『激突 ~シーリン河畔の会戦~』
新暦663年5月、ディリオン軍・メガリス軍双方に於いて積極的攻勢の気運が高まっていた。
これまで敗戦を強いられ続けてきたディリオン軍にとってセファロス不在の今は正しく絶好の機会だった。
一方のメガリス軍にとってもセファロスが居なくなり、新たに"まともな"メガリス人達が戦場に送り込まれたことでその戦略はメガリス人全体の勝利と繁栄を希求したものへと変わっていくととなった。
◇ ◇
王都ユニオンに駐留する総勢4万人の主力軍はメール公ランバルトの麾下にある。そしてメール兵、リンガル兵、"中央軍"、その他の召集軍からなっていた。
メール兵、リンガル兵は今なおディリオン軍中最強の戦力であるが、長い戦いの中で減じる一方で、どちらも1万人程度でその数は決して十分とは言えなかった。
王家の名の下に集められ訓練を続けていた"中央軍"4千の兵は十分に戦力と言えるだけの練度を獲得していた。彼らはノゴール家のアールバルとハルマナスの子であるトッド家のハルマートという二人のメール貴族に指揮されており、どの様な名目で集められたとしても結局はランバルトの手中にあるのだという事は明白だった。
召集軍はハルト地方、ライトリム地方を中心に集められ、総数だけは1万5千人に達し、無視しえない規模の兵力だった。ランバルトはこの軍勢を五つの部隊に分割し、それぞれの指揮をマーサイド家のアイアス、ソーン家のカラミア、ウッド家のパーレル、ホラント家のトラード、平民出身のセバンティに任せた。彼らは従来のディリオン式の戦法や編成で戦った。
当然ながらメガリス軍との主戦線を担うのはランバルト自らが率いる主力軍であることは言うまでも無かった。彼ら、特にメールの指揮官達はサフィウムやフィステルスという連敗の借りを返したいと息巻いていた。
◇ ◇
メガリス軍はフィステルスから出撃したライトリム方面軍とヒューゴーから出撃するバレッタ方面軍の二軍に分かれてディリオン王国領への進軍を開始した。ディリオン王国の中枢部たる王都ユニオンへの攻撃という観点では、その侵攻路の距離の差から考えて、挟撃ではなく飽く迄も別方面への攻撃と捉えるのが正確と言えた。そもそも軍を分割したのが政治的闘争の結果であることを考えれば、軍事面での凶兆が取れていないのもある意味で当然と言えた。
長らく留まっていた拠点フィステルスを出撃したライトリム方面のメガリス軍は北上を始めた。
マクーン首長オルファンを司令官に、テルケン首長ブランケン、プラトゥス首長ムートン、ルドン首長ヘネス、従属したライトリム貴族であるイットリア家のファーランやジェナングス家のユージーンらが軍勢を指揮していた。旧セファロス軍に増派されてきた氏族兵や傭兵を含めた総勢5万人の大軍である。
このメガリス軍は強大な防御力を持つ王都ユニオンへの直接攻撃を避け、外堀から埋めていくことを狙っていた。つまり、外港ストラストを攻撃し、王都自体の補給路を絶とうと考えていた。
本来であれば港湾都市を攻撃するには陸海の協同攻撃が必要になる。だがこの時のメガリス海軍は前述の通り、ディリオン艦隊の迎撃のみを目標としており、陸海軍の強調は上手く行っていなかった。
艦隊を構成するのはペラール人とトラヴォ人で、彼らは無意識にも領地の拡大よりも交易路の確保を優先していた。敵の港をわざわざ攻略に行くという行為に然程魅力を感じていなかったのだった。一方で陸軍も陸軍で勝利と戦利品への期待に勝手に動き、艦隊の支援を待とうとはしなかった。
◇ ◇
幾らかの守備兵を残してフィステルスから出撃したメガリス軍は軍港ストラストを目指し北上した。大軍を維持する為にメガリス軍は容赦無く略奪し、物資を補充していった。この様な略奪集団でも無軌道に成り切らず一定の統制と秩序が与えられていたのは、オルファンの手腕と明らかに周囲と違う雰囲気を漂わせる幽鬼の様な旧セファロス兵達の存在が大きかった。
侵攻に晒されたディリオン系領主達はかつてのランバルトからの厳命にしたがって激しく抵抗した。メール地方での反乱鎮圧の端末は彼らも知っており、ランバルトへの恐怖から戦いに赴かざるを得なかった。彼らにとってはメガリス軍と戦うかランバルトに逆らうかという究極の選択を迫られていなことになり、多くは前者の選択肢を選んだのだった。
進軍するメガリス軍に対しディリオン軍、特にランバルトは正面決戦を挑むことを望んでいた。兵糧攻めにして追い返すことや逆に此方からも敵軍の後方拠点を突く事も選択出来たが、会戦という賭けを選ぼうとしていた。
