。

 奴隷は多くが家畜同然の扱いをされるが、幸運にも良い購入者に当たれば少なくとも日々の食事に困ることはなかった。また演奏や歌、語学等の特殊技能を持つ奴隷は高く取引され大事に扱われた。


 ――主人が探しに来てもいない様子から察するに、この奴隷は何の役にも立たなかったらしいな。これでは死ぬのとどちらが幸運か分かったものではないな――


 ジュエス達は人混みをかき分けて通りを進んでいった。


 至る所で娼婦が客引きしている。

 黒髪、茶髪、金髪。黒い瞳、青い瞳、緑の瞳。豊満な体、痩身。若い女、年嵩の女、少女、老女。

 よりどりみどりといったところだった。


「貴族さんがた、あたいを買っておくれよ。天国に連れてってあげるからさぁ」


 派手な化粧を施した娼婦が、乳房を曝け出してこちらへやって来る。一人では無く何人もだ。


「あらぁ、若い殿様は随分格好いいじゃない! 貴方だったらタダでもいいわ!」

「まあ、ホント! ねえ一緒に楽しみましょうよぉ」


 娼婦達がジュエスを見て言った。ジュエスは無視した。女に興味が無いわけでは無い。寧ろ人並みに女好きだ。だが娼婦に手を出すのは彼が作り上げてきた"名君ジュエス"という虚構にそぐわないのだ。


 隣ではケイズ公が家臣達に金を渡して、楽しんでこい、と言っている。ジュエスの護衛は少し羨ましそうな顔をしていたが、娼婦を前にしても微動だにしないジュエスを見て厳粛な態度を取り戻した。


「女遊び一つ出来無いようでは、やっぱりまだまだ坊やだな」

「必要があれば女性とも関係を持ちますよ。それよりも、随分と活気がありますね。戦の最中とは思えません」


 にやつくケイズ公と並んで馬を進める。


「ジュエス殿。これで驚いているようでは、大市場に行ったら卒倒してしまうぞ」

「ここは市場通りか何かでは無いのですか?」

「違う違う。ここは唯の大通りだ。王都はどこでも商売しとるのだ。街の南にある大市場が本当の商売場だが、これの十倍は人も物も溢れとる」

「それはまた、流石王都と言うべきですか。私には今でも十分、人も物も多く感じます」


 故郷の城ノホールドでは人も物も、この通りの半分も無い。


「まあな。だがこれでも、大分静かになったもんだぞ。儂が若い頃の王都は毎日祭をやっていものだ。やれ、王様の誕生日だ、やれ王様の誕生日の次の日だ、やれ明日が王様の誕生日だ、と何かにかこつけてな。あの時は本当に楽しかったぞ」


 昔を思い出したケイズの顔が綻ぶ。余程いい思い出があるのだろう。


「しかし、今ではこれか。あまり言いたくはないが、これもブルメウス王のせいかのう」


 ケイズ公は先ほどまでと打って変わって沈み込んだ顔をしている。

 反乱が起きてからと言うもの、ケイズは反乱諸侯を非難しながらも、ブルメウスの失政を公的に認めざるを得なくなっている。

 それは忠誠心を大切にする単純素朴な老人には辛いことのようであった。



 そして、ジュエスらは通りを王都中央の宮殿に向けて進んでいった。

 ジュエスには先ほどから気になる事が一つあった。


 ――警備兵の巡回がない。これほどの人口を抱える大都市で、治安も維持出来ているようには見えないのに――


 ジュエスは今まで一度も街の治安を守る警備兵に遭遇していなかった。幾ら戦場に兵士が駆り出されているからと言って、余りに少なすぎる。


「どうした、ジュエス殿」


 辺りを見回すジュエスの様子をケイズは不審に思って訊ねた。


「いえ、大したことでは無いのです。巡回の警備兵が見当たらないと思っていただけですから」


 本当は大したことではないのだが、一々説明する要をジュエスは覚えなかった。


「ああ、それか。確かブルメウス王が何年か前に王都守備隊プラエシディウム・ウルバナエの引き締めを行ったのだ。確かに連中は酷かったからな。それで人数が減っているのだろう。何人か処刑もされている筈だ。ブルメウス王は手加減しなかったらしいし、ハウゼン公もいたからな」

