冒険者たちの戦い
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7/29 改稿しました。
しばらく走って日が暮れた頃、僕たちはキャンプの準備を始めた。
アニータさんの作るおいしいごはんを食べてミーティングをしている。
ちなみに今日のメニューは野菜と塩漬け肉に調味料をかけてサッと炒めたものだった。
調味料がちょうどいい感じでピリ辛で非常に食が進んだ。
「今日までは運良く魔獣に出会わなかったが、明日は一番魔獣と遭遇する確率の高い地域を抜ける。各々しっかり装備の手入れをしておけ。ま、運が良ければ何とも出会わずに抜けれるけどな」
「あの、魔獣が出たら僕はどうすればいいですか?」
僕は魔獣なんかとは戦ったことがない。そのため、戦力になれるかどうかわからなかった。
「正直、お前くらいの魔力があったら魔獣はおろか幻獣とも戦えそうな気がするんだけどな・・・戦ったことがないんだったらしょうがない、後衛であるイヨの隣にでもいとけ。ただし、イヨの邪魔になるなよ?」
「ラジャー」
なんか役に立ちけど、こればっかりはしょうがないか・・・
「大丈夫っ、大体の魔獣はタンカーのサトシさんが引きつけてくれるからねっ」
そういえば、タンカーってなんなんだろう?
気になった僕はサトシさんに尋ねる。
「サトシさんはタンカーでカイルさんはアタッカー、アニータさんは射撃手でしたっけ?アタッカーと射撃手は何となく分かるんですけれど、タンカーってどういう役割なんでしょうか?」
「タンカーは魔獣を倒すことじゃなくて、魔獣の注意を引くのが主な仕事だ。魔獣の攻撃をいなし、受け流すことで味方に振りかかる火の粉を振り払う。ま、相手に隙がありゃ仕留めるけどな」
つまり、パーティーの防御の要ってことか。
「それって、かなりキツイ役割なんじゃ・・・」
「そうだなぁ、たいていのやつはそう思うだろうが、俺は防御が得意だからな。この役割を誇らしく思っている。キツイこともあるが嫌になったことはないな」
サトシさんマジカッコイイ。
「サトシが敵を引きつけてくれてる間にアタイとカイルで敵の数をどんどん減らすって寸法さ」
なるほど・・・。さすが高ランクの方々、コンビネーションはバッチリなようだ。
「よし、ちょっと今から俺は寝る前の哨戒をしてくる」
そう言い、サトシさんは出かけていった。ちなみにカイルさんはもう寝てる。自由な人だ。
サトシさんが哨戒に出てから、アニータさんがふと思い出したように質問をしてきた。
「そうだカムイ。アンタ、渡した短剣に刻まれてるルーンの使い方ってわかるかい?」
「いえ、すいません。わからないです・・・」
よく考えたら僕ってどうやって刻印魔術を発動すればいいのかって聞いてないじゃないか。
「とはいっても使い方は簡単さ、そのルーンに魔力を流せばいいんだ」
「ルーンに魔力を流す?」
「そうさ。ま、とりあえずいっぺんやってみな。ダメだったらコツを教えるよ」
じゃあ・・・このナイフに直接魔力を与える感じのイメージでいっぺんやってみよう。イメージしやすいし。
右手に持つナイフも自身の体だとイメージしながらオドを少し活性化する。
するとナイフから大きな炎が立ち上った!
「うわっ!」「きゃっ!」
近くにいたイヨも驚かせてしまった。
「こいつぁ・・・アンタ、いったいどんなイメージをしたんだい?」
「このナイフも自分の体の延長だというイメージでやってみたんですが・・・?」
「アッハハハハハ!こいつぁすごいねぇ!」
「ねぇ、カムイくん、その話本当?」
アニータさんが爆笑して、イヨがオロオロしてしまってる。
「え?え?なんかやっちゃいましたか?」
「そのイメージだとアタシがやったら2回も使ったら魔力切れになっちまう。サトシやカイルだと発動もできないだろうねぇ」
「わたしは3回発動できるかどうか、だよ」
「そうなんですか?」
「あぁ。本来は片手を添えたりして、ここの文字にだけ魔力を流すイメージでいいんだ。あんたがやったのは武器への【魔力付加】と言って、上級魔術だよ!」
なんだと・・・!?