ランバルトには勝利が必要だった。勢力基盤が揺らいでいる彼には何よりも必要だった。そして、これからの"野望"のためにはただ勝てばいいというものでもなかった。飢えに追い込み、撃退することは不可能ではないが、それでは人々の心に刻み込まれる勝利にはならない。まして、今のランバルト体制はメガリス軍との戦いに連敗している以上、それを吹き払うだけの勝利が必要だった。
より高みに達するためには相手の心を握り潰し屈服させる巨大な威が必要だった。"やはり彼には勝てない"と思わせるほどに勝利が必要で、それには真っ向からの正面衝突で叩き潰さねばならない。華麗な戦略上の勝利や策による優位というのは誰の目にも光り輝くものではない。現に正面決戦で勝利し続けているセファロスには誰も畏怖を抱き衝突を避けることを第一に考えている。
とは言え、単に闘いを挑むというのも芸がなく、出来る限り優勢になるようにしながらも敵方が決戦を挑もうとする程度に餌をちらつかせてやらなければならなかった。進軍路にいたハルトの領主たちはその為の餌にも使われていた。
ディリオンの指揮官や兵達自身もメガリス軍との決戦を望んでいた。ランバルトの政治的な理由とは違い、"負けっぱなしではいられない、いい加減勝利して敵を叩きたい"という至極単純な理由であったが、だからこそ士気は高められていた。それが例え敗北すれば国の滅亡を意味する重大な戦いであってもである。
略奪と征服を続けて進軍するメガリス軍はユニア河の支流シーリン川に辿り着いた。そして川辺りには満を持してランバルト率いるディリオン軍が待ち構えていた。ここで勝利すればディリオン軍の主力を壊滅させられる以上、メガリス軍も決戦を忌避する理由は存在しなかった。
右手にシーリン川と隣接して展開したディリオン軍は右翼にメール兵、中央にハルト・ライトリム兵、左翼にリンガル兵を配置した。
メール兵は最右翼からトレアード率いる軽騎兵1000騎、隊長アレサンドロ率いる親衛隊2700人、テオバリド・レイツ指揮下に重装歩兵20個方陣6000人が配置された。そしてロシャらコルウス族300人が後方に配置され、迂回攻撃の機を図った。総司令官ランバルトは親衛隊に護られて全軍の指揮を執った。
ハルト・ライトリム兵が展開した中央部は右翼からアールバルが率いる"中央軍"兵6個方陣2000人、召集軍のアイアス隊・カラミア隊・パーレル隊・トラード隊・セバンティ隊各3000人、ハルマート率いる"中央軍"兵士6個方陣2000人が順に並んだ。中央部は両翼に比べて弱体であり、不足を補うために戦列を厚くし敵軍の突破・浸透を防ごうと図った
左様のリンガル軍はセルギリウス、コンスタンス、フェブリズ、セイオンが各リンガル兵2500人ずつを率いて戦列を築き、更にジュエスは選抜したリンガル騎兵1000騎と共に戦列の後ろにあり、全体の指揮を執った。
対するマクーン首長オルファンを司令官とするメガリス軍は左翼方向にシーリン川を控えて部隊を展開した。最左翼から旧セファロス軍の歴戦兵4000人、アンニー氏族を中心とする氏族兵6000人、ルドン首長ヘネス率いる氏族兵7000人、プラトゥス首長ムートン率いる氏族兵8000人、オルファン直衛のマクーン氏族兵を中心とした兵8000人、イットリア家のファーラン率いる混成部隊5000人、ジェナングス家のユージーン率いる諸地域の傭兵隊4000人、テルケン首長ブランケン率いる氏族兵8000人が並んだ。王の精兵500人は後方に控えて敵軍の予想外の急襲に備えた。
セファロスに鍛えられた歴戦の兵士を左翼方面に集中して配置したのはディリオン軍最強の戦力であるメール兵に対抗する為であり、オルファンが敵軍を決して過小評価してはいないことを示唆していた。王の兵を予備兵として非常事態、主にコルウス族の強襲に備えさせたのもその一つで有った。
戦いの角笛は双方同時に吹き鳴らされた。士気の高さと勝利への熱狂を示すかのように両軍共に自陣からの攻撃を開始した。ディリオン軍は重装歩兵の密集歩兵陣と騎兵隊が、メガリス軍は軽装剣士の抜刀切込みが敵陣へと襲いかかっていった。
両軍の衝突は凄まじく、戦場の各所で激しい戦いが展開された。メール兵・リンガル兵はもとよりディリオン軍の"中央軍"兵士も期待以上に良く戦い、メガリス氏族兵も勇敢さを遺憾なく発揮して切り込んできた。特にシーリン川の畔で行われた親衛隊と旧セファロス軍の歴戦兵との戦いは互いに一歩も退かない熾烈な戦闘となった。長槍を装備した密集陣形という同様の戦法で戦う両者は過酷な訓練と主への畏怖という点でも共通しており、血みどろの削り合いとなった。
