表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石切娘奮闘記  作者: 千夜
9/41

石を探していたら白馬を見つけてしまったでござる

パンを食べ終わって後片付けをしていると表の方で馬の声が聞こえた。

そういえば、今日船が帰ってきていたんだけ。

ルベールが応対に行くと、直ぐに人を連れて帰ってきた。

やっぱりお父さん。

次の出荷の準備に来たのだ。

勿論、品物は既に準備できていて、あとは積み込みだけ。

大きい石材はムリだけど、小さなタイルくらいなら私でも運べる。

せっせと積み込みを手伝って、お父さんの背中を見送ったらもう御八つの時間。

常備甘味の飴は持ってきているけど、お昼にキッシュ以外にデニッシュも食べてしまったから、あまり甘いもの食べる気にはなれない。

普段なら工房の隅でアクセサリーとかを作って暇を潰すのだけど、残念なことに材料切れだ。

空を見るとまだ日没まで一刻はありそう。

「レミィ、もしかして今から採取にいくのか?」

「そうよユグノ。まだ暗くなるまでは時間があるし。お天気もよさそうだしね。」

「そうかいそうかい。気をつけてな。明日はどうするんじゃ?」

「明日は十五時まで学校よ、それに領主様の晩餐にお呼ばれしているの。お祖父ちゃんもくるでしょ?」

「そういえば遣いが来ていたな。勿論じゃよ。」

「ちゃんとおめかしして行くから、期待していてよね。」

「あっはっは。お前はミミィの子、めかさなくても十分綺麗じゃぞ?」

そんな軽口を交わして、私はステラに飛び乗った。


目的地はカスター川上流の河原。

カスター川の上流、といってもラン・カスター港から二百メートル程遡っただけの場所なのだが深さと広さが随分違う。(更に厳密に言うのなら、源流は遥か先である。ラン・カスターはカスター川全体の中流の町である。)

ラン・カスター港付近の深さは二から三メートルほど、幅は二十メートル程なのだが、上流は幅百メートル近い水場。

場所によっては踝程の深さしか無いところもあるけど、深い所は一メートル程で、そこは魚の溜まり場になっている。

もう少し暖かくなれば釣りごろの魚が集うスポットでもある。

石畳の道を辿って、橋の手前で脇道に逸れる。

暫く川沿いの土道を辿ると礫石が転がる河原が徐々に広がっていき、同時に水の色も深い緑から透明になってきた。

前に瑪瑙を見つけたのは上流河原の中ほど。

その付近までステラに乗って行き、ステラから降りて河原を歩く。

降り立って周囲を見渡すが、やはり人の気配はない。聞こえてくるのは川のせせらぎばかり。

転ばないように足元に気をつけながら、水磨礫が落ちていないかにも気を配った。

この前はたまたま瑪瑙が手に入ったけれども、月長石や碧玉なども見つかる可能性が高い。昔から透明水晶や紫水晶は下流の方で見つけていたし。

詳しく調査をしていないけれど、この河原は意外に穴場なのかもしれない。

「……見つけた!これは、碧玉ね。」

早速見つけたのは卵の半分くらいの大きさの不透明な碧色の石。

濁った色だが、人気は高い。磨けばなんとも言えない魅力がありブレスレットやペンダントトップにされることが多い。

それほど高い石ではないが、儲けは今は考えない。

見つけた石は川の力である程度磨かれて滑らかな指ざわり。ただ加工には難しい大きさだが、まあなんとかなるだろう。

私は見つけた碧玉を袋に仕舞った。

とぼとぼと下を向いて歩いて、たまに前を見て。

探石をすること半刻、石はおおよそ十個前後見つかった。

碧石が半分、残りは透明水晶や紫水晶、月長石が大体同量ずつくらい。

中々いい調子。

昔からそうだけど、私は『こんな石が見つかったららいいな』って考えるとそのとおり見つかることが多い。

小さい頃は透き通った石が好きだったから、紫水晶や石英結晶をよく見つけていた。


もう少し上流に行こうかな、なんて思っていたらいきなりステラが手綱を引っ張った。

「どうしたのステラ?」

ステラはぐいぐいと山側の岸に向かう。

確かにそろそろ暗くなり始めているし、帰り時なのかも…とは思ったけれどそれなら町側に引っ張っていってくれればいいのに。

しかも町から離れる上流の方に向かっているし。

上流か…たしか、今は使われていない領主別邸があったはずだけど、ステラがそこを目指しているとは思えないし、本当にどうしたんだろ?

「ちょっとステラ、少し待ちなさい……って、あれ?」

ステラが向かう先にはこの季節には珍しい鮮やかな色。

チラホラと花を付けた低木が何本か生えている。

この季節に咲く花も無いわけではないし、それだけなら別段どうってことはない。

問題はその低木の側に佇む一頭の馬だ。

白い馬が侍って草を食んでいる。山間に野生の馬なんて考えられない。

よくよく目を凝らせば手綱に鞍にちゃんと人が乗れるように設えてある。

誰かのものだというのは分かったけど、この薄暗い中でもわかる立派な白馬を持っている家は私は知らない。

迷い馬なのかな…?

「……」

馬は私とステラに気付くと、また草を食んだ…のではなく、地面の何かを突いている。

二瞬三瞬して、地面からムクリと誰かが起き上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