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心に響く揺れし影




「……正気か、月鬼」



霰鬼が唸るような低い声で問う。



「月鬼、再び問おう。お前は、その人間に何を見出だしたのだ。なぜ、我ら九鬼を貶した人間の肩をもつ」



琅鬼までもが、怜青れいせいについた月鬼を不可解そうな目で見つめ、その真意を探ろうとする。


当の月鬼は、事も無げにこう返した。



「勘違いするな。俺はまだ、この人間の配下にくだった覚えはない。だが、仕えるに値するかどうか判断を下すにはいささか早急だと感じた。本人にその気は無いようだがな。だが、この人間には俺に対する責もある。ゆえに、ひとまず様子を見ることにした…ただそれだけのこと」



動じることなく淡々と告げた月鬼は、同胞たちを軽く一瞥して口を開いた。



「これは俺自身が決めたこと。俺の今後に文句を言われる筋合いはない」


「……お前はわたしたちの同胞。ゆえに、案じる権利くらいはあるだろう」



月鬼の言葉に、琅鬼が静かな声音で返す。月鬼は、琅鬼が放った言葉を一瞬理解することができなかった。



━━案じる権利?この俺を、一体誰が、何故(なにゆえ)案じるというのか。



月鬼は琅鬼の言っている意味がわからなかった。前世でも心配などされた覚えはないし、第一、月鬼は九鬼のなかでも二番目に強いのだ。これは紛れもない事実で、揺らぐことは決してない。


そんな月鬼の、琅鬼は一体何を案じるというのか。そもそも、大した力もない人間がすることなどたかが知れている。それは、元人間である月鬼がよくわかっていた。


月鬼が考えていることを察したのだろう。琅鬼は困ったような顔をして、月鬼に柔らかい声で話した。



「人間がお前を害せると思っているわけではないよ。お前が傷つけられるのではないかと心配しているのだ……お前はわたしたちと違って、人間と関わるのは今回が初めてだからな」



話している琅鬼の顔が一瞬翳ったのを、月鬼は見逃さなかった。視線を強め、問い詰めるかのように琅鬼を見据える。


琅鬼は月鬼を視線を真っ向から受け止め、悲しげな表情をした。



「……人間はわたしたちとは違う。寿命も、生き方も、考え方も何もかも。お前もわかっているだろう」


「人間は俺たちと違って、容易く偽り切り捨てる。と、そう言いたいのか」



元人間である月鬼には、九鬼と人間の違いを誰よりも理解していた。そして、九鬼にとってそれが理解し難いことであるということも。



「お前たちが出会った人間には、そんなものしかいなかったのか」


「……ああ。それゆえに、お前にも同じ思いをしてほしくはないのだ。わかってくれ」



月鬼の言葉に少し顔を歪めながらも、琅鬼は月鬼に懇願する。ひとは変わりやすい生き物だ。一度定めた心も、約定も、何もかも捻じ曲げてしまう。だから、同じ目に遭ってくれるなと。



しかし━━━━━



「……言いたいことはわかった。だが、この人間がそのものたちと同じだという根拠は何処にある?確かに虚言は吐いたが、心根までが同じとでも言うのか。よもや、人間であるというだけでそう決めつけたのではあるまいな」


「っ、それだけあれば十分だ」



突然、霰鬼が怒鳴り声をあげた。怒りに満ちたその声から月鬼は隠された想いを読み取り、静かに問いかける。



「……そうか、哀しいか」


「!」



月鬼の一言に、泉鬼の顔は驚愕に彩られた。見開かれたその瞳には、僅かばかり怯えがある。怒りの表情、激情に駆られたその瞳の奥から垣間見える、深い傷と、それを必死に押さえ込もうとする苦悩と癒しがたい悲しみを。



「怒りは傷ついた心を隠すように前に出る。傷ついた臆病な心を隠すように、もう傷つきたくないと叫ぶように怒りで隠してしまう。そしてそれは、やがて他人だけでなく、己れ自身も見えなくなってしまうものだ。……俺にはお前が泣いているように見える。哀しみと嘆きを抱え、心のなかで慟哭しているように」


「っ、貴様に何がわかる!」


「……俺が体験したわけではないのだから、わかるはずがない。お前が俺のことをわからないように」



あくまでも静かに答える月鬼に、霰鬼は目に見えて怒りを募らせていった。



「……よくもぬけぬけと」


「お前は先ほど、人間であるというだけで虚言を吐く生き物だと肯定していたな」


「それがなんだ」


「……人界の、術師らの間で俺たち九鬼は邪神とも呼ばれているそうだ。鬼の姿をしているがゆえに」



これは月鬼が怜青れいせいから聞いた話だ。月鬼が人界で闘っているとき、人間たちが九鬼のことについてぼそぼそと話しているのが耳に入ったのだ。




















怜青れいせい


『っ、驚いた。頭のなかに声を飛ばしてきたのか』


『……それはどうでもいい。それより、彼処の人間が俺を邪神だのなんだのと言っているのだが、どういうことだ』


『あんな遠いところの会話も聞き取れるのか……九鬼は鬼の姿をしていると伝えられているだろう?鬼は魔の顕現した姿だといわれている。ゆえに、いつしか術者の間でも、鬼の姿をしている九鬼は邪神だと囁かれるようになったのだ』


『……魔の者と同じにされる謂れはない』


『あぁ。お前たちは紛れもない、善神だ』





















「わかるか?人間たちは、俺たち九鬼が鬼の姿をしているというだけで邪神だと思っているそうだ」


「こなたたちが邪神だと?ふざけるな!」


「お前が、いや、お前たちが人間をこういうものだと固定観念をもって考えいるのと何が違う?何も違わないだろう」



月鬼のあまりにも静かすぎる口調に、九鬼たちは漸く月鬼が苛立っていることに気づいた。



「……すべての人間が偽りをもち、裏切る生き物だと?それは、人間が皆が皆同じだと言っているにも等しい言葉だ。聞くが、俺たち九鬼はみな同じものか?違うだろう。何があったかは知らないが、己れが見てきたものだけが真実とは限らない。ひとつの見方しかできないようでは、その本質を見誤ってしまう。そして、幾度も同じ過ちを繰り返すだろう」



だんだん顔つきが険しくなっていく月鬼に、琅鬼たちは言葉を失う。



「……己れの価値観を押し付ける前に、相手をもう少し見やったらどうだ。俺はまだこの人間のすべてを知っているとは言わぬ。だからこそ俺は、もう少し見極めてから決める。まだこの人間の本質が定まっていないなら、定まってから決めることにする。俺の話は以上だ」



以上だ、というわりには月鬼の横顔は何か物言いたげに見えた。その上、氷のように冷たく見えた。一方の怜青れいせいは、月鬼が同胞に苛立っている様子にただただ唖然としているのであった。

月鬼、同胞にも厳しい……そして九鬼が琅鬼と泉鬼と月鬼しか出てこないΣ(゜Д゜)


……少し、やり過ぎた感がある気がします。


テスト勉強もあるので、今回はここまでにします。すみません(。_。)


ですが、できれば今日中に邪神のほうも更新したいと思っています。

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