一進一退を繰り返した流血の均衡状態に変化が訪れたのはこれまで後方に控えていたロシャらコルウス族がその健脚を活かして戦場を迂回、シーリン川を平然と渡河してメガリス軍の背後へと姿を表してからだった。オルファンにとってコルウス族の出現は予想の範囲内であった。その為に予備兵を待機させていたのだ。王の精兵を直ちにコルウス族への対処に向かわせた。王の精兵ならば十分にコルウス族を抑えこむ事が可能な筈だった。
その時、メガリス軍の最精鋭部隊が動いた事を知ったジュエスはリンガル軍に全面攻勢を命じた。敵軍の予備戦力が拘束された隙を突いた動きではあったが、その防御を捨てた攻勢はやもすれば自陣を窮地に陥らせるかも知れない危険な行為だった。だが精強なリンガル兵の突撃は優秀な指揮官達により威力を倍増させ、対峙するメガリス軍を押し込んでいった。特に方方から集めた傭兵で構成されたユージーン隊はその集団としての弱さを次第に露わにし、崩れ始めていた。
その間隙をジュエスは見逃さなかった。自らリンガル騎兵を率いてユージーン隊目掛けて突撃を掛けた。ジュエスが先頭に立っての攻撃は続くリンガル兵の士気を尋常ではなく引き上げ、怒濤の突撃を引き起こした。ユージーン隊は脆くも崩れ去り、メガリス軍の戦列はあっという間に突破されてしまった。
これらのリンガル軍の戦い方は損害を省みない猛烈なもので、ジュエス自身も死を恐れずに戦場に飛び込んでいった。これまでのジュエスには見られなかった戦い方だった。
オルファンは空いた戦列を埋めようと他の部隊から援軍を送り込もうと図ったがその作戦が実行させることはなかった。コルウス族が王の精兵を殲滅して背後から攻め込んで来たからだった。
コルウス族達はセファロスとの戦いで数を大きく減らしていたが、精強で武運に満ちた狂戦士だけが生き残ったことでその力は純度を増し、減衰するどころかより破壊的にすらなっていた。今まで互角に戦っていた王の精兵すら血祭りに上げるだけの異常な攻撃力を持つ集団と化していた。
前後からの猛攻にメガリス軍は窮地に陥った。オルファンは必死に戦列を維持し反撃しようとしたが、それもならず、メガリス軍は後退を始めた。先ず退いたのは最左翼の歴戦の兵士達だった。彼らは精鋭だったがいざ戦況が不利となった時、恐れる者がいないならば戦いを続ける意味が無いとばかりに戦場からの離脱を選んだ。恐ろしい主の存在が逆に働いてしまったのだ。
それに応じてランバルトも総攻撃を命じ、全面攻勢の前にメガリス軍は総崩れとなった。オルファンはこの窮地の中でも驚異的な粘り強さと冷静さを見せ、敗走するメガリス軍の少なからぬ部分をまとめあげ、無様な敗走から秩序だった撤退へと変えることに成功していた。とは言え、メガリス軍の半数近くは無残に潰走し、ディリオン軍の追撃を受けて討ち取られていった。
メガリス軍は5万人の兵の内、戦死・捕虜含めて1万人以上を失い、敵地である事も災いして逃亡兵も同じ程度発生した。中でもコルウス族と戦った王の精兵はその殆どが死に、ジュエスらリンガル軍に突き崩されたユージーン麾下の傭兵隊は大半が逃げるか降伏してしまった。
ディリオン軍の損害はメール兵300人、ハルト・ライトリム兵800人、リンガル兵500人と少なくは無かったが念願の勝利の代償としては軽微なものと言えた。
ある意味で順当と言うべきか、再びの決戦はディリオン軍の圧勝に終わった。そして、この勝利はランバルトの覇業を導く重要な切っ掛けとなるのだった。
新暦663年5月、シーリン河畔で大敗したメガリス軍は後退を余儀なくされ、後方のサフィウムへと退いていった。
ランバルトはこの機を逃すことはなく王国領の本格的な奪還に動き、軍を分割してライトリム方面への追撃とバレッタ地方の平定に乗り出した。
ライトリム方面へは総司令官ランバルト自らが向かい、一方のバレッタ方面へはリンガル公ジュエスが進軍することとなった。
ランバルト麾下部隊はメール兵を主力とする2万8千人の兵からなった。ジュエスらバレッタ方面軍はリンガル兵を主力として総勢1万8千人を数えた。
そしてこれらの軍勢を王都ユニオンから長老ハルマナスとフレオンが兵站支援し、その作戦行動を支え続けた。彼らの精緻な補給計画と臨機応変な運営が征服戦争には不可欠だった。
◇ ◇
敗者のオルファン率いるメガリス軍はライトリム公都サフィウムへと辿り着いた。