「武器に魔力を与えるのって、そんなに難しいんですか?」
「あぁ、【ファイア・エンチャント】みたく一回炎とかの現象にしてから武器に付加するのは意外と簡単なのさ。マナの力も借りれるからね。でも【魔力付加】は純粋にオドだけを武器に流し込まなきゃいけない。魔力消費量がすごすぎて、ヒューマンやエルフが最高の一撃が欲しいときにしか使わないのさ。」
「最高の一撃?」
「そう、【魔力付加】された武器の攻撃力はただ炎や雷を纏わせた武器の攻撃力を遙かに上回るんだ。だから近接武器を使って戦うヤツらの切り札的な魔術ってワケさ。ヒューマンなら1回は発動できるからね。アンタ、オドはどれくらい減ったんだい?」
「ほんのわずか、ですね」
「・・・末恐ろしいねぇ。まぁ、そのナイフを使えば、【魔力付加】した時に武器に炎がおまけされるってわけだ。うまく使いなよ?」
「色々ありがとうございます」
そう言うとアニータさんは立ち去っていった。
これと【身体強化】を使えば自衛くらいはできるかな?
寝る準備をしているとイヨが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、カムイくん?」
「なんだ?」
「寝る前にちょっとだけカムイくんがいた時代の話を聞きたいな」
「しょうがないな・・・ちょっとだけだからな」
そうして僕は通っていた高校の話をした。友人とバカやってたこと、授業がめんどくさかったこと、バイト帰りに飲むジュースが美味しかったこと。イヨは目をキラキラさせながら僕の話を聞いてくれている。
「よし、今日はここまでだ。そろそろ寝ようぜ」
「うんっ」
テントに入り、寝転がっているとさっき話をしていたことを思い返して、少し、寂しく感じてしまった。
でも、僕はここで生きていかなければいけない。そう再び決意を固めた頃、襲いかかる睡魔に身を委ねた。
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「おはようございます、遅くなってすいません」
テントの中で顔を濡れたタオルで拭いて、外に出ると皆が揃っていた。どうやら今日は僕が一番遅かったみたいだ。
「気にするな。俺たちもさっき起きてきたばっかりだ。」
良かった、寝坊したというわけではないようだ。
「じゃあ、飯食ってとっとと出るぞ」
「はい」
朝食は軽めにパンと野菜スープだった。
「もぐもぐもぐもぐ」
相変わらずイヨはすごい勢いで食べてるな・・・
僕は朝食を胃に収めると出発の準備を整え始めた。といってもそんないやること無いけど。
みんなが車に乗り込んだところで
「よし、全員準備はいいな?出発するぞ!」
サトシさんの一声がかかり、僕たちは出発した。
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1時間ほど走ったところで、助手席に座っていたサトシさんが何かを発見したようだ。
「カイル、止まれ!」
「どーしたの?」
「正面をよく見ろ、狼型の魔獣が10匹位歩いている」
「ま、魔獣ですか!?」
なんて運が悪い・・・。確かに、目を凝らして見てみると狼っぽい影が群れをなしていた。
「うえっ、狼型かぁ・・・振りきれないね」
「あぁ、下手に追いつかれて車ごと失うことになったらかなわん。それにだ、どうやらあちらさんはやる気満々なようだ」
「気づかれてるっぽいねー」
「全員外に出ろ!カイル、アニータ、イヨ!戦闘準備だ!」
「「了解!」」
「カムイ!【身体強化】は発動しておけ!お前なら狼型からでも逃げ回れるはずだ!」
「はい!」
外に出ると、土煙を上げて狼型魔獣が迫ってきた。
「Cランク級の狼型魔獣だ!1頭1頭確実に仕留めるぞ!」
そう言いサトシは盾を構え、ブロードソードを持って一番前に出る。
「【身体強化】!【プロボーク】!さぁ、かかって来い!」
襲ってくる魔獣の群れに向かって【身体強化】と挑発の魔術を発動しながらそう叫ぶ。
先頭を走っていた狼がサトシに牙を向いて襲いかかる!
