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石切娘奮闘記  作者: 千夜
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昼食は活力!

昼食はまだだと言った職人三人に、持ってきたパンの袋を見せると揃って笑顔を見せた。

そう、瑪瑙のブレスレットの事で港のお父さん達に渡すのをすっかり忘れていたのだ。

でも丁度良かった。

天気も良いからとテーブルクロスを外に持ちだして適当な岩の上に敷く。

食料庫に残っていたチーズと厚切りのハムに、買ってきたパン六つを大皿に乗せて、お茶を淹れてテーブルクロスの上に並べれば立派な昼食だ。

「じゃあいただこうか、レミィ。」

「うん!どうぞ!さ、ユグノもルーベルも食べて食べて!」

「じゃあ俺はクルミパンをもらおうか。」

「どうぞどうぞ、あスライスする?」

「そうだな、頼む。」

私は用意していたナイフでクルミパンを適当な厚さにスライスし、ハムとチーズを乗せてユグノに渡した。

「おう、ありがとな。」

ユグノは嬉しそうに、にっと歯を見せて笑った。

鋭い歯は肉でも骨でも噛み潰しそうだけど、彼の好物はもっぱらパンや果実なのだ。

ユグノはお祖父ちゃんの一番弟子のドラコ人種の男の人で、私の四つ上。

生まれて間もなく、親を流行病で無くしてからお祖父ちゃんの工房で引き取って育てられた人で、殆ど息子同然。物心ついた頃から石切道具を持っていた筋金入りというか、石切職人の英才教育を受けてきた。

鉄よりも硬いと言われている鱗の肌には、岩でこすった傷が幾つもあるし、手だってそう。

マメが何度も潰れてタコになっているし、特に冬場はカサついていて、見ているだけで痛そう。

でも、そんな手が私は好き。

見かけによらず、ちょっと剽軽なところはあるけど、その腕は見かけどおり。

出荷する石の切り出しは、歳をとったアルノフお祖父ちゃんに変わって殆どユグノが取り仕切っている。

『石材の町・ラン・カスター』をその両手で支えてくれているのだ。

「やっぱりオーガスタさんのパンは旨い。また色々持ってきてくれよ。」

「勿論よユグノ。さ、ルベールも食べて。」

「いただきますお嬢様。じゃああっしはデニッシュ貰いますね。」

末弟子のルベールは一番甘いデニッシュに手を伸ばした。

彼は去年からこの石切工房に来た男の人で、私の一つ上だ。

アルノフお祖父ちゃんの弟子は長らくユグノ一人だったし、周囲も彼だけだと思っていた。

だからこのルベールが工房に受け入れられた時、町はその噂で持ち切りになったのだ。

「ああ旨い、労働の後の甘物はまた格別ですな。」

デニッシュを一口食べてはお茶を飲み、また一口食べては…を繰り返す。

お茶を飲んだ後は至福の溜息のオマケ付き。

「もうここには大分慣れたようね、ルベール。」

「ええ、お嬢さん。お陰様で。ここはいいところですよ、空気は旨いし、食べ物は美味しいし、それにイイ石材に可愛い女の子!オルフェニームよりもよっぽど居心地良いですよ!」

そう、ルベールはオルフェニームからやって来た、所謂『都会人』なのだ。

田舎から都会に出ようと考える人は多くても、逆は少ない、というか殆どない。

というわけでルベールはかなり珍しい、かなり変わった男なのだ。

勿論町の人はみんな警戒した。もしや良からぬことを企んでいる輩なのでは…と。

でも『さる信頼出来る人物からの紹介状』なるものを持っていたためお祖父ちゃんもユグノも快く弟子入りを承諾したのだとか。

町でもかなり信頼を得ている職人・アルノフが良いと言うのなら…とルベールは町の人から受け入れることとなったのだ。

「あら、でも女の子はオルフェニームのほうが、オシャレで可愛らしいと思っているのだけど。」

ルベールはあはは、と笑ってもう一杯お茶を飲んだ。

「ま、確かにここの子達はちょいと化粧っ気が足りやせんけど、あっしとしてはその方が好みでさあ。」

「ふうん?そういうものなの?」

「そういうもんでさ、お嬢さんだって、お友達と違うでしょ?好きな男の子の好み。」

あ、お祖父ちゃんとユグノの耳が動いた。

全く、誰も彼もこの手の話題が本当に好きなんだから。

「ええ、そうね。でも私は今は色恋沙汰よりも商売の勉強よ。いい商品を見極める目を持ったほうが、いい男も見極められるでしょ?」

私はほうれん草のキッシュを手に取って口に放り込んだ。

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