オルファンは迫るディリオン軍に対向するべく体勢の建て直しを図った。方々に使者を送り出し、兵と物資をかき集めさせた。
当面、彼の手元にある兵力はシーリン河畔の生き残りとサフィウムの守備兵併せて2万8千人であった。増援が到着するまでは限られた兵力で敵地で守り続けねばならなかった。
一方、メガリス軍を追って進軍したディリオン軍は順調で、経路上の領主達や町々は掌を返してディリオン軍を受け入れ、進んで物資や宿舎を提供した。彼らは可能な限り心証を良くして罰が下されるのを回避しようとしていたのだった。
ディリオン軍は提供された物資・拠点を受けとると殆ど素通りに近い形で進軍した。セファロスがいない間に決着を着けようと考えたランバルトが戦略的な機動を優先したことが大きな理由で、今は粛清や掌握に費やしている余力は無いと判断していた。
6月、サフィウムに到達したディリオン軍は時を移さすに包囲を開始した。サフィウムは最大人口20万人を誇る大都市で、その城壁は王都ユニオンには及ばないものの堅固で外周10キロメートルに達する。
ディリオン軍は昼夜問わずの作業により僅かに一週間で包囲陣地を構築し、城攻めの準備を整えたランバルトは即座に攻撃を開始した。
だが、ランバルトの焦慮と拙速か、メガリス軍の奮戦か、壁が堅固なのか、ディリオン軍の熾烈な攻撃にも関わらずサフィウムは陥落しなかった。
7月末、攻めあぐねるディリオン軍の背後に新たな敵が迫ろうとしていた。メガリス軍の増援部隊がサフィウム解囲に向かってきたのだ。
兵を掻き集めたメガリス軍は軍勢を一ヶ所に集結させる時間も惜しいとばかりにサンボール、ハノヴァ、ヴェラヌーリの三拠点からそれぞれ数千人ずつの兵が出撃した。しかし、どの隊も寄せ集めの軍勢でその行動は決して速いとは言えず、サンボール隊は特に寄せ集めのためか際立って遅かった。
ランバルトは決断した。ディリオン軍は包囲陣地を引き払うと南下した。そこは正しく敵中であり、迫る敵増援の包囲網の真っ只中であった。
メガリス軍はディリオン軍の動きに警戒しながらも、包囲網を縮めて押し潰すという魅力に抗えず、オルファンもまたサフィウムを出撃した
四方から押し込むように迫るメガリス軍に対しランバルトは自軍最大の長所を活かした作戦を実行に移した。自慢の機動力を駆使した各個撃破作戦である。
ランバルトはメール兵だけを率いて攻撃に向かった。健脚で知られる9千人の重装歩兵は一日40キロメートルという超強行軍で接近し、メガリス軍の不意を突いた。数でも下回るハノヴァ・ヴェラヌーリ隊は脆くも崩れ去り、潰走した。
そして、動きの遅いサンボール隊を放置することに決めたランバルトはミラルスへ戻って残留部隊と合流すると再度北上し、サフィウムのメガリス軍主力に襲いかかった。
メガリス軍は受けて立ったが懸命の応戦も虚しくディリオン軍の突撃を抑えきれずに蹂躙され敗走を強いられた。
8月、ディリオン軍は悠々とサフィウムに入城し、ライトリム地方は支配者が交代することとなった。各地でディリオン王国への寝返りが相次ぎ、多くの都市がメガリス王国への従属を捨てた。
南部の港湾都市アイリスや境界沿いのヴェラヌーリなどはメガリス勢力圏内にあったがそれはやはり例外であり、一ヶ月もするとライトリム地方の大部分はディリオン王国の領域に再び組み入れられた。
◇ ◇
一方、バレッタ地方も両陣営の戦いの舞台となっていた。
新暦663年2月、ペトラ首長アグー麾下のメガリス軍は順調に進軍を続け、恐れをなしたバレッタ南部の諸勢力を屈服させ勢力下に収めていた。アグーは制圧した地域から兵士も兵を集めて軍勢を増強させ、総兵力は数だけならば7万人に達し、更に40隻の軍船に海路より支援させていた。
猛然と前進するメガリス軍だったが、その前に立ちはだかる者もいない訳では無かった。
レイアントロプ派の最強硬派でレイトウード家のメラストスが徹底抗戦を主張していた。彼は周囲の味方領主を集合させ、殆ど根刮ぎに近いほどに兵を動員させた。メラストスはレイトウード家を中心に8千人余りの兵と共に出陣したが、その内実は民兵や傭兵が過半を占める正しく寄せ集めであった。
メラストスは南下し、街道を見張る高台に布陣してメガリス軍を阻止する構えを見せた。
地形と地理を利用した奮戦は予想以上に効果的でない二週間もの時間を稼ぎメガリス軍に消耗を強いはしたが所詮はそれだけの事であった。衆寡敵せず、敗北したメラストスは一千人足らずの兵士とともにレンブルクへと逃げ帰った。
4月、レンブルクに到達したメガリス軍は包囲を開始し、メラストスは降伏を拒否して篭城した。