しかし、サトシにはその動きは見えていたようで冷静に盾を使って狼の体を横に受け流す。
受け流され、よろめいた狼に向かって瞬時に動き出したカイルの白刃が狼の胴を2つに割る。
「これで1匹だ!」
「気ィ抜くなよ!まだまだ居るんだからな!」
サトシがカイルに意識を向けた瞬間、後ろから銃声が聞こえる。
驚き、正面を向いたサトシが見たものは己の近くに居た狼の死体だった。
「アンタも気を抜くんじゃないよ!サトシ!」
「すまねぇ、助かった!」
答えた直後、3方向から同時に狼が襲ってくる!
サトシは冷静に正面からくる狼の攻撃を受け流す。
右方向から来る狼に対しては、タイミングを合わせて拳を打ち付けることによる打撃攻撃で怯ませる。
左から来る狼の爪はサトシに届く前に既に胴体ごとカイルに切り捨てられている。
正面の狼にサトシは剣を振り下ろし両断し、サトシが怯ませた狼の額にはアニータの正確な射撃が襲いかかり、その頭を容赦無く破壊した。
そして、後方のイヨから前で戦う人たちに声が掛かる。
「準備、出来ました!」
「一気に仕留めるぞ!カイル!防御魔術を発動するから近くにこい!」
「了解!」
「【堅牢陣】!こっちはオッケーだ!」
サトシが残る魔力の半分ほどを使って防御魔術を展開し、イヨに合図を送る。
「いきますっ・・・【トルネード】!」
イヨの発動した風の上級魔術が残りの狼を取り囲み、暴風を巻き起こす。
「コレで終わりだよ!【フレイムレイン】!」
狼たちが身動きをとれないでいると、上空からアニータが発動した魔術による炎が降ってきた。
イヨの【トルネード】とアニータの【フレイムレイン】が相乗効果により炎の嵐となって狼たちを焼き尽くした。
(イヨってすごかったんだなぁ)
カムイはそう思い、イヨの方を振り向く。
すると、イヨの後ろの地面からモグラらしき影が顔を出し、今にもイヨに襲い掛からんとしていた。イヨは戦いが終わったと思っているのか気を抜いていて背後の魔獣には気づいていない。
(イヨはアレに気づいていないっ!?ックソ!)
カムイは舌打ちすると同時にイヨに襲いかかろうとしている魔獣に向かって走りだす。
(【身体強化】にかけるオドを追加!さらに【魔力付加】!間に合ってくれよ!)
炎が煌めくナイフを持ってカムイは全力で魔獣に向かって走りだす
「っらあああああああ!」
気合と同時にナイフを魔獣に向かって振り下ろす。
カムイが手応えを感じた瞬間、魔獣の体から炎が上がり燃え尽きる。イヨはカムイが凄まじい速度で走ってきたため尻餅をついてしまっていたが、状況をすぐに理解すると
「ありがとう・・・カムイくん」
と照れながらカムイにお礼を言った。
戦いが終わると、さっさと車に乗り込んで出発した。
「にしてもカムイ、良くお前イヨの背後の魔獣に気づいたな。」
「たまたまですよ。間に合ってよかったです。」
「あのタイミングで間に合うってのは流石だねぇ」
「カムイくん、ほんとーにありがとっ!」
イヨが僕の手を握ってぶんぶん振り回してお礼を言ってくれる。
「イヨは戦いが終わったと思っても気を抜かないようにしないとね」
カイルさんがサクッと言うと
「う、はい・・・」
しゅんとしてしまった。
「ま、今回は生き残れたんだ。次から気をつけろ。」
「はいっ!」
元気よくイヨが答えた瞬間、車内が笑いに包まれた。
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更に走り続けること約2時間、あの狼型魔獣の群れ以外の魔獣には出会わなかった。
「お、見えてきたぞ」
「あーっトウキョウだー!見てみてカムイ君!」
おお、ついにトウキョウにきたか!
「あれがトウキョウかぁ」
そうして僕たちは無事、トウキョウに到着した。
補足:プロボークは一時的に敵の注意を引きやすくする魔術です。
ここで1章終了です。
5/23 サトシさんが使った防御魔術の名称を変更しました。