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偽る心を暴きだし



「しかしまぁ、それぞれに合った見極めをしてもらうもけれどね」



と琅鬼が付け足すように言い出した。



「どういうこと?」



淤鬼が問いかける。全くの同意見だ。


くくく、と琅鬼が笑う。わけがわからず、首を傾げていると



「全員が全員相手したところで、あの人間の体力がもつまい。ゆえに、お前たちにはそれぞれの事柄を見極めてもらいたいのだ。たとえば、わたしが知力を見極めたとして、月鬼には戦闘力を見極めてもらう。といった感じに」


「……長、それはたとえ話だろうな」



本当に(一番面倒そうな)戦闘力なんて俺に見極めさせないよな?という意味で話す。琅鬼は苦笑しながら、たとえばの話だと言った。



「お前自身が一番わかっているだろう?最強である斂鬼、二番手である月鬼、三番手である叡鬼は凶鬼きょうきと呼ばれ、九鬼のなかでもずば抜けた戦闘力をもっている。そして、感情が昂り正気をなくせば途端に闘争本能のみの狂鬼きょうきへと変貌する鬼神だ。もしお前たちに戦闘力なんてものを見極めさせて理性をなくしでもしたら、あの人間は即死するだろうよ。それに、わたしたちも無事では済まない」


「……俺に戦闘力を見極めさせようとしていないことはわかった。だが」



月鬼は言葉を切り、琅鬼を見据え言葉を放つ。



「ならば長は、逆に俺に何を見極めさせようという」



俺は知力もなければコミュニケーション能力だってないんだぞ、と心のなかで訴える。



それを知らない長は、にこりと笑ってこう告げた。



「ああ、お前はあの人間の性格を判断した上で目的などを聞きだしてくれればそれでいい」



それならお前に任せても問題はないだろう?と満足そうに言う長に、俺は心のなかで一言呟く。


……それ、知力とコミュニケーション能力を駆使しないと出来ないよな?


誰にも届くことはないと知りつつも、そう思わずにはいられなかった。出来ることなら聞かなかったことにして、この場から逃げ出したいくらいだ。





















「……人間、如何にして我ら九鬼を配下にと望むのか」



よりによって俺が一番最初に相手をすることになってしまった。……こうなれば致し方ないと腹をくくり、知力もコミュニケーション能力もないので正面切って問いただすことにした。


にしても俺、人間とか如何にしてとか致し方ないとか色々変わりすぎだろ。なのに、何ひとつ違和感を感じない自分が一番おかしい。



「……鬼、名は」



こっちが先に質問してるってのに、何を言うかと思えば名前か。と思ったが、それと同時にこう答えた。



「礼儀を知らぬひとの子。俺には、名乗らぬものに名乗る名は持ち合わせていない」



青年が僅かばかり目を見張る。しかし、元日本人としてこれだけは譲れなかった。親しき者にも礼儀あり、という諺があるのだ。親しくもない赤の他人ならばなおのこと、礼儀をわきまえるのが常識というものだろう。



「……人間、返答は如何に」


「……答える気などない」



素っ気ない言い方。しかし、その淡々とした言葉とは裏腹に、その瞳の奥に僅かに見えた感情を月鬼は正しく見抜いた。



そして━━━━━



「……そうか、ならば言わせてもらう。こちらも、お前に応える気はない」


「っ……」



初めて青年の表情が大きく変化した。悔しそうな、しかしそれでいて何故か安堵したような顔だった。


怒り、苛立ち、哀しみ、嘆き、後悔……青年の顔からは様々な負の感情がわかりやすく見てとれた。



「人間、お前の事情など俺の知ったことではない。が、その様に始めから諦めたような目をして一体何を望むという」


「なっ……」



青年の顔が驚愕に彩られる。逆に気づかれていないとでも思っていたのか?誰よりも一番分かりやすいというのに。


……月鬼は愁星という名の人間だった頃、ひとに遠ざけられていたことによって相手をよく見て行動するように心がけていた。そのお蔭で相手の感情の変化に聡く、心の機微を読むのに長けていたのだ。



……本人は気づいていないようだが。



そして、月鬼は思ったままを口にする。



「人間、お前は何を望み、何を憂い、そして何を諦めている。そのような軟弱な精神では、九鬼どころか鬼神をひとりとして従えることは叶わ……いや」



月鬼は少し思案し、言葉を選び直しながら話した。



「元より九鬼を従えるつもりはなかったのだろう。お前の目的は九鬼を従えて、その力を操ることではない。九鬼を人界に降ろすことだった……違うか?」


「……」



青年は何も答えなかった。口では。


その代わり青年の拳は硬く握りしめられ、掌に爪が深く刺さり、血が流れ落ちていた。



「……どういうことだ」



月鬼と青年のやり取りを神経を研ぎ澄ませて聞いていた叡鬼が、そう呟いた。誰も何も言わなかったが、他の同胞たちも同じ心境だった。



「……やはり、月鬼に任せて正解だったようだ」


「何故、月鬼を行かせようと?」



ふっと笑う琅鬼に、穂鬼が不思議そうに問う。同胞たちも目で問いかけてきた。



「おや、誰ひとりとして気づいていなかったとは……月鬼は九鬼のなかでも相手の感情の変化に聡く、心の機微を読むのに長けている。だから、この役目をあれに任せた。一番適しているだろうと判断して。しかも、結果は吉と出た」



くすり、と嬉しそうに笑う琅鬼に稜鬼が問いかける。



「じゃが、妾たちが降臨することが目的であるとわかったいま、一体どうするつもりなのじゃ?」



怪訝そうに言う稜鬼に対して琅鬼はにこりと笑い



「それは、あの青年と月鬼の行動次第というところだな」



と言った。さてどうする?と、琅鬼は心のなかで月鬼に問うのであった。

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