ところが今度もメガリス軍は想定外に苦戦を強いられることになった。それは単に補給の問題であった。只でさえ7万もの大軍を支える兵站の維持は困難であるのに、先の苦戦や包囲という一箇所に留まらなくてはならない事情がメガリス勢の補給を大いに圧迫していた。
メガリス軍のレンブルク攻略は遅々として進まず、形としてはメラストスの篭城は成果を上げていると言えた。
5月、メガリス軍の侵略に対して遂に他のバレッタ勢も共同して当たる事を決断した。キンメル家のレオザインら貴族連合派はレイアントロプ派と組んで共にバレッタ軍を形成し、総勢1万2千人を数えた。
主導者レオザインがこの時まで協同戦線を拒んでいたのはメラストスという対抗馬を失墜させてから功績を独占しようとの腹積もりであった。無謀なのか慧眼なのかは兎も角、レオザインは勝つ気でいた。
アグーは包囲を続けながら6万人の兵を連れてバレッタ軍迎撃に向かった。
両軍はネルカマ市近郊で交戦に至り、ここでも意外な経緯を辿った。数の差を覆してバレッタ軍はメガリス軍と互角に立ち回り、両軍共に一歩引かない激戦が繰り広げられた。
だが、やはり兵数の差は体力の差で、徐々にバレッタ軍は劣勢に追い込まれていった。そして劣勢に成るや否やワーレン家のジャンがバレッタ軍を見限り、メガリス軍に寝返った。バレッタ軍は崩れ、敗走を余儀なくされた。
メガリス軍は補給体勢を整え、今度こそ攻城に着手した。メガリス軍の大兵力を前にレンブルクの守備兵は太刀打ち出来ず、援軍の望みも潰えたと知るや呆気なく敗れ去った。指揮官のメラストスだけは最後まで敢闘したが、戦況をどうする事も出来ずに戦死した。
入城したメガリス軍の略奪で市内の財物は尽く奪い取られ、住民は容赦なく奴隷に落とされた。
必死の抵抗も虚しく公都レンブルクは陥落し、略奪の憂き目に会った。まるでバレッタ地方の行く先を示すかの様な惨事だが、事態は更なる転回を見せることになる。
バレッタ軍の抵抗は決して無意味では無かった。ただ、バレッタ人にとっては無意味ではある。何故ならば、彼らが身を呈して稼いだ時間によってディリオン軍のバレッタ侵攻が実現したからである。
◇ ◇
新暦663年6月、メガリス軍は更なる戦果を求め軍を進めた。今度は三軍に別れたメガリス軍はそれぞれビンスホールド、ポノホード、ガラップへ向けて侵略を再開した。弱体なビンスホールドへは3千、キンメル家の拠点ポノホードへはアグー率いる3万、ディリオン領との境ガラップへは2万5千の兵が向った。
この進軍にはレイゲルトに籠っていたヒュノー勢も参加したがヒュノー自身は参加せず、メガリスへの義務は果たしたという実績を残す為だけの派兵だった。またヒュノーは公子イルセルを手元に抱え続けていた。まだ状況が二転三転すると踏んでいたのか、バレッタに於ける大義であるイルセルを放したがらなかったのかは定かではない。
この時期になるとディリオン軍も再起を果たし、バレッタへの進軍を再開していた。ランバルトのサフィウム進軍と同じ頃、ジュエス率いる総勢1万8千人のバレッタ遠征軍はバレッタ西方のガラップへ入城した。
ディリオン軍は時を置かず迫るメガリス軍に対し会戦を挑んだ。リンガル兵の戦いぶりは目覚ましく、ディリオン軍は数で上回るメガリス軍を瞬く間に粉砕し、バレッタへの道を開いた。ディリオン軍が次いで狙うはワーレン家領のネルカマであった。
ガラップ方面ではメガリス軍が敗北を喫していたが、バレッタ軍を追ってポノホードへ向かったアグー隊も後退を強いられていた。
6千人のバレッタ軍は最後の抵抗とばかりにクロービス近郊で戦いを挑んだ。形勢は依然としてバレッタ軍不利であったがバレッタ軍の攻撃は熾烈だった。バレッタ軍の猛烈な攻撃に突き崩されたメガリス軍は後退を余儀なくされた。
バレッタ軍の追撃をはね除けて何とか体勢を立て直したアグーだがディリオン軍の来襲を知って自身の劣勢を受け止め、分散した兵力の再集結を決断した。
こうしてネルカマへはディリオン軍、メガリス軍、バレッタ軍が集まった。どうにか勝利を掴むべく諸軍は互いに交渉と脅迫の使者を往来させていた。
ジュエスはバレッタ勢に寛大な温情策で調略を仕掛けた。勿論空約束であるが、そんなものは後でどうとでも出来、ジュエスの言葉自体に大きな影響力がある以上、それで十分だった。
バレッタ勢は両陣営からの調略を受け、漸く築いた結束は早くも揺れた。貴族連合派は元々実際的な利害の一致で寄り集まっていた為に有利な条件を提示した側へ靡く事に抵抗は無かった。