「そうですか、引き締めをね……」


 ――それにしても少なすぎる。これでは警備を成していない。引き締めた意味が大して無くなっているのでは無いか――


 そうジュエスは思った。誰かしらに事情を聞きたい所ではあった。

 暫く道を進むと、漸く一人守備兵を見つけることが出来た。路地に入った所で娼婦にだらし無く絡んでいる。


 任務を疎かにする守備兵をジュエスの護衛兵達は軽蔑した目線で見ていた。


 ――随分楽しそうに巡回しているな。調査がてら少し水を指してやるか。部下も望んでいるようだしな――


 ジュエスはケイズに断りを入れて路地に入り、守備兵の方へ向かった。

 守備兵はまだ気付かずに娼婦に絡み続けている。


「おい、お前何をしている。巡回を何故していない」

「あ、何だあ? ……あっ、いや、その自分はですね」


 ジュエスに話しかけられた守備兵は初め、威圧するように声を荒げ振り向いた。しかし、視線の先にいたのが高位の貴族であると知ると態度は一変した。

 卑屈な態度を取る守備兵をよそに、娼婦は面倒事を避けようとさっさと路地の奥へ消えていった。


「いえ、あの、自分は、えー、そうあの娼婦が不埒な行いをしたと思ったものでして」

「不埒と言うのは巡回の最中に女を買おうとする行為を言うのでは無いのか」

「そ、そんな、それはその、まあ、そうかもしれませんが、その、皆してることでして、その」

「皆している? お前は苦し紛れに同僚を売るのか。人を買うのか売るのか、どちらかにしろ」

「い、いえそんな売るだなんて。言葉のあやといいますか、その、ご勘弁して頂けませんか、貴族様」


 守備兵はしどろもどろになり今にも逃げ出しそうだ。

 ジュエスはもう十分だと思い、解放してやることにした。


「もういい、行け。さっさと巡回に戻れ!」


 大声で言ってやると守備兵は飛び去るように路地の奥へ消えていった。


 ――皆している、か。部隊の粛清を行った割には碌に効果を上げておられないようですな、陛下――


 ジュエスは守備兵の無様な後ろ姿を見て思った。通りへ戻ると一部始終を見ていたケイズも苦々しい顔をしていた。


 一行は王都の実態を目の当たりにしながら宮殿へと進んでいった。


  ◇  ◇


 王都の中央に位置する宮殿へ到着したジュエスとケイズは早速、王の元へ案内された。両者の到着に合わせて、ブルメウスは既に会議を開いているらしい。


 案内役の従者に通された先は"小議の間"と呼ばれた部屋だった。扉も小ぶりで文字通り少人数での会議を目的とした部屋だろうと察せられた。

 中へ入ると、中央の会議机の周囲に既に何人か座っている。


「よく来た、ケイズ、ジュエス。席につきたまえ」


 正面の最上座に座る大柄な男が言った。漆黒の髪、傲慢な顔つき、馬鹿でかい声。ジュエスには彼が誰だか直ぐに分かった。


 ――此奴がブルメウス王だな。会うのは初めてだが、言われなくても分かる。それも一種の人柄(カリスマ)と言うやつかな?――


 などと思いながらジュエスはブルメウス王に向けて会釈した。


「お久しぶりで御座います、陛下。このケイズ、王命と有らば例え火の中水の中で御座いますぞ!」


 ケイズは大袈裟な身振りを加えて王に挨拶した。ブルメウスは満足気に頷くと、他の出席者を紹介した。


「此奴は我が息子のブリアンだ。余の次の(ドミヌス)となる」

「私がブリアンだ。諸君らは王命に従い馳せ参じるという、家臣として最低限の忠誠を果たすことは出来るようだな」


 ブリアンもまた大柄で父親をそのまま若くしたようだった。漆黒の髪、傲慢な顔、大きな声を持っている所まで似ている。


「ううむ。流石は我が息子だ。王と家臣というものをよく分かっておる」


 ブルメウスは実に嬉しそうな表情で言った。

 思わずジュエスは吹き出しそうになってしまった。


 ――この王様は馬鹿な上に親馬鹿なのか。それとも彼らなりの冗談なのだろうか――


 幸い表情に出ずに済み、紹介は次へ進んだ。


「彼はロンドリク。王家譜代アッシュ家の当主だ。そして、こちらがその弟のロムだ」

 

