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幾星霜の時を経て

拙作を読んでくださり、ありがとうございます


稚拙な文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです



「……自己紹介など俺たちに必要あるのか」



琅鬼に手を引かれながら月鬼が問いかける。それに対し、琅鬼は苦笑気味に答えた。



「ふふっ、ふれあうことでわかることがあると思うと言っているだろう?」


「それなら普通に接していてもわかる」


「やれやれ、随分と気難しい同胞だ」



素っ気なく言うと、困ったようにそう返される。



(……一体、何を考えているんだ)



自己紹介とは相手のことをなにも知らないから行うもののはずだ。それなのに、おさは自己紹介をするという。同胞のことならある程度知ってるし、わざわざ自己紹介するほどのものでもない。


怪訝そうな顔をしていると、おさとは別のひとりの同胞が近づいてきた。どうやら月鬼が考え込んでいるうちに、同胞たちのところに着いていたようである。



「あまりそんな顔をしてると、霰鬼せんきみたいに眉間のシワが消えなくなるよ」



くすくすと笑いながら話しかけてきたのは、確か淤鬼よきという名前だったと思う。



「お前たちの会話、すべて聞こえていたが……。おさの言うとおり、気難しそうな奴だ」



無表情ではあるが、声音に苦笑が混じっていた。九鬼のなかで三番手である叡鬼えいきだ。


そういえば普通の人間とは違って運動能力・瞬発力・反応速度もさながら、九鬼は五感が鋭いのだった。


そりゃあ、あの程度の距離の会話くらい丸聞こえになっているはずだ。



「もう!そんなふうにしけた顔しないの。淤鬼よきの言うとおり、霰鬼せんきみたいな顔になるよ!」


「……淤鬼よきといい、燵鬼たつきいい、こなたをなんだと思っている!」



と、霰鬼せんきが顔をしかめて言うが



「なんだ、本当のことだろう」


「そうじゃな」



斂鬼れんき稜鬼いつきが同意を示した。それを聞いて霰鬼せんきの顔の不機嫌さが倍増しになっていく。



「あら、あまり泉鬼せんきをからかうものではありませんよ」



霰鬼せんきを庇ったのは穂鬼すいきだった。


みな笑いながらも、こくりと頷いた。生真面目ながらも無愛想で不機嫌な顔の霰鬼せんきをからかうのは面白いのだろう。



……最も、本人にとってはあまり気分のいいものではないだろうが。



同胞たちのやり取りを見ていた琅鬼は、確かに自己紹介は必要ではなかったかな。と薄く笑いながら呟いた。



「さて、自己紹介の必要がないようであるし、集まってもらったのにすまないけれど、各々で好きに過ごしてくれ」



……解散、ということなのだろうか。琅鬼の言葉が言い終わると共に、それぞれが散っていった。



(……ひとまず、その辺でも歩いてまわるか)



辺り一面、草原が広がっていた。あとは所々岩があるくらいで、建物も人工物もない。ほとんど変わらない景色が、月鬼から見た限り延々と続いているだけだ。


取り敢えず歩いてみる。腿のあたりから切れ目のはいった衣装は、まるで古代中国の衣装のようだ。何も履いていない足に草を踏み締める感触が伝わるが、不快感は抱かなかった。


延々と歩き続ける。まわりの景色はやはり変わらず、雲のひとつもない青空と鮮やかな草原が広がっているだけだった。





















………あれからどのくらいの年月を歩いただろう。あてどもなく歩き続けていただけの月鬼は、楽しいとも面白いとも思うことなくただ前に進んでいた。


変わらぬ景色、変わらぬ大空、疲労すらなく歩き続けることのできる身体。月鬼にとって、すべてが夢のようなものでしかなかった。



(……つまらないな)



前世では生きたいと願った。来世では、普通の人生を送りたいとも。しかし、いまの生はどうだ?両方の願いを半分ずつ叶えられているような現実。鬼神だったり身体の造りが人間より高性能だったり変な力を持っていたりするが、前世に比べたら仲間ともいえる同胞もいて普通に生きてもいる。しかし、限りなく退屈でつまらなかった。


前世が苦難すぎて、平凡な日常では満足ができなくなっているのだろうか?