連合の主導者レオザインは迷うこと無くディリオン側に与する事を選んだ。逸早く態度を決めたレオザインはまだ揺れていたマグナマリス家を味方の振りをして騙し討ちし港湾都市コライトンを獲得した。
バレッタ軍の大部分を吸収したディリオン軍は兵力を増強させ、合流したメガリス軍へとその矛先を向けた。
そして、バレッタを賭けた両軍の戦いがネルカマを舞台に展開――されなかった。絶好の機会を前にワーレン家のジャンが動かない訳も無く、決戦の直前という土壇場で再び彼は寝返った。
拠点を奪われた形のメガリス軍は戦わずに後退を余儀なくされる。レンブルクへ向けて後退したが逃亡兵や寝返りに苦しみ、メガリス軍には4万5千人の兵が残った。
7月、両軍の足はレンブルクで停止した。メガリス軍はレンブルクでの防御を決め、篭城を開始したからであった。だが略奪を恨むレンブルク市民はメガリス軍への協力を拒絶し、寧ろディリオン軍へ与する行動を起こしていた。
ジュエスはレンブルクを包囲するとそのままの態勢を維持した。ランバルトのサフィウム攻囲と違い、焦らず包囲戦を続けていった。
だがここで事態が急変する。配置していたネルカマ守備隊が功に逸ってレイゲルト城への進軍を独断で行い、挙句ヒュノーに打ち破られたというのであった。背後の守りを失ったジュエスは時間を掛けて包囲を続けている訳にも如何なくなった。
早期の包囲終了を求めたジュエスは籠城するメガリス軍に対して交渉を持ちかけた。メガリス側の窮状はジュエスも理解しており、十分に交渉の余地があると判断していた。アグーはディリオン側の交渉を受け入れ、レンブルクを明け渡し、バレッタ以南へ退いた。メガリス軍の大軍を取り逃がす事にもなるが、ジュエスもアグーも大局的に見て共倒れよりは遥かに良いと考えていた。
9月、窮状にあったメガリス軍の元に更なる凶報が舞い込んだ。ライトリム方面軍の壊滅の報である。不利を悟った報を受けたアグーはフェルリアへ撤退する決断を下し、。
見捨てたられたバレッタ諸侯はディリオン軍への降伏か無謀な抵抗かの選択を突き付けられた。それはレイゲルトのヒュノーも同様で、折角の働きの甲斐なくメガリス勢から捨てられてしまっていた。
対するディリオン軍はレンブルクに入城した後、軍を二手に分けていた。メガリス軍を襲った補給物資の不足はディリオン軍にも変わらず襲い掛かっており、一処に集まっている余裕は無かった。
そしてヒュノーへの対処も必要としていた。ジュエスはヒュノーの力量を過小評価せず、最も信頼する軍勢を送り出した。副将セルギリウスにリンガル兵を中心に総勢1万の兵を派遣した。
ジュエス自身は残りの兵を率いてレンブルク以南のバレッタ地方平定に赴いた。
ヒュノーは城郭レイゲルトに篭っていた。共に合ったのは子飼いの兵ら僅かに1千人足らずの兵だが時に歴戦の名将の手腕を見せつけ、メガリス軍に貢献しさえもした。
ところがヒュノーの働きにも関わらずメガリス軍は撤退してしまった。ヒュノーにはこの時点で他の諸侯と同じように降伏という選択肢が与えられていた。これ以上ディリオン王国と敵対する必要性は薄かった。
だが、ヒュノーは戦いを選んだ。武人としての矜持が勝ったか、交渉の余地を作ろうという政治的な判断かは分からないが迫り来るディリオン軍に向かっていった。
少数である事を利用した神出鬼没の攻撃はディリオン軍を翻弄した。
セルギリウスはジュエスが自身の代理に任じる程の将であるが、そのセルギリウスに対し兵力差も覆して優勢を保ち続けたヒュノーの用兵は正に生涯を通じての最高潮であった。
セルギリウスは損害を無視して強引に突き進んだが、遮二無二な進軍で疲弊したディリオン軍にレイゲルトが攻略出来るはずも無く戦況は膠着してしまった。
ヒュノーも救援の見込みもなく籠城した所で先は見えているが、この城塞で可能な限りの抵抗を行おうとの腹積もりであった。
◇ ◇
順調にバレッタ平定を進めていた中、予想外の事態にジュエスは対策を迫られ、そして今度も軍事的な解決より交渉による解決を選んだ。
ジュエスは家臣の猛烈な反対を押し切って単身レイゲルト城へと乗り込み、ヒュノーとの直接交渉にあたった。それはかつてクラインにてハウゼン公に行った行為の焼き直しでもあった。ジュエスはヒュノーを有用な道具として使うつもりで寛大な条件を提示し、自ら出張ることで"功臣としてのヒュノー"を上手くくすぐった。結果も同様で、ヒュノーは開城を受け入れた。領地も兵権も公子イルセルも差し出す事を受け入れた。