「アッシュ家のロンドリクと申す。ケイズ公は会ったことがあるな。ジュエス殿、宜しく頼むぞ」

 

 そう言ったのは王の横に座る、まるで小山の様に太った男だった。全身に肉をへばり付けていてまるで豚だ。一言喋るごとに肉が波打ち、体が揺れる。

 頭も禿げ上がっていて歳は行っていそうだったが、肉が多すぎて推測は出来なかった。


「同じくロムだ。以後宜しく」


 こちらは顰め面で融通の効かなそうな痩せた男だった。歳は三十代半ば位だろうか。兄と紹介されたロンドリクとは目元くらいしか似ていない。


 そしてロンドリクもロムも指揮官としても戦士としても見込みは無さそうだった。ロムはまだしも、ロンドリクの方は歩くことさえ疑わしい肉の量だ。


 ――これで全部? これが僕の味方なのか。何て事だ。こいつらに比べれば、ケイズ公が優秀に見えるぞ。戦いは厳しい物になりそうだ――


 ジュエスの気分は落ち込んでしまっていた。これから戦うことになる諸侯同盟(アリストクラティオン)軍にはあのヒュノー将軍やサフィウムのラテランを始め、有能な指揮官が幾人もいる。 せめてハウゼン公が味方に付いていてくれれば、状況はもっと安穏していられるものだっただろうが、与えられた現実はこれだ。


「揃ったことであるし、始めるとしよう。既に聞いての通り、不遜な反乱者共が挙兵した。ライトリムのベンテス、レグニットのガムラン、それにヒュノ―の裏切り者も加わっている。奴らは同盟を組み、サフィウムに集結している。その数は情報に拠れば7万を数えるという」


 ブルメウスは地図上のライトリム地方を指し示しながら言った。

 ベンテスやガムランに"(プリンケプス)"という呼び名を付けなかったのは、既にブルメウスの中で彼らに対する処遇ご決まっているからだろう。


「スレインの奴らも挙兵したが、連中はモアに向かった。モアにはスレイン兵の攻撃に備えるよう指示は出してある。ハウゼンにも軍を率いて参じるよう命令しているのだが……彼奴め、全く何をもたついているのだ」


 今度は王都より北のクラウリムとスレインを指した。ハウゼンを罷免した張本人が出兵を要求する事が如何に厚かましい事なのか、理解していないのはブルメウス王一人だけであるようだった。


「そして、対する我が方だがこの場に集まった者が主力となる。王家からはハルト兵を2万人出し、これはロムに率いさせる。ヒュノーの裏切者のせいで大部兵力が減ってしまったが、まだこれだけは出せるな。それに到着したコーア兵とリンガル兵を合わせて6万3千だ。この兵力を以って討伐軍とする。軍の総指揮はケイズ、お前に任せる」

「これは光栄の極みに御座います、陛下。ご期待に沿え、必ずや反乱者共を蹴散らしてご覧に入れましょう!」


 大役を仰せつかったケイズは全身から喜びと覇気を漲らせて言った。戦を前にして興奮と戦意に満ち満ちて―――


「お待ちください」


 唐突に一人が言葉を発し、場が静まり返る。声の主はジュエスだった。


「……何か?」


 ブルメウスが露骨に不機嫌な声で返す。ケイズも叙任を中断されて眉を顰めている。他の出席者も同様だった。


「ケイズ公の力量に疑問を差し挟むつもりは毛頭御座いませんが、他に総指揮を担うに相応しい人物がおりましょう。此度の戦は王国の存亡を賭けた戦いなのですから」

「ほう? それは誰だ、お前か?」

「いいえ、陛下。未だ私は非才の身、この様な大役には相応しくは御座いません」


 ――まあ、この面子ならいっその事、僕がやった方がマシかもしれないな。だが僕が言わんとしたのはそういう事では無い――


「相応しいのは陛下ご自身の事で御座います。陛下御自らが国家の大事に立ち向かい、共に戦場にあるのだと知れば兵達の士気は高まります。反乱者も陛下の御威光に触れれば、自分達の間違いに気付くことでしょう」


