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石切娘奮闘記  作者: 千夜
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運命の朝はいつもどおり

主人公が自分の夢を追い求めて行動する物語を目指します。

誤字脱字は都度訂正いたしますので、寛容な心でお読みくだされば幸いです。

どうかよろしくお願いいたします。

メイドのマリィのノックで目を開ける。

本当は少し前から目が覚めていたのだけど、どうしてもこの毛布がくれる温もりと別れがたくて、微睡んでしまう。

もうすぐ雪解けが始まる季節、とはいっても寒いものは寒い。

明け方ともなると、手を洗いに行くのだって憚られてしまうくらい。

「お嬢様、お時間ですよ。」

ノックが三回。そしてガチャリとドアが開く。

「起きているわよ、マリィ。おはよう、今朝も寒いわね。」

「おはようございますお嬢様。でも今日はいい朝焼けでしたわよ。お昼にはきっと、暖かくなりますわ。」

「相変わらず、朝が早いのねマリィ。もう少しゆっくりしてもいいのよ。」

「いいえお嬢様。ラーネッド家のメイドたるもの、ご主人様方にご不満があってはいけません。特に、お召し物の準備には念を入れなくてはいけませんから。」

私の方をチラリとみる。

あ、ばれてる。

実は一昨日、庭の木に上ってスカートの裾を破いてしまったのだ。

こっそり縫い合わせようとベッドの下に隠しておいたのに、見つかっていたみたい。

「あの、お父さんには…」

「心配せずとも、内緒にしておきますわ。ああでも、奥様はご存じですよ。」

私は安堵のため息を吐く。

お母さんなら大丈夫だ。

昔からそうだったけど、お父さんはなにかにつけてやれ淑女だの行儀だのおしとやかにだの言ってくる。

「最近本当に目くじらたてて怒るもの。悪いことしている訳じゃないのに。」

「それはお嬢様が『年頃』になられたからですよ。やはり年頃の令嬢というのは、木に上ったり、山を駆けたりはしませんのよ。」

「そうね、スカートの中身が見えては大変だものね。」

「それも大変ですが、私は普段の立ち振舞いの事を言っておりますの。ああでも、お食事や祝賀会のお行儀は素晴らしいですわ。都会の令嬢でも、あれほど粗相ない方は珍しいですわ。」

「その珍しさに免じて、少し遊ぶくらいは目を瞑ってほしいわ。」

自慢ではないが、私は基本的な行儀や礼儀はこのマリィのお陰で身に付いている。

ダンスだって、マリィとその旦那さんのエドワフのおかげでバッチリだ。

マリィとエドワフは、お父さんがこの街、ラン・カスターにやって来たときに一緒についてきたメイドとバトラーの夫婦だ。

都会育ちらしく、言葉遣いや立ち振舞いは綺麗なもので、私が小さい頃は礼儀作法の教育係として奮闘した、らしい。

私はそのことを覚えていないのだけど、食事の時の食器の使い方とか、領主様の邸宅で度々開催されるダンスパーティーの時に自然とステップを踏めることを考えると、やはりみっちり仕込まれたのだろう。

まあでも所変われば水も変わるというもので、長年この街にいることと、歳を取ったことで二人の雰囲気も言葉もずいぶんと柔らかくなったという。

で、お父さんもそうだと思いきや、そんなことはない。

言葉遣いはいつまでたっても気取っているし、私が馬に乗ったり、川に浮かぶボートの上を飛び渡ったり、木に登って遊んだりすると小言を行ってくる。

最近は特に。


顔を洗う準備が出来たのを見計らって私は寝台から降りた。

起毛のキルトスリッパはこそばゆいけど、毎朝その恩恵に預かっている。

足元寒いと、体が冷えちゃうものね。

後頭部に手を伸ばすとぴょこりと跳ねた寝癖が指に触る。

お母さん譲りの青黒い艶やかな髪の毛を受け継いだのはいいけど、少し癖っ毛なのはお父さん譲りだ。

目の色は、お父さんと同じ緑色。こっちは気に入っているけど、髪の毛はそうもいかない。

毎朝、その癖っ毛を直すのは大変なのだ!

勿論、こんな私だって髪の毛の事となると話は別よ。年頃の女の子として、毎朝ちゃんと整えているんですから!


私は井戸から汲み上げた冷たい水を、まだ完全に開きたくないと駄々をこねる瞼に叩きつけた。

数回繰り返して身体に残っていた睡魔を完全に追い出す。

うん、もう眠くない。

「今日のご講義は、午前中だけでございましたわね。お召し物は、いかがなさいますか?」

マリィが服を二種類、私の前に掲げる。

一つはウールのミディアム・ワンピース。

胸元に小さなリボンがついてる、綺麗なグレーで上品なデザインで結構私好み。

もう一つは綿のブラウスに、キュロットスカート。裾の広がっているのが本来の形だけど、これは特別製。

裾にリボンが付いていて、足首で絞ることができるのだ。

今日は『お仕事』があるから、後者を選ぶ。

髪型も、それに似合うように三つ編みにしてシニヨンスタイルに。

寝癖も隠れてとてもいい感じ。

「どうかしら、マリィ」

姿見の前で一回転して見せる。

マリィはにこりと笑って答えてくれる。

「とてもお似合いですよ。奥様のお若い頃にそっくりですわ。」

お転婆な娘の、運命の一日が始まります。

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