月鬼は、いささか検討違いなことを考えていた。幾星霜もの間、ただただ歩いているだけゆえにつまらないのだということに全く気づいていない。


何かあるかもしれないと思い歩いてきたが、何もない。


特にすることもないのでひたすら歩き続けていたが、それも終わりを告げた。



『同胞たちよ、これへ』



歩き続けること、幾星霜。随分と久方ぶりに同胞であり、おさである琅鬼から召集がかかった。



(珍しいな……)



これまで一度も召集がかかったことがなかったので、今回の呼び出しにいささか驚いた。しかし



(……多分、俺が一番遠いだろうから早く行かないと待たせることになるな。急がないと)



くるりと向きを変え、来た道を全速力で戻る。そのスピードは光の如く、だった。


いままで幾千もの年月をかけて歩いてきた道を、月鬼はたったの三十分弱しかかけずに戻った……息を軽く乱して。





















月鬼が琅鬼の元に着いた頃には、既に全員が揃っていた。



「遅かったな、月鬼。一体、あれから何処まで歩いていったんだ」



どうやら俺がただひたすらに歩いていたのを知っているようだ。苦笑気味に琅鬼が問いかけてきた。



「……幾星霜もの間、ずっと」



ぶっきらぼうに答えると、同胞たちは目を丸くして、琅鬼はそうかと呆れたように呟いた。



「さて、本題に入ろう。今回、召集したのは、人界より召喚が成されたからだ」


「…………」



一旦言葉を切り、目を閉じる。そして深く息を吸い、目を開けると同時にその言葉は紡ぎ出された。



「わたしはそれに応じて人界に降りた。すると、そこにはひとりの青年がいたのだ。そして人間はわたしに向かってこう言った」



私には、どうしてもやらなければいけないことがある。だから、その為に━━━━━



「!」


おさ、それは……」



なにかを言おうとした同胞を手で制する。そして



「……あぁ、そうだ。あの人間は術師。わたしたち九鬼を、使役しようしているらしい」



と答える。



「我らを使役するだと?つまり、その男は我ら九鬼の主になると言ったというのか」



叡鬼が、理解し難いと眉を潜める。



「いままで僕らを召喚した人間はいたけど、ある特定の魔物を倒すまでという期間限定だったり、対等な立場だったし……」



いまの話だと、その人間が死ぬまでの一生ってことだよね?と淤鬼よきが言う。どうやら俺と違って、他の同胞たちは召喚されたことがあるらしい。



「……幾ら人間からすれば異形の姿をしているとはいえ、こなたたちは神だ。神が、人間を主と定めるのか」



不機嫌そうな面持ちでそう言ったのは霰鬼せんきだった……まぁ、霰鬼せんきはいつも不機嫌そうにしているが。



「ゆえに主として相応しいかどうか見定める場を設けることにした。半刻後、その人間をこの異界に招き入れる」



琅鬼の言葉にその場が騒然とする。そして、最初に口を開いたのは穂鬼だった。



「お待ちください、おさ。この異界にその人間を招き入れるということはもしや……」



穂鬼の慌てた言葉に琅鬼は頷き、言葉を返した。



「そうだ。実力行使でも構わない」


「!」



穂鬼は今度こそ言葉を失った。そんな穂鬼を見て、琅鬼は不思議そうな顔をする。



「何を驚いている?わたしたち九鬼の主になると言っているのだ。それ相応の力を見せてもらわなければね」



平然と言ってのける琅鬼に月鬼は内心「物騒だな」と思った。しかし一部の同胞たちはそうは思わなかったらしい。



「確かに、それもそうだな」


「あぁ、同感だ」



……正直な話。不敵な笑みを浮かべる同胞たちのほうが、俺にとっては理解し難いと思う。



「……何も、必ずしも闘わねばいけないということではないのだろう」



正直、穏便に済ませたいと思っている俺は琅鬼にそう尋ねた。それに対して琅鬼は



「各々が主として認められるかどうか見定めることができるのなら、やり方は問わない」



と言った。その答えに月鬼は人知れず安堵し、それと同時にいきり立っている同胞たちを見て、その青年に訪れるであろう悲劇に心から同情した。

月鬼が考え込んでいるときの言葉遣いが本来の性格です


でも、誰かと話すときは素っ気ない感じになってしまうので前世でも人付き合いが散々でした


ちなみに、月鬼自身その事には全く気づいていません

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