 戦に於いて、大義と言うものは存外重要だ。軍や兵の士気を高める要因にもなるが、降伏を決める最後の一手になることが多々ある。ましてや玉座を巡る戦いともなれば、王が臨御するか否かは大きい。

 ジュエスはその事を指摘したのだった。だがブルメウスはジュエスの進言をそうは捉えなかった。


「それは、余が、大事を見誤った臆病者だ、と言いたいのか」


 ブルメウスは傲慢な顔を歪め、睨みつけた。隣に座るブリアンも父王にそっくりな表情でジュエスを睨んでいる。


「そうは申してはおりません。ですが、陛下がこの大戦を臣下に任せると仰るのであれば理由をご教授頂けますまいか。私の如き若輩者には陛下のご深慮を測りかねます由」


 ――これでもかなり丁寧に言っているつもりなのだが、ブルメウス陛下に届くかな――


 ジュエスも王に楯突くのは危険だと分かっていた。少なくとも今この場で抗弁するべきではないと理解していた。

 だが、僕はお前の為に命懸けの戦をするんだぞ、と思うとどうしても口を閉ざすことが出来なかった。

 それに王自らが親征すれば、現状の不利を覆せる見込みは大きい。それを態々身を切ってまで教えているのだ。


 ――当主の座に付けてもらった恩を、僕は返そうとしてやっているんだぞ。その事をお前は分かっているのか?――


 一層強く睨むブルメウスにジュエスはそう言ってやりたかった。

 

「ジュエス殿!」


 ロンドリクが抗議するように言った。流石のケイズも眉を顰めている。


「……不遜で無礼な物言いだな、ジュエス。だが貴様はまだ若く、世の中を知らぬ。特別に教えてやろう」


 ブルメウスは青筋を浮かべながらも彼なりに精一杯の忍耐力を見せた。ジュエスの"厚意"に気付いたのか、数少ない支持者に対して譲歩してみせたのかは分からない。


「余が出陣しないのは、今王都を離れる訳にはいかんからだ。幾ら王都と言えど反乱者に同調する者が出ないとも限らん。余が出払っている間の王都で反乱が起きたらどうする? だが、余がいる限りはその心配は無い」

「何故ですか?」

「余は王都守備隊を掌握している。近衛兵(プラエトリア)と共に王都で唯一の武力だ。これを掴んでいる限りは何の問題も無い。分かったか?」


 ジュエスは溜息を吐かないようにするのが精一杯だった。

 ブルメウス王は路地で見たごろつき紛いの連中を当てにしている。その挙句の判断さえも誤っている。

 王は思った以上に無能を晒け出している。ただ無能なだけなら良いが、無能さを全面に押し出して他者に強要している。反乱諸侯が同盟を組むことに躊躇しなかった理由がよく分かる。

 今まではハウゼン公がいたから最低限の線を割ることも無かったのだ。だが今となっては……


 どっと疲れがジュエスを襲ったが、諦めずに最後の抵抗を試みた。


「陛下。王都での反乱は確かに危惧すべき事ですが、肝心の戦で負けたらなにもかも終わりです。対処を講じる間も無く、事態は手の届かない段階まで進むでしょう」


 兎に角、ブルメウスに自分の背後を気にかけている段階では無いと理解させたかった。状況の刃は既に首筋に突きつけられているのだ。


「負けたらとはどういうことだ。貴様には勝つ気がないのか!」


 だがブルメウスには理解されなかった。(ドミヌス)はジュエスの言が大いに気に入らない様子であった。


「勝利への信念は御座います。私はただ最善を尽くすべきだと申し上げておるのです、陛下」

「王の言う事、考える事こそが最善だ! そんな事も分かっておらんのか!」


 ブルメウスが怒声を上げる。横のブリアン王子も同じことを言いたそうな顔をしている。

 ジュエスの心中は疲労感で一杯だった。


「……私が間違っておりました。陛下の仰る事が全てで御座います。臣の如き若輩者が要らぬ発言を行ってしまった由、陳謝のしようも御座いません。どうかお許し下さいますよう、平にご寛恕の程を……」