11月、バレッタの大部分を平定し終えたディリオン軍は冬を迎えて一旦足を止めた。ジュエスは春までの自然休戦期間にバレッタ諸侯の再編を済ませてしまおうと考えていた。厄介に絡み合った彼らを解き解し、断ち切り、新しく作り変えようとしていた。少なくとも面倒事を押さえ込める程度には行うつもりだった。
妥協、交渉、話し合い。どんな風に取り繕うが所詮は我欲のぶつけ合いである。互いに本性を見せつけ足を掬い合うのだ―――
◆ ◆ ◆
【新暦663年11月 メレスメア 将軍ヒュノー】
南部の都市メレスメアまで連れられてきたヒュノーはジュエスに諸侯共々の召集を受けていた。集まったのはキンメル家のレオザイン、ワーレン家のジャン、ローウェン家のフライスなど何れもバレッタを代表する諸侯ばかりだ。皆、居心地の悪さを表情にし、互いに目線を合わせようとしない。
――散々敵対し合ってきたのだから当然か。私としても決して快くはない――
王家に味方していた者、メガリスに与した者、独立を掲げて戦った者。その区別なく集められている。会議の為に用意された部屋中にきりきりとした緊張感が満ちている。
――ジュエス公はわざと一同に介させたのだろうが、一体どうするつもりなのだろうか――
ヒュノーは深く息を吸った。自身としてはもう何もする必要も語る必要も無いと考えていた。部下や家族の安全は約束されたし、公子イルセルの引き渡しも、レイゲルトの開城も、兵権の譲渡も、持ちうる情報の開示も全て行っている。
重苦しい空気の中、扉が開いて一人の青年が入ってきた。靭やかな体躯、若々しい茶の髪、そして皮肉げな緑の瞳。
――かつての少年が今や王国の重鎮か。人の未来は分からないもだ――
レオザインやジャンなどは先を争って立ち上がり敬礼する。ヒュノーは程々の早さで立った。
「皆集まっているようだな。宜しい。着座したまえ」
ジュエスは招集した諸侯の顔をざっと眺めて言った。彼は歳こそ最も若いが権威権力では最も上位に位置している。諸侯は促されるままに座った。
「さて、諸君。召集した理由については幾らか心辺りがあるだろう。それに関して話し合いをしようではないか」
――幾らか、か。ここの連中の関心は自らの家や領土や財産の配分、敵対への仕置に関する事だけだから確かに幾らかだろうな。真に王土を憂いでいる者がどれ程……いや、もう止めよう。私にはもうそんな事を言う資格はない――
結果として王土を混乱させ、保身や自己の意地の為に無辜の者達を犠牲にしてしまった。そんな自身に何かを語る事は許されないとヒュノーは思った。
「先ず第一に片付けねばならないのは、バレッタ公位に関してだ。幸いにしてイルセル殿はヒュノー将軍の庇護で息災に過ごしていた。まだ若年であるから今は難しいとしても、成年になり次第、公位に付くことになるだろう」
ヒュノーを睨む周囲の貴族。お前に責任があるのに何故お前は責められていないと言わんばかりだ。ヒュノーは自嘲気味に肩をすくめるしかなかった。
「では新たに後見人が必要でしょう」
ジャンが口を開いた。この裏切者はネルカマでまたしても裏切り、勝馬に乗っていた。始末の悪いことにネルカマを契機にメガリス軍が撤退を続けた事でその功績を認めざるを得ない状況。
「メラストス殿は討ち死にしておりますし、今の後見のまま続けるというのも些か具合が悪いでしょう」
ジャンがヒュノーをちらと見ながら言った。ジャンの物言いに流石にヒュノーも憤りを禁じ得なかった。
――貴様は何の資格が有って指し出口を挟むのか。こうなったのは貴様にも責任があるのだぞ!――
ただじっと堪えた。怒りは感じるがヒュノーとしては自分の事を棚には上げられない。
ジャンの所為で敗北を強いられたレオザインも額に青筋を立てている。確かにジャンの功績は大である。だが裏切りや欺騙で手に入れた功績に敬意を払う者などいない。レオザインや他のバレッタ諸侯も彼のことを激しく嫌悪している。ジャン自身はどこ吹く風と言った所であるのが尚の事苛つかせている。
ジュエスは諸侯の背後に渦巻く黒い感情を皮肉げな瞳で一瞥して応えた。
「私は後見人はレオザイン殿が適任と考える。陛下にはそうお伝えするつもりだ」
「私ですか!? それは光栄な事でありますな!」
「レオザイン殿ならば家格、実績共に確かに適任ではあるが……」
突然の申し出に驚くレオザインとは対称的にローウェン家のフライスは不満げだった。
デカルベリを拠点とするローウェン家は現在ポノホードとコライトンを有するキンメル家によって挟まれている。その上に長らく対立していたキンメル家がレイアントロプ家の後見人にまでなられては困る、といった所なのであろう。
