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相反する想いを抱え



「……おれは月鬼の考えに賛成だ」


「なっ、斂鬼(れんき)!?」



黙って事の成りゆきを見ていた斂鬼が突然発言したかと思うと、月鬼に同意を示したのだ。霰鬼は想定外のことに驚きを隠せないようだった。



「ほう……斂鬼、お前もか。月鬼といいお前といい、この人間に何を見出したというのか」


「その人間のことなど知らん。おれは月鬼に賛成しただけだ。人間は関係ない」


「ふむ、仕えるに足り得る器かどうか決めるにはいささか早急だと?」



琅鬼は月鬼だけではなく、斂鬼までもが同じ考えだということを考慮し、己れの考えを改めようかどうするか決めかねていた。



「ああ。それに、おれはその人間というのを知らん。おれは最強だと言われているゆえ、月鬼と同じで同胞たちのように人間と関わりがなかったから月鬼の気持ちもわかる……人間、おれも月鬼と共に貴様の様子を見ることにしよう。失望させるような無様な姿を晒すなよ」



怜青れいせいは斂鬼の高圧的な物言いに気圧されながらも、真っ直ぐな視線を斂鬼へと向ける。



「………どういう事だ。異界ここから私のことを見ているということか」



怜青れいせいが思っていたことをそのまま月鬼たちに伝える。すると、煉鬼は怜青れいせいの問いには答えず月鬼のほうを向いた……眉を寄せて。



「月鬼、人間こいつは阿呆か」


「ああ、まごうことなき大戯けだ」



月鬼と斂鬼はそれぞれ呆れた声を出す。さしもの怜青れいせいも、そのあまりにもの物言いにカチンとした。



「……なぜわからぬことを正直に問うただけでそこまで言われる必要がある」



低い声で呟くと、月鬼と煉鬼はお互いに顔を見合わて怪訝そうな顔をしながら首をかしげる。その仕草ですら、怜青れいせいの気に障って仕方がない。



「おれたちとて思ったことを口にしたまで。別にお前を侮辱したわけではない」


「ただ、お前のものわかりの悪さに少々呆れただけだ」


「……それがひとを侮辱していると言っている!」



怜青れいせいの感情が爆発した。元々そんなに気の長い方ではない、というか短気な方である怜青れいせいは、ここまでじっと耐えていた自分を褒めてやりたいと心から思った。



「言わせておけば、好き放題言ってくれたな。もうこれで話は終わりだな。それならば私は人界に帰る」



怜青れいせいの怒りは頂点にまで達していた。もはや、自分では抑えきれないほどに。



「悪いことをしたと反省した。断罪されようと黙って連れられてきた。月鬼に言われて生きて償おうと決めた……が、なぜここまで引き延ばすのか!言い争うのであれば私が居ないところで勝手にしていろ!たとえ私がその言い争いの内容に関係しているのだとしても、その言い合いに私が居る必要はないはずだろう!」