 ジュエスは只々平謝りした。もうどうにでもなれという心境だった。


「フンッ、そうだそれでいい。それが正しい家臣の姿だ」


 ブルメウスは鼻息も荒く、音を立てて座り直した。


「全く反乱者の奴らもお前程度にはまともであれば良いのに。どいつもこいつも分を弁えぬ行いばかりする。そうであろう? そもそも家臣とは――――」


 その後もブルメウスは反乱者に対する呪詛と恨みつらみを延々と述べ続けた。他に言葉を発したのは逐一賛同するブリアンやロンドリクだけだった。


 ジュエスは徒労感と失望感で疲れ果てていた。ただ事態がどうしようも無い程に不利な事だけは頭に残り続けていた。


 ――もう、この国もお終いかな……勝っても負けても――


 そして多少の汚名を被ってでも諸侯同盟に加わるべきだったかもしれないと今になって後悔した。



◆ ◆ ◆






 諸侯の反乱によりブルメウスは窮地に立たされていた。

 しかし、それでも尚、国王支持を表明していた勢力も存在する。

 彼らの多くは国王を支持しなければならない理由があった。


 ◇ ◇


 プロキオン家はリンガル地方最大の有力貴族であり、王家の傍系を始祖としている。

 そのプロキオン家の当主がまだ十七歳の若き青年ジュエスである。彼には王の求めに応じて戦う義務以上に義理があった。

 前当主である父が死去した際ジュエスはまだ十四歳であり、若年の当主を放逐してより年配の後継者を当主に据えようという動きがプロキオン家内にはあった。

 ジュエスは廃嫡と家中分裂の危機に直面していた。


 だがブルメウス王が支持者を増やそうと相続に介入し、ジュエスの後見を宣言した。

 王命には逆らう事も出来ず、廃嫡の動きは鳴りを潜め、ジュエスは武力衝突無しに家督を相続することが出来た。

 ジュエスにはブルメウスに返さねばならない借りが出来たのだった。


 ジュエスは当主になってからは領内の発展と平民も含めた臣下の生産力向上に専念し、公正な統治を行っていた。

 賊徒退治ではその若さにも関わらず陣頭に立って戦い、生活に困窮した臣下には貴賎に関係無く自らの資産を割いてまで支援した。

 反抗した家臣には毅然とした態度で対し、一旦屈服させた後に許すなど度量の広さを示していた。


 それらの甲斐あってか臣下からは非常に高い忠誠心を得ていた。特に歳の近い若年層からの支持は絶大で、信仰心に近い程だった。その求心力は今やプロキオン家内に留まらず、リンガルの他の諸貴族さえもジュエスの元へ馳せ参じるようになっていた。

 今回の王を支持しての出陣も、義理と誠実さを重んじる主君としての評判を一層高める事となった。


 ◇ ◇


 モアとアイセンは王への忠誠心よりもスレイン公に対抗する必要性から国王側についていた。

 フレデールの復讐心はそれ単体ではただの逆恨みに過ぎないが、スレイン公の軍事力と合わされば笑い事では済まなくなる。

 慈悲を乞うたところでフレデールの猛りが収まるわけでも無く、モア・アイセンには王を利用する他に選択肢が無かった。


 ◇ ◇


 唯一国王を支持し続けた大貴族であるコーア公だが、彼には国王を支持する明確な理由そのものは無かった。


 コーア公であるマールーン家の当主ケイズは戦場での武勇こそが至高だと信じている典型的な武人で、若かりし頃は勇者として知られていたものの、今や六十歳を越えた老人であった。