他の諸侯としても、これではレイアントロプ家の代わりにキンメル家が現れただけではないかとの思いが顔に浮かんでいる。
「それとレオザイン殿は後見で大変だろうからコライトン港は王家が管理しよう。代理人はそうだな、現地に詳しいマグナマリス家の縁者に任せよう」
「……」
ジュエスは涼しい顔で言った。レオザインはやや苦々しい顔をしている。
コライトンはバレッタ地方最大の港で経済上の要地でもある。レイアントロプ家の後見人という立場を得るにはこの港湾都市を放棄しなくてはならない。キンメル家が戦争で獲得した最大の戦果だ。
レオザインは名誉と実利、即物的な利益と後々の布石の間で揺れているようだった。コライトンから上がる収益は大きいが、後見人になればレイアントロプ家を乗っ取ることも出来るかもしれない。
「……全て陛下の御意のままに」
結局、レオザインはコライトンを捨てた。諸侯が彼に嫉妬の視線を浴びせかけている。
――野心を取ったか。とはいえ先が見えているかどうかは今はまだ分からんが――
「うむ、宜しい。領土に関しては基本的に現在の土地を安堵する。幾らかの土地に関しては王家が接収するが、その分の代替地は与えよう。それと領主不在の地域は王家からの代理人が管理する。異論はないな?」
ジュエスは続けて手早く当面の移封を伝えた。其々の領地が上手く接触しない様に組み替えられ、枢要な地域は王領に対し剥き出しになった。
誰かが叛意を持ったとしても直ぐ側には王家の代理人が見張っている。反対に攻め込まれたとしても王家の支援を期待出来る。そして諸侯同士の多くの土地が切り離された事で結託も難しくなっていた。
ジュエスの裁定を静かに聞いていたヒュノーは嘆息した。
――巧みだ。実に上手い――
巧妙な裁定だった。地位の問題も、領土問題も見事に処理された。
其々の戦果と戦禍を再認識させ調整する事で、戦争前は私を、戦争中はジャンを、そしてこれからはレオザインをバレッタ諸侯の敵意の対象とさせ、新たな統治をやり易くした。だが一方で私もジャンもレオザインも感謝を表明せざるを得ない。悪行を弱めて利益を握らせてくれたからだ。
それは他の諸侯も同様であった。特にマグナマリス家はコライトンを返還された事でジュエスに恩義を感じざるを得ない。王家の名の下に行ったことで、コライトンに干渉すれば王家に弓引くことと同義になる。
そして、あくまで王家の名に行い、自身には大した利益を確保しない事も重要だった。自らへの敵意を煽らなくなるからだ。彼は目の前の利益を得ずに、信頼と信用という大きな宝を手に入れた。
――ただ自分だけが傷付かない。誰もが彼に感謝させられ、彼だけが聖性を失わない。リンガル人の彼への狂信も理解出来る。私はどれだけ努力しても手に入れられなかった――
ヒュノーは空しさを覚えた。気にしないようにしていても涌き出る無力感は抑えきれなかった。
――それにしても、この様に勝手に決めていて良いのだろうか。確かにバレッタを安定させるには有効な裁定ばかりだが……ジュエス殿は飽く迄も一人の公に過ぎない筈。後々に宰相殿の裁可を頂くとしても事後承諾になってしまうのでは無いか――
権威と権力の限りを尽くして諸侯を圧倒するジュエスに見てヒュノーは思った。
――私との交渉の時もそうであったが、野心故の専横とは思えない。ある意味で本当に安定と平穏だけを考えて決定を下しているように感じる――
だが決して、己の未来を託したいと思う類いでもなかった。ジュエス彼自身の平和だけを考えているような感覚ではあったからだ。
――だが、他に選択肢は無い。私は敗者だ。選ぶ資格などそもそも無いのだ……――
◆ ◆ ◆
ジュエスはバレッタ人同士の対立を仲裁し、当面の安定を確保した。レイアントロプ家を含めた各家の立ち位置を改め、明確化した。領土も巧妙に再編して反乱と結託を未然に防ぎ、その一方で王家の保護を与える事で直接的な影響下へと組み込んでいった。また全ては王家の名の下に行われており、ジュエスのプロキオン家自体は殆ど領土を得ていない事は特筆に値した。良くも悪くも公正さを組伏せられたバレッタ諸侯に印象付ける事が出来た。
但し、有効な裁定ではあっても本来彼に許された権限内での行動ではない。ある意味では専行であり、見るものに依っては専横とも取られかねない危険性を秘めていた。
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