物凄い剣幕で怒鳴り散らす怜青れいせいに九鬼たちは暫く言葉がでなかった。そんな九鬼たちには目もくれず、怜青れいせいはひとり、印を組んだ。



風志那神(かざしなのかみ)、降りましませ」



すると、怜青れいせいの周りを不可思議な力が駆け巡る。決して自然のものではない風が吹き、怜青れいせいを取り囲んだかと思うと一瞬のうちに消えてなくなった。



「……自ら界を開き、人界へ渡ったか」



月鬼の声が静まり返ったその場に響き渡る。そして、いち早く正気に戻ったのは淤鬼だった。



「……嘘、自分の力で人界に戻るなんて有り得ないよ。そんなの、聞いたことがない!」


「……だが現に、あの人間は帰った」


「月鬼の言うとおりだな」


「そんな、斂鬼まで……」



驚愕する同胞たちを一瞥し、月鬼はまるで独り言のように言った。



「……追うか」


「そうだな」



月鬼に同意を示したのは、やはり斂鬼だった。まだ何か言おうとする同胞たちを目で制し、月鬼は斂鬼と共に人界へと降りていった。



「……行くな」



顔を歪ませた霰鬼の微かな呟きは、当然降りた同胞に届くことなく空気に溶けていく。その哀しげな声音に、残った同胞たちは痛々しい顔をしていた。



━━━遥か昔に想いを寄せて




















「……なぜ、ここにいる」



怜青れいせいの問いに、ふたりの青年は事も無げに答えた。



「何を言っている?おれたちはお前を見定めると、そう言ったはずだ」


「……斂鬼の言うとおりだ。それに、俺たちは異界からお前を見定めると言った覚えはない。お前の問いにもそう答えるつもりではあったが」


「……それはわかった。しかし、なぜお前たちはそんな姿をしている」



怜青れいせいの言葉に月鬼と斂鬼は己れの姿を省みる。だが、特におかしいと思うようなところはない。



「……なんの話だ。俺たちはお前が言うほど変な姿をしているつもりはないが」


「いや、姿が変わっているだろう。なんだその姿は」


「なんだと言うが、そんなにおかしいのか?」


「……おかしいわけではないが」



月鬼と斂鬼の言葉に、怜青れいせいは曖昧に言葉を濁した。


怜青れいせいが戸惑うのも仕方がない。なぜなら、ふたりの姿が何処からどう見ても見目麗しい普通・・)人間・・)にしか見えなかったのだから。


月鬼の宵闇のような紫色の髪と月のような銀色の瞳は、闇のような漆黒に染まり、高い身長はそのままに角が無くなっていた。


煉鬼の暁のような緋色の髪は赤茶色に染まり、紅色の瞳は薄茶色に染まっていた。彼も高い身長はそのままに角が無くなり、人間と同じ姿になっていた。


ふたりの独特の衣装も、宮仕えの官人が着ているようなものにかわっている。どこからどう見ても、やはり普通の人間にしか見えない。



「……人型をとっているだけだ。本性のまま姿を隠し、お前を見ていることもできるが、それでは見えないこともあると判断した」


「だからおれたちが人型をとり、お前を観察することにしたということだ。ああ、食事は要らんし、気を遣う必要もない」


「いや、近くにいたら気になるんだが……」



怜青れいせいの言葉に顔を逸らしたふたりが突然、逸らした顔を戻したかと思うと斂鬼がぽつりと言った。



「おい、人間。誰か訪ねてきた……というより入ってきたんだがいいのか。もうすぐそこに来てるんだが━━━」


「は?ちょっと待て。どこかに隠れ……」


「……もう遅い」



死刑を言い渡すかのような月鬼の冷静な呟きと被るかのように、バタンと強い力で扉が開かれた。そこに立っていたのは━━━



「いた━━━━━っ!」


「っ、奏彰そうしょう、離れろ━━━!」



怜青れいせいの予想した通り、そこにいたのは今回処刑されかけていた怜青れいせい盟友とも陸奏彰りくそうしょうだった。



怜青れいせい、探したんだぞ!」


「は、はな、せっ……絞まって…………」


「うおっ、わ、悪い」



怜青れいせいの首をいい感じに絞めていた腕が外され、ゴホゴホと盛大な咳をした。奏彰そうしょうは申し訳なさそうにそれを見た。



「……たとえ盟友ともであったとしても、勝手に他人の家にあがりこむとは。随分と礼儀がなっていない人間だ」


「全くだな」


「っ、あんたは……」



月鬼と斂鬼の話し声に、やっと自分達以外にも誰かが居たことに気づいたようだ。



「あんた、あの時の鬼だろ?正直な話、とても助かったんだぜ!ありがとな!」



にっ、とした眩しい笑顔に月鬼は曖昧な顔をした。斂鬼は物珍しそうに奏彰そうしょうを見る。


その視線に気づいた奏彰そうしょうは、首を微かに傾げて煉鬼を見た。



「あんたも鬼か?なんというか、ふたり揃って凄まじい美貌だなぁ。さすがに人外のものたちはオレらとは違うな」



そのざっくばらんな奏彰そうしょうの態度に、斂鬼は不快な気持ちは抱かなかった。むしろ、怜青れいせいよりも好感を持っていた。



「俺たちは確かに鬼ではあるが、ただの鬼ではない。鬼神、神に属する鬼だ」


「九鬼、と呼ばれる鬼神だ。言っておくが、おれたちは邪神なんかじゃない。間違えるなよ」



先ほど月鬼が言ったことを覚えていたのだろう、はっきりと釘をさしておいた。月鬼たちとて、邪神などと勘違いされるのは腹立たしい。



「ああ、わかってるさ。それに……て違う!オレはこんなことをいいに来たんじゃなかった!」



そう言うと、いままで蚊帳の外になっていた怜青れいせいの肩を掴んでガクガクと揺さぶった。



「あの鬼の仮面、あれお前だろ!?皇帝がとんでもない命令を出したぞ!『あの鬼の仮面の人物を見つけ次第、即刻我が元に連れてこい』てな感じの命令だ。しかも『連れてきた者には多額の褒美をとらせる』だと。お前、まるで指名手配犯みたいな扱いになってるぞ!?」


「……皇帝の狙いは私ではないのだろうな」


「は?」



怜青の言葉に、奏彰が驚きの声をあげた。すると



「……目的は、俺か」


「だろうな」



月鬼が会話に入ってきた。月鬼の言葉を肯定した怜青だったが、奏彰はどういうことかさっぱりわからなかった。



「ちょっ、どういう……」


「どうする、月鬼」



奏彰のことなどお構いなしに話が進んでいく。斂鬼が月鬼にどうするのかを問うていた。



「……俺を見世物のように思っているのであれば、それ相応の報いがあるということを知らしめる」


「そうか。それなら、おれも手伝おう。同胞がこんな扱いをされて、黙って見過ごすわけにはいかないからな」



不敵な笑みを浮かべる月鬼と斂鬼に、色々なごたごたで慣れてしまった怜青れいせいは溜め息をつき、奏彰そうしょうは唖然とした顔でふたりを見つめていた。


皇帝の目的は知らないが、もし悪意に満ちたものであるならば、そのことを後悔することとなるだろう……主に、九鬼最強とその二番手によって。

これぞ本当の現実逃避。


テスト勉強から逃げ出したいと思い、空想世界に逃げしたバカな作者です。

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