 彼は諸侯の中では珍しい熱心な国王支持者であった。政治的な思惑や駆け引きとしての国王支持ではなく、純粋で単純な忠誠心からだった。


 野心的で謀を好む息子のケイトセンとは折り合いが悪く、今回の討伐軍にも息子は連れて来ていなかった。


 ◇ ◇


 ブルメウスはヒュノーの造反によって減少した国王直下の兵を譜代の王家直臣(オプティマス)アッシュ家のロムに任せ、国王支持の諸侯に供出させた兵と合流させた。

 そしてコーア公ケイズを司令官に任命し、討伐軍として派遣することを決めた。この討伐軍をブルメウスは諸侯同盟(アリストクラティオン)に対抗して国王軍(ドミニオン)と名付けた。


 王自ら軍を率いるべきだという意見も廷臣の中から出たが、王不在の王都での反乱を危惧したブルメウスはこの意見を退け、ユニオンに待機することを決めた。

 ブルメウスは宮廷の近衛兵と王都守備隊を掌握していると考えていた為、王都で見張ってさえいれば反乱を防ぐことが出来ると考えていた。



 そして、世界に生きるのは戦う者ばかりではない。戦士を見送るしか無い姫が王都の一角で涙に暮れる―――





◆ ◆ ◆ 


【新暦658年4月 王都ユニオン 王女ミーリア】


挿絵(By みてみん)


 ミーリアは宮殿の一角にある庭園で午後の日差しを浴びながら日課の散歩をしていた。

 ブルメウス王の長女であるミーリアは透き通るように白い肌と豊かな黒髪を持つ。王妃に似て穏やかな性格と柔らかな物腰は宮廷内でも淑女の手本とされている。


 ミーリアにとって春先でも暖かいハルトの空気に身を包まれながら、良く手入れされた木々や香り高い花々を楽しむのは、先月までは一番の喜びだった。


 木々のざわめきを楽しみながら歩いていると偶然にも目線の先に"今の一番"を見つけた。ミーリアは木陰に佇む若い貴族に呼びかけた。


 ――ああ、"愛と美の女神(アモル=デコレム)"よ、"太陽神(ソル)"よ! 彼と巡り合わせてくださって感謝致します!!――


「ジュエス様!」


 思わず大声になり、はしたないとは思ったが心の昂ぶりは抑えられなかった。


「ミーリア姫、また会えましたね」


 整った顔立ちに優しい笑みを浮かべてジュエスがこちらを振り向いた。

 今日の彼は普段の清潔な長外衣ではなく、丁寧に磨き上げられた鎖鎧を着込んでいる。

 

 彼は整った顔立ちをしているが精悍さより未だに幼さの方が目立ち、明るい茶の髪がその印象を増幅させていた。

 そして暗緑色の瞳に浮かぶ、若さに似合わない皮肉っぽい目つきが一番の特徴だった。


 先月軍を率いて王都にやって来たこの若貴族に出会って以来、ミーリアは彼の虜になっていた。

 

 美しい顔、甘い声、力強い体、茶色の髪、そして心の内を見通すような緑の瞳。

 彼の全てに惹かれ、恋焦がれていた。

 自分より2つ年下の、まだ青年になったばかりの若さであることも、ミーリアには気にならなかった。

 そしてジュエスが勇敢で慈悲深い領主という理想的な男性である事を知り、より一層彼への恋慕の情は募っていった。

 

 庭園の散歩も今までも日課だったのだが、ジュエスもまた庭園によく赴くと知り、今では彼に会う事の方が目的になっていた。


 今日のように会えた日は神々に感謝し、会えなければ翌日は会えるようにと神に祈る。今のミーリアは大変に信心深くなっていた。


「ええ、きっと貴方はここにいらっしゃる、きっと会えると思ったの」

「その様なことを仰って頂けるとは光栄です」


 ジュエスが気恥ずかしそうな笑顔を覗かせた。この笑顔を見るだけで心は幸せでいっぱいになる。


「今日のミーリア様はいつも以上にお美しい。貴方の御髪も輝く黒真珠で出来ているかのようです」

「そんな……お世辞は仰らないで下さいな」

「お世辞などでは御座いません。心からミーリア様のお美しさに感動しているのです」

「まあ、嬉しい事を仰ってくださるのね」


 ミーリアは自分の黒髪は嫌いだった。炭の真っ黒な髪より、北方人の様な黄金の髪が欲しかった。だがジュエスはミーリアの漆黒の髪を褒めてくれる。最近になって初めて自身の髪を疎ましく思わなくなった。


 彼は視線を側に立つ金蓮花(ロトゥス・アウレア)の木に向けた。ロラン王家の象徴でもある木はまだ黄金色の蕾を付けたままだ。


「金蓮花を私は見たことがまだありません。その美しさは黄金の如きと言われていますが、本当ですか?」

「ええ。我がロラン家の花ですもの。後一月も経てばこの庭園一杯に黄金の花々が咲き乱れます。ジュエス様の御期待以上の光景ですわ」

「それは実に楽しみですね。ですが……」


 彼とは他愛無い会話やちょっとした世間話しか出来ていない。

 だがそれでも胸の高鳴りは止む事は無く、顔が赤く火照ってしまう。

 例えようも無く昂揚して、彼以外の全てが視界から消えていく。


 ――彼も同じ想いでいてくれるかしら……――


 ジュエスは居住まいを正してミーリアに振り向いた。


「実は、ミーリア姫……私も貴方を探していたのです」


 突然のジュエスの言葉に幸せのあまりに時が止まったように感じた。


 ――私を探してくれていた、私に会いに来てくれた!――


 嬉しさが体中を走り回った。彼の言葉が頭の中にいつまでも響き渡っていた。


 しかし、その幸福は直後に冷や水を浴びせられる事となった。


「お別れを申し上げに参ったのです」


 ミーリアの体が一気寒くなる。全身が固くなり、震えた。


 ――え、え? 今、お別れと――


「い、今、なんと、おっしゃって?」


 手が震え、声が上手く出せない。


 ――お別れ? どういうことなの?――


 疑問はジュエスが解消してくれた。解消されたところで何も良いことはないけれど。


「姫もご存知の事とは思いますが、私は反乱軍と戦うために来ました。出陣の日取りが決まったのです。軍機ですので何時とは申せませんが、近い内の事です」

「そ、それは……」


 だから彼は鎧を着ていたのだとミーリアは得心した。


「今から直ぐに王都を出て市外の軍と合流します。此れが姫に会う最後の機会でしたので、伺いました」

「は、はい」


 ――最後? もう逢えない? 彼は戦場に行くの?――


 その後の事は良く覚えていなかった。ただ頭の中にジュエスの声で"最後"、"お別れ"と言われた言葉だけがぐるぐると駆け巡っていた。

 御武運をお祈りします、とか、また会えますよね? とか言っていた様な気はする。


 ただ、ジュエスが最後まで笑顔を向けていてくれた事と、彼に慕っていると伝えられなかったことだけは覚えていた。

 今の機会に慕っていると伝えるのも、最後の機会かも知れないということを認めるようで結局言うことが出来なかった。


 ジュエスが去った後もミーリアは日が暮れるまで庭園に佇んでいた。


 出陣。戦。

 単なる別れではない。二度と会えなくなるかも知れないのだ。

 ジュエスの死を想像するだけで、目から涙が溢れ出して来る。

 あの愛しい人が血に塗れ、息を引取ってしまうのだろうか……


 そして、誰に言うでも無く呟いていた。


「お願い……ジュエス様、必ず戻ってきて、生きて帰ってきて下さい……」


 明日、いや今晩からジュエスが"太陽神(ソル)"に御加護を授けてもらえるよう神殿に毎日詣でて祈りを奉げよう、とミーリアは心に固く決めた。



◆ ◆ ◆




 集結した王軍はユニオンから出陣し、諸侯同盟軍を討伐せんと一路南下を開始した。



挿絵イラストは 弥生がるた(https://www.lancers.jp/profile/garutagaru) さんに、

キャライラストは iri000(https://www.lancers.jp/profile/iri000)さんに描いて頂きました



ユニオン市は大体調布市ぐらいの面積・